眩しい赤光を放つ落日。鳴り止まぬ蝉時雨。遠い、遠い日の記憶。
思い出すのはいつも、学校の風景だ。大切な友人と長い時を過ごした校舎。静寂に包まれた、冷たい校舎。
思い出すのはいつも、高校の校舎だ。しかしそこにいるのは高校の友人ではなく、何故か中学までの友人たちである。
夕日が校舎を紅く染めて、その中を走った。懐かしい、ぞっとするほど懐かしい記憶。
私は絢爛な装飾が施された葉書を眺めた。それは、同窓会の開催を知らせる葉書。
葉書と同じく、美しい装飾の封筒の中には、参加・不参加を知らせるための紙も入っている。
「……くくっ」
私は薄い笑みを浮かべ、喉の奥を鳴らした。
思い出すのはいつも、落日の風景だ。
眩い赤光を突き刺す落日。微かな雪の音。眩むような赤光を届ける落日。薄桃色の桜吹雪。惑うような赤光を注ぐ落日。踏みしめる紅葉。
落日に突き刺された子供たちは、もう忘れてしまっただろう。ぞっとするほど懐かしい記憶、自分だけが憶えている記憶。
夕闇が近付く校舎の中、鬼はずっと捜し続けた。後ろから薄暗い影に追われる中、鬼は一人の少女をずっと捜し続けたのに、見つからなかった。でも、消えたはずの子供は帰って来た。それも全て、私だけが憶えている。
私は[参加]に黒いボールペンで丸をつけると、満足げに微笑んだ。
*
「七年ぶりだね」
不意に声をかけられて、僕は振り返った。
楽しそうな笑みを浮かべた女性が、ひらひらと手を振って立っている。右手はセンスの良い、黒いコートのポケットに突っ込まれたままだ。
「零、」
「その名前はやっぱり響きが良いなぁ。私は大好きだった。イチを除けば、中学を卒業してから一切呼ばれていないから、これもまた七年ぶりだ。……いや、夏婁とは高校一年のときに一回会ったから、六年ぶりか。夏婁は成人式に参加しなかったもんね」
「樹も用があって行けなかったんだろ? ヨシュアも、イチも、柏木さんもいなかったって聞いた」
「仲良かった奴の中では、私と柊花ちゃんだけだったね」
零。僕の女友達の一人。かなり個性的で変わった子だったけれど、男子にも女子にも気兼ねなく話す良い奴だった。
因みに零というのは、僕がつけたニックネームだ。
零はあの頃と変わらぬ長髪をなびかせながら、こちらに近付いて来た。横に並んで、一緒に歩き出す。
「しかし、まさか小学校の同窓会が開催されるとは思わなかった」
「確かに。でも、私は小六のクラス好きだったから、嬉しいけど」
「僕もだよ。そうじゃなきゃ来ないし」
「でしょうね」
捌宮小学校六年三組の同窓会。それを知らせる葉書に明記してあった店に行くと、大部屋に案内された。襖を開けて中に入ると、もう既に二十人以上が集まっている。
「お、やっと来たか。久しぶり!」
「よっす」
「久しぶりー!」
「二人揃ってご登場か」
口々に声をかけられる。完全に宴会ムード、既に酒を飲んでいる者もいるようだった。
「夏婁、零、こっちこっち」
不意に聞き覚えのある声で呼ばれて、僕ら二人は呼ばれた方向へと近付く。
「樹か」
「久しぶりだな。お前らの分空けておいた」
僕の親友だった葛原樹が、とんとんと指で座るよう指示する。テーブルには、かつて仲の良かった懐かしいクラスメイトたちが座っていた。
「零ちゃん、良かった。遅くて心配したんだよ」
零の親友、今井柊花。その横には、零の幼馴染の梨木一。更に、東堂穆矢や柏木帷も座っていた。
皆それぞれどことなく、顔立ちや雰囲気が変わっていた。僕たちは、大人になったのだ。
「本当に久しぶりだね。ほとんど、高校以来の奴ばっかりだ」
「俺も、零以外は中学卒業ぶりだよ。零とはずっと連絡取り合ってるけどさ」
コップに注がれた烏龍茶を飲み干し、梨木一―――イチが呟く。幼馴染の縁はまだ切れていないらしい。この二人は一生この関係を続けていくような気がした。
「俺はこの前柏木さんとは会ったけど。ね、柏木さん?」
東堂穆矢―――ヨシュアが、同意を求めるように柏木さんを見つめる。柏木さんは「そうね」と小さく頷いた。
「凄いな。二人とも実家を離れているのに、会ったのか」
「ヨシュアは一人暮らし、柏木さんは大学の学生寮だよね?」
「うん。たまたまね。夏婁も樹も一人暮らしだっけ?」
「ああ。地元を離れてないのは零とイチだけだろう」
樹の言葉に、そうだったなぁと思い出す。他のクラスメイトたちも、自分と同じように地元を離れたものがたくさんいるし、転校した者もいる。ここに六年三組全員はいない。不参加の者、連絡のつかなかった者、多数いるだろう。これだけの人数が参加しているのは、なかなか凄い事だ。
改めて、騒いでいる元クラスメイトたちを眺めた。皆、変わったようで変わっていない。あの頃も今も、仲の良い六年三組のままだ。
「不参加の人、少なかったんだな。三十人近くはいるよね」
僕の思考を読んだかのように、零が言った。
「確かに地元を離れていない人は俺ら以外にもいるだろうけど、かなりの数が離れているのにな」
「まあ、まだほとんどの人が大学生だし。集まりやすいよね」
イチと今井さんに、僕も同意する。
「ともあれ、喜ばしい事だ、こんなに集まれたっていうのは。何せ、小六のときのクラスメイトだし、懐かしい事この上ないっていうか」
樹の言うとおりだった。僕はあまり感慨深い事を思うタチではないが、それでも懐かしいと思う。こうして、古い友人たちと久しぶりに会えるというのは、幸せな事だ。
「さて、参加者全員集まったようなので、これから同窓会を始めます。各自飲み物を注いで、乾杯するよ!」
委員長だった女性の声に、歓声が沸く。
旧友の顔を暖かい気持ちで見つめながら、僕も酒を注いだ。
...弐に続く
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