死体を見つけてから一週間が経った。そろそろ僕の嫌いな夏祭りが各地で始まるな、と思いながら、厄介な自由研究という巨大な壁を壊すために僕は図書館へ向かった。
あれから樹たちには会っていない。この一週間、零やイチや今井さんは勿論、樹からすらも連絡がなかった。零はともかくとして、他のメンバーはショックが抜けきっていないのだろうか。
(樹は大丈夫かな)
魂の抜けたような感じだった樹。あれから会っていないからどんな様子なのかわからない。
「あれ? 何してんの、こんなところで」
不意に後ろから声がして、僕は思わず勢いよく振り返った。
「なんだ、零か」
「なんだ、とは失礼だな。で、何してんの?」
「自由研究やるために図書館へちょっと」
「ああ、なるほどね。私もう終わっちゃったけど」
「早っ」
他愛もない会話だ。まるで一週間前に死体を見つけた事が嘘のよう。
「私も暇だし図書館行こうかな。今読んでいる本も読み終えそうだし」
「じゃあ、一緒に行こう」
そういえば見た目に反して零は読書家なんだよな、
「樹に会った?」
「え、……いや、会ってないけどなんで」
「いや、ね。さっき見かけたんだよ。声かけようかと思ったんだけど、猛スピードで自転車で行っちゃうし、なんか喋りかけづらいオーラ出してるし、かけられなかったんだけど。後から思って驚いたんだけどさ、走っていった方向は明らかに古谷の森の方角だったんだよな」
「え……ほんとに?」
「なんでこんな事で嘘言うわけ? まあ驚くよね、だって樹が一番ショック受けているように見えたのに、また森に行くなんてさ。私も行きたいけど」
付け足された言葉はともかくとして、確かにその通りだった。樹はショック―――かどうかはわからなかったけれど、死体を見て衝撃的な何かを受けていたはずだ。僕や零だって見に行こうとしていないのに、まさか樹が。
「でも、森の方向ってだけだろ? 森に行ったんじゃないかもしれないし、何か森に忘れていった物があって取りに行ったのかも」
「その可能性はあるけどね。でも、私はそうは思わない」
相変わらずはっきりとした言い方だ。何の根拠もなく、自分の意見を絶対突き通してくる。
(ほんと、変わってない)
「樹、もしかすると――――」
ぼそっと呟いたその言葉に、僕は返事をする事が出来なかった。
*
図書館へ行き自由研究に役立ちそうな本を見つけて借りた後、僕は零と別れて古谷の森に向かった。森に行くため、というよりは、樹に会うため。
(鉢合わせ出来たら奇跡だな)
零が樹を見かけたと言ってから随分経っている。
(それでも―――少し見てみたいんだ)
ずっと変わらなかった僕ら。でも樹に変化が訪れている。徐々に、希薄になっていく樹。
「あ」
森に行く一本道。幅広で、前と同じく陽炎立ち昇る道路の向こう。ぼーっとのろのろ自転車を漕ぐ少年。
「樹、」
どんどん僕の方向へ近付いてくる。徐々に西へ傾いていく太陽を背に、樹が、のろのろと。
「樹?」
樹は僕に見向きもせず、通り過ぎていった。
(気付かなかった―――わけないよな、)
だって、樹は真横を通り過ぎて行ったのだ。
僕は思わず振り向く。ゆっくりと薄暗くなっていく空の方向へと、樹は消えて行った。
(零の言ったとおりかもしれない)
『樹、もしかすると――――』
『あの死体に、魅せられているのかもね』
……あの、死体。死体をじっと見ている樹。意味はよくわからない、だけどまさしくその姿は――魅せられた人間の姿。
(樹―――、)
僕らは間違った選択をしたのだろうか、と思った。
死体を警察に届けるべきだったのか。
あんな奥まで進まず、途中で引き返すべきだったのか。
森に行くべきではなかったのか。
(まあ、いいか)
僕は思考を振り払い、そのまま来た道を引き返し
(考えても、無駄なんだ。なるようになればいい)
変化は誰にでも訪れる。その変化は他人にも自分にも止められない。
(そのきっかけが死体だったってだけの話じゃないか?)
だがそう思っても、僕の中から不安要素は消えなかった。
...ⅴに続く
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