―――その夏、僕らは死体を見つけた。
*
じりじりと、暑苦しい太陽の光と蝉の声が僕らを突き刺す。
アスファルトから陽炎が立ち昇る中、僕は眼の前を悠々と自転車で走り続ける背中を眺めた。
親友であり、同じ六年三組のクラスメイト、葛原樹。自転車を漕ぎ、汗を垂らしながらも楽しそうに走り続ける彼の姿はまさしく小学生で、僕を複雑な気持ちにさせた。彼は来年も、こうして炎天下の中、楽しそうに自転車を漕ぎ続けるのだろうか。
僕の後ろには同じく六年三組の女子、零とその親友の今井さん、そして零の男子友達であるイチが続いている。
一列で自転車を漕ぎ続ける小学生たち。向かう先は―――古谷の森。
*
夏休みというものが、僕はあまり好きじゃない。夏休みだからと言って騒ぎ立てるクラスメイト共が好きじゃないし、何より暑いのは苦手だ。
蝉もスイカも海も嫌いで、夏祭りもあの喧騒さとうだるような熱気が大嫌いだ。
だというのに、どうして僕は今、夏休みを満喫しているんだろう。
何度拭っても噴き出してくる汗、背中に張り付くシャツの気持ち悪い感覚、耳から離れない蝉の鳴き声、アスファルトから立ち昇る陽炎、そして夏休みには欠かせない友人たち。夏休みの代名詞ばかりが揃っている。
古谷の森に行こうと言い出したのは、樹だった。
古谷の森はこの町の外れにある、鬱蒼とした森だ。本当は名無しの森だが、いつの間にか古谷の森と呼ばれるようになっていた。この町は田舎というほど田舎なわけではないが、この森を見る限り、緑に
まだ人の手を入れていない状態の森は若干不気味で、危険だから決して入らないように、と言われている。実際、あまり近付きたくない雰囲気を放っているため、ルール破りが大好きな小学生(特に五、六年生)ですらも足を踏み入れない。
そんな場所に、どうして樹は行こうと思ったんだろうか。建前は「探検をしてみたいから」と「小学生最後の夏休みを満喫したいから」だったけど。
それについて来る僕らも僕らだが、それはまあ暇だったから、というのが六割の理由で、残り四割は樹を気に入っているから、だろう。
「そろそろ着くぞ!」
樹の明るい声で、僕は思考回路から一旦抜け出した。あまり考えすぎると気持ち悪くなる。
「あそこに自転車止めようぜ」
入り口、というほど整ったものではないが、まあそこから入れるだろうというところの付近を樹は指差した。さすがに森の中じゃ自転車は無理だ。
「全く、面白くなかったらあとで蹴るからな、樹」
疲れたように零が樹に言った。確かに、息をするのもダルくなるくらい暑い日に駆り出されたのだ、楽しくなかったら僕だって承知しない。
「大体、探検って何するんだよ?」
零の言葉に重ねるように言ったイチの言葉に、樹はニヤリと笑った。
「実はこの森の中に古びた屋敷があるって噂なんだよ。聞いた事ないか? それを俺は見てみたいんだよ! 大丈夫、絶対面白いって。何せ幽霊やら妖怪やらが出るって噂だし、単純に面白そうだろ? 初めて入るところが面白くないわけがない!!」
いつもながら自信たっぷりである。
(というか、そんなに森の噂あるのか……)
「その噂、ほんとなの? この町の人で古谷の森に入った事のある人なんて、片手で数えられる程度しかいないと思うけど……」
今井さんの最もな意見。だが正直、幽霊や妖怪が出たり、謎の屋敷があったりしてもおかしくない雰囲気ではある。
「そうだ、確かにその通り! 所詮はただの噂だ。だからそれが本当なのかを確かめに行くんだよ! 噂が真実か否かを確かめる。これこそ探検の醍醐味ってもんだろ」
「まあ……確かに面白そうかも」
零の賛同に、今井さんやイチも小さく頷きあう。その様子を見て、樹は満足げに笑みを零した。
「じゃあ満場一致で古谷の森探索開始! 良いよな?」
全員の視線が僕に向く。
「ああ、勿論。そうじゃなきゃここまでついて来てないよ」
僕の言葉に、樹の表情の輝きが増した。
(実際のところ、僕も実はここには来てみたかったしね)
全員の賛同を得て、樹はくるりとターンし森を真っ直ぐに見すえた。
「それじゃあ、行こうか」
―――こうして僕らは、古谷の森に足を踏み入れた。そしてそこで、幽霊や妖怪なんかよりも衝撃的なものを見る。
...ⅱに続く
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