樹とは小学校三年生の頃からずっと同じクラスの親友だ。明るくリーダー的存在で人気者。運動神経が良く、成績優秀ではないが頭の回転が速くて悪戯好き。先生受けも良くて、重宝される存在。
だが、僕は知っている。樹はどこか危ういところがある。具体的に何が、と言われても小学六年生の僕の語彙では表す事が出来ないけれど、樹はどこか脆い部分があるのだ。
「相変わらず元気だよね、ほんと」
イチと今井さんに挟まれて楽しそうに歩いている樹の背中を見つめながら、零は言った。
「そうだね」
「意外と森ん中、涼しくて良かったよね。まあそれでも暑いけど」
「やっぱり陽の光が入って来ないから、だろうね。暑いけど」
暑いけど、なんて言っているが、隣を歩く零は全然汗をかいていない。僕も樹たちも汗ダラダラで、背中なんて汗で濡れすぎて張り付く感覚すらなくなってきた状態だというのに。
「もう、小学校も卒業か……」
ぼんやりと零が呟く。
「どうせ何も変わらないし、中学生なんて大した事ないんだろうね」
「そんなの、僕にはわからないけど」
「相変わらず素っ気無いなぁ。樹もお前も、全然変わらないんだから」
「零もね」
―――幼かった樹の姿が思い浮かんだ。小学三年生のとき、初めて口を開いたあのときから、全く何も変わっていない。
「おーい、分かれ道だぞ!」
不意に樹の大声が聞こえて、僕と零は揃って前方を見た。
「どっちに進む?」
確かに、二股に道が分かれていた。真っ直ぐ進む道と、枝分かれしたかのような細い道。
「俺的には、探検らしさを求めるならそっちの細い道を行くべきだと思うんだけどどう思う?」
「いやもうそっちで良いよ。細い道行きたいんだろ?」
呆れたようなイチの言葉に、ニカッと樹は笑った。全く、判りやすい奴だ。
「じゃ、こっから細いし薄暗いし、気をつけて進めよ」
「ラジャー」
ずんずん進んでいく樹の後ろに、自然と一列になって続く形に変わった。樹、僕、零、今井さん、イチ、の順番だ。
「なあ、樹」
後ろで喋っている零と今井さんとイチの会話を聞き流しながら、僕は樹の背中に向かって話しかけた。
「なんでここに来ようと思ったの?」
木々の間から差し込む弱々しい光が、薄い影を作り出している。不気味なだけではない、どこか非日常のワンシーンのような、日常とかけ離れた森の中。
呑み込まれそうだ、と僕は思った。だが、すぐに思いなおす。呑み込まれるのは僕のような人間ではない。例えばそう、まさに―――樹みたいな人間だ。
「探検したかったんだよ。言っただろ? 小学生最後の夏休みの思い出作りだ」
「……」
「単純に、本当に、それだけの理由。たまにはアウトドアな夏休みも良いだろ? インドアさん」
思わず苦笑が零れる。確かに僕は、完璧なまでにインドア派だ。夏休みの間は、特に。
「……なんたって、最後の夏休みだからな」
そう言った樹の声は、妙に冷めて聞こえた。
*
僕は小三のときに、この町に引っ越して来た。三年二組の男子の中で、一際輝いていたのが樹だ。樹は真っ先に僕に声をかけてきて、そして僕らは親友になった。
「ずっと続いてるね、この道」
後ろにいる零たちと違って、黙々と歩き続けていた僕と樹だが、流石に一時間も歩き続けて黙りこくっているのも親友としてどうかと思ったので、僕は口を開いた。正直歩くのがダルすぎて声を出すのも面倒だったのだが、この沈黙に耐えられるほど僕も人の道を外していない。
「屋敷とか、なさそうだけど」
「…………」
樹は返事をしなかった。
(おかしいな)
いつもなら、「うるせーよ、見つからないのも探検の醍醐味だろ!?」とか言うところだというのに。
(さすがに樹も疲れて来たか?)
「やっだなあイチ! 馬鹿でしょそれは!」
「うるさいな、さっきから馬鹿とか言いすぎだろ!」
「あはは」
……後ろの三人は凄く元気だけど。
「あ!」
「? どうかし、」
「家がある!」
「え、マジかよ」
「本当にあったんだ……!」
ずっと樹の背中を見ていたから気付かなかったが、前方に古びた家が建っているのが見えた。屋敷と言うほど大きくは無いが、小屋よりは立派だ。屋敷のような外観はそのままに、小さくしたような感じ。ただし、建ってから長い年月が経っているのだろう、かなり脆そうだった。
「屋敷、って感じではないね」
「だけど幽霊が出そうな雰囲気はある」
「入ってみるか?」
樹が家に近付き、扉に手をかける。
「……駄目だな、鍵がかかってる」
窓も全て木の板で塞がれているようだった。
「地味に拍子抜けだなぁ」
「夜にこの家を見たら怖いだろうけど、中に入れないしね、窓も閉まってるし」
「道もここまでで終わりだ」
はぁ、とため息をつく。正直、無駄足だった。
「疲れたし、とりあえずここで一休みしようよ。あとは帰るだけだし」
「そうだなー」
適当なところに腰を下ろし、持参した水筒のお茶を飲む。
樹と零は家の周りや茂みなどを探索しているようだ。
「それにしても、この家なんなんだろうな」
イチの呟きに、今井さんが頷く。
「大人数は住めなさそう……一人くらい、かな?」
釣られて僕も家を眺める。確かに、謎だ。
―――そのときだった。
「んな……っ!?」
零の小さな声が聞こえて、僕らは一斉に振り向いた。僕らが座っている反対側、正面から見て家の左側の茂みに、零と樹が立っている。
「どうした?」
返事がない。
今井さんが立ち上がり、続けてイチと僕も立った。
「何があ―――っ!?」
樹と零の間から覗き込んだ今井さんとイチが絶句し、今井さんは腰が抜けたかのように座り込んだ。
「どうしたの?」
僕も同じように間から覗き込む。
「―――まさか」
思わず僕も絶句した。
―――そこには、人間の死体が転がっていた。
...ⅲに続く
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