死体が転がっている。
多数ではない、少数だ。
一人、二人……四人。
その中心で一人、男がサーベルを鞘に戻した。
―――ソルト・ヴァルヴァレス。ヴェンタッリオファミリー幹部の一人、この四人を死体にした張本人。
「…………さて、」
「ひっ」
残りは、一人。
畏怖と怯えの顔をした血塗れの男が、琥珀色の瞳に映る。
「さぁ、吐いて貰おうか」
「う、あ……」
にこり、と。
有り得ないほど穏やかな笑みを浮かべて、ソルトがその男に近づく。
じりじりと迫られて、血塗れの男は情けない声を上げながら無様に後方へ這いつくばっていく。
「あああ…っ」
背中が壁に当たった感触がして、男はただただ首を振りながらソルトを見上げた。
―――瞬間。
キン、という音が、耳元で鳴り響いた。
「ひっ…!?」
首筋、そのすぐ真横。
サーベルの切っ先が、頸動脈の真横に突き刺さっていた。
しゃがんだソルトの顔が目の前にある。
「お前たちはどこの回し者だ? カルコラーレか? トマゾか? ジッリョネロか?」
怯えたまま答えない男に対し、更に笑みを深める。
「まぁ、そんな事はどうでもいい―――問題なのは、君たちが裏切り者かどうかだ」
この状況を見て、どう見ても裏切り者であると確信して他の四人を殺しているというのに、何故今更そんな事を聞くのだ―――と男は思ったが、そんな言葉はソルトの顔を見て消え去った。
「なぁ、君たちはヴェンタッリオを……麗を、裏切ったのか?」
「う、あ、ああ、ベッ、ベネディーレです!! お、れっ俺たちはっベネディーレファミリーのっ」
「―――麗を、裏切ったのなら」
悲鳴を上げる間もなく、男は自身の死を直観する。
「俺は君を殺してしまうかもしれない」
矛盾した言葉を聞く事も出来ぬまま、男は絶命した。
ソルトは静かに立ち上がり、サーベルを鞘に戻した。
だが、身に纏っていた殺気よりも怖気立つオーラは消えない。
彼の表情は、冷徹な表情でも、殺しを楽しんでいる顔でもない。怒りの表情でもない。
ただそれは、一貫した無表情。先程まで、彼らを殺していたときには全く違う―――その表情とは全く交差しない、真逆とも違う。ただただ、無表情だった。
薄明かりに照らされて、彼の姿がこの部屋に入った瞬間から何一つ変わっていない事に気付かされる。
歪みない足取り。無表情。そして、一切返り血を浴びてない服と肌―――。
部屋にも、血はほとんど残されていなかった。
数歩部屋から出たところで、ソルト・ヴァルヴァレスは携帯を取り出す。普段使っているものとは違う携帯だ。
「―――俺だ。いつもの通り。今回は五人」
その声にも、感情は一切込められていない。
「わかっているとは思うが―――そうだ。絶対にヴェンタッリオにはバレないようにしろ」
そう言って、電話を切る。相手はどうやら、死体を回収し始末する仕事を生業としている者だったようだ。
ソルト・ヴァルヴァレスは小さくため息を吐くと、ゆっくりと歩き出した。
―――帰る、ために。仲間のもとに帰るために。
―――戻る、ために。普段の自分に戻るために。
微かに、血の匂いがした気がした。
*
「今日は優樹さんの歓迎パーティを開きます!」
「おぉ~!」
「いやー、なんか悪いね。嬉しいけど」
ヴェンタッリオファミリーの屋敷。
その一室に、ヴェンタッリオのボスと幹部―――そして新たに幹部の一員となった、神室優樹がいた。
「じゃあ、早速部屋の飾りつけだね!」
「はい、お願いします」
ボスである少女、蓮漣麗に微笑まれ、桐城昴が準備をするために部屋を出ていく。それに続いて、レン・ウェルヴァーナも出て行った。
「私もお手伝いしてきますね」
そう言って麗が出て行った瞬間、その場は一気に険悪な雰囲気と化した。
その場にいるのは麗の弟である蓮漣秦、ソルト・ヴァルヴァレス、紫俄葵。そして、この険悪な雰囲気の原因である神室優樹。
秦は明らかに敵意を剥き出しにして優樹を睨みつけているが、彼の場合は単に「姉をナンパした不埒な男」と思っているだけに過ぎない。ソルトの「食材の買い出しに行って来い」の一言で、渋々秦も出て行った。
残る三人。ソルトは複雑な表情でその場に立っており、葵は珍しく不機嫌そうな表情で座っている。その目線の先で、優樹はへらへらと笑っていた。
「ちょっとお二人さん、怖すぎるってそれはー」
「仕方ないよ。僕らは君の事が気に食わないんだ」
「……」
「ヴェンタッリオに入った経緯の事? それならまぁ、仕方ないというか―――」
「それもそうだけど、なんか君の事気に食わないんだよね。単純に、第一印象から嫌いなんだ」
優樹がヴェンタッリオ幹部に入る事になったのは、彼が麗をナンパした結果、麗が幹部入りを勧めたからである。
それに対し、なかばシスコンじみている秦や、麗を大切に思っている葵やレンは苛立ちを憶えている。
「葵」
ずっと黙っていたソルトが不意に口を開き、葵はハッと顔を上げる。
「悪いが、やっぱり秦だけが買い出しに行っているのは不安だ。適当なものを買って来て貰っては困る。追いかけてくれないか」
「…………わかったよ」
若干顔を引き攣らせたものの、ソルトの顔を見て葵は部屋を出て行った。
座っている優樹とは少し離れた位置に立ち、黙り続けているソルトを見て、優樹は鳶色の瞳を細めた。
「えーと、ソルトだっけ? 君も俺の事気に食わないのかな。そりゃあ、大切なボスさんに気安く声をかけた男に対して腹を立てるのはわかるけど、」
「俺は、麗を信用している」
遮るように、凛としたソルトの声が部屋に響く。
「麗が選んだ相手だ。俺はお前を新しい仲間として認めている。秦や葵はまあ、微妙なんだろうが―――麗がお前を仲間にしたのだから、従うほかはない」
「そっか。それは有り難いな」
「だがな、これだけは言っておく」
―――刹那、優樹の表情が歪んだ。
明らかに先程の軽薄そうな顔ではない、端正な顔がしっかりとソルトを見据えていた。
「俺は、麗を裏切る者は絶対に許さない」
一瞬の間。
優樹はにこりと微笑み、わかってるよと笑った。
寒気がするような雰囲気が解け、ソルトも小さく笑う。
「ま、俺たちにとって麗は絶対、って事だ。ボスである麗を一番大切にする。これがヴェンタッリオのルールだ」
「把握したよ。ご指導有難うございます、センパイ」
「やっぱ腹立つな、その軽薄そうな感じ。とりあえず俺は料理の下準備をするから、お前は麗たちの手伝いでもしに行け」
「俺が主役なんじゃ」
「さっさと行って来い」
はいはい、とキッチンに立ったソルトに向かって返事をすると、優樹は部屋を出た。
(―――ソルト・ヴァルヴァレスか)
部屋を出た途端、自然と表情が硬くなる。
(最初は『俺は』で、次は『俺たちは』だったな)
頭の中で、先程のやり取りが甦る。
裏切り者は許さないと言ったときのソルトの表情、そして雰囲気。
抵抗する間も与えずに急所を掴まれたような、底冷えするような感覚。
―――案外、一番危険なのはあの人なのかもしれない、と。
薄っすらと鳥肌が立った感覚を覚えながら、優樹は思った。
(君が麗を裏切るのなら)(俺は君を殺してしまうかもしれないよ)
今回は神室さん出せたよ!!!
なんかちょっと不完全燃焼。
麗がソルトさんについてどう思ってるか入れたかったけど長くなりそうだったのでカット。
ちょっと終わりが微妙な気がする
最初の部分は随分前にヴェンタッリオが一人で任務したとき~みたいな話のソルトの部分を元にしています。
因みに。皆の任務組む相手とか。
麗→基本的に部下たちとかソルト。たまに葵とか。
秦→大抵ソルト。稀にレン。
ソルト→基本的に一人か部下たちと。あと秦。麗ともたまに。
レン→昴・葵と組む。スリーマンセル的な。部下たちとかもあるけど秦とは稀。
昴→上に同じ。術士だから一人でやるとかあんまない。部下たちともたまに。
葵→上に同じ。でも一人でもやる。だけど麗が葵一人を避けさせるから麗ともやる。
優樹→基本的に部下たち。麗や昴ともやる。
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