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せんそうとへいわ
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※ダークパラレルなのでご注意。


 

 夜の12時を過ぎた真夜中の街。街灯が石畳のストリートを、薄暗く照らしている。

「"Can stay with me? Or just go away"」

 街灯の明かりも届かない、漆黒の闇の中。その漆黒の向こうで何か、鈍い金属音が引きずられているような音が聴こえた。それに重なるように、か細く澄んだ歌声も、耳を掠める。

「"You see my tears,it`s doomed reunion"」

 歌声は微かに大きくなり、やがて暗黒の中から一人の少女が姿を現した。

 少女の貌は、一見すると少年のような容貌をしており、陶器のような純白の肌が街灯に照らし出される。

 少女の躯―――瑕だらけの躯は、骨のように純白な肌は、緋色に染まっていた。

「"Can stay with me? Or just go away"」

 メッゾソプラノの歌声は、漆黒に吸い込まれていくかのように夜の街に響き渡る。

 ずるずるずるずると、少女は重たい剣を引きずりながら歩いている。ぞわりと鳥肌が立つような、凍りの微笑を浮かべながら、少女は歩いていた。

「"Some fight we could do I hoped,"」

 少女が引きずる剣は、深紅の水滴を滴らせ、少女が通った痕を残していく。

「"for the genuine justice"」

 やがて、一人の男が少女のいる方向へと向かって来るのが見えた。恐らく帰宅途中であろう、疲れ果てた顔で、だがしっかりとした足取りで少女のほうへと向かって来る。

 薄暗い街灯の中、男が少女の存在に、少女が持つ剣の存在に気付いたのは、少女と大体三メートルほどの距離になった頃だった。

 ひっ、と男の喉から恐怖の声が漏れる。その声で、それまで男に見向きもせず歌い続けていた少女が、男の顔に焦点を合わせた。そして―――

「あああああああああッ!!!」

 ニタぁ、と・・・その整った少年のような容貌には不釣合いな笑みを浮かべて、少女は男を斬り捨てた。一瞬の、ほんとうに一瞬のことであった。

 真っ赤な血が石畳に飛び散り、少女の白い肌にも、ぺちょり、という生々しい音を立てて、紅い華を散らせた。

「・・・・・・・・・」

 先程の笑みが消え失せ、少女は空虚な碧い瞳で死体を見やる。その瞳には光は無く、まるで自動人形のようだった。

「・・・・・・You are dirty.」

 吐き捨てるように少女は呟き、無表情の中に嫌悪感をあらわにした。頬に付いた返り血を細い指で拭うと、また背筋の凍るような微笑を浮かべて歌い出す。

「"Can stay with me?"…」

「―――ねえ、」

 不意に、少女よりも幼い声が、少女の後ろから聞こえた。少女の足が、ぴたりと止まる。

「何をやってるの」

 少女の後ろには、眼にも鮮やかな紅を纏った少女が立っていた。

「やあ、リトル・スカーレット・ウィッチ」

 先程の歌声とは打って変わって、低く掠れた声が少女の口から漏れた。小さな紅き魔女―――もとい、彼女の二つ名である《深紅の魔女》と呼ばれた少女は、軽蔑しきった表情で少女を睨みつけている。

「何やってんのか、って私は聞いているんだけど」

「・・・"Or just go away"」

 《深紅の魔女》の言葉を無視するように、少女はまた歌い出す。《深紅の魔女》に背を向けたまま、剣を力なく掴んだまま。

「・・・このパラノイアが」

 蔑むような口調で吐き捨て、《深紅の魔女》は深いため息をついた。そして―――

こっちを向きなさい

 《深紅の魔女》は一瞬にして、紅いエプロンドレスに隠された左の太腿にあるホルスターから黒い拳銃を取り出し、銃口を少女の後頭部に向けた。

 拳銃の存在に気付いた少女は、ゆっくりと躯を動かした。まるで生気の無い人形のような顔が、《深紅の魔女》に向けられる。

「私はもう全部知っている」

「・・・・・・何のことですか?」

「とぼけるなよ、クレイジーガール。わかってるでしょ? 貴女は、総て」

 電球が切れかけてきたのか、チカチカと不規則に点滅する街灯。それに眼を移しながら、少女は薄い唇で声を紡ぎ出す。

「僕は僕自身に従ったまでですよ」

「何をどうしたらそんなふうに言えるのかしら。大好きなあの子を殺したくせに

 今度は正面から銃を向けられて、少女は小さく笑った。おかしそうに、苦しそうに、少女は笑った。

「大好きだったから、殺したんです」

「・・・気狂いすぎよ」

「僕は気が違ったりなんてしていませんよ」

 笑みは鋭いものへと変わり、少女は続けた。

「僕のために、僕は・・・殺したんですよ」

「結果として貴女は病んでしまった。全然貴女のためになんかなってないじゃない!!」

 かちゃり、と、《深紅の魔女》は銃の安全装置を外した。それを見て、少女は薄い笑みを浮かべる。

「煩いですよ、小さな魔女さん? お静かに―――」

「こんなことになるなら私が皆殺してしまえば良かった!」

 Shh-、と人差し指を唇につけてにこりと微笑む少女から視線を外し、《深紅の魔女》は泣き崩れた。石畳の上に水滴を幾つも零し、《深紅の魔女》は肩を震わせる。

 そんな光景を見ていながら、少女は相変わらず微笑を顔に貼り付けたまま、《深紅の魔女》から眼を逸らさない。

「僕の邪魔をするのなら、」

 低い、低い声。低く、掠れた、この少女はこんな子じゃなかった、と思うような冷たい声。

「いくらきみでも、殺しますよ?」

 また一筋、《深紅の魔女》は涙を零した。

 

 

A last tear sparkled in the dark.

(私は暗闇で泣いているしかなかった)(彼女を助けられるのはただ一人、あの子だけ)(だけどあの子は彼女に殺されてしまった)

 

お題提供:http://scy.topaz.ne.jp/


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 「―――魔術と特殊能力の違いって何だ?」

「・・・・・・は?」

 

 とある日の昼下がり。翠の淹れた紅茶を飲んでいた世賭が、不意にそんな事を言い出した。

「それ、私に聞いてるの?」

 怪訝そうな顔で尋ねるアリカに、世賭はポーカーフェイスで返す。

「ああ。この国は武術と魔術と特殊能力の蔓延る世界だろ。だけど僕も翠も魔術や特殊能力を使えないから、ピンと来ないんだ。

 戦闘では多々、顔を合わせるそれらについて、何も知らないって言うのもアレだなと思って」

「さすが世賭、真面目だなぁ。でも世賭の事だからそういう類の事はちゃんと理解してると思ってたんだけどな、本とかで」

 結構読書家っぽいし、とアリカが付け加える。翠といえば、まるで無関心のような素振りで自分の作ったクッキーをつまんでいる。

「いいよ、教えてあげる。魔術と特殊能力の違いは、まあ一言で言っちゃえば・・・・・・魔術は魔力でしかなくて、特殊能力は何でもアリ、かな」

「何でもアリ・・・・・」

 まだいまいちピンと来ていないらしい世賭を一瞥し、アリカは話を続けた。

「魔術は魔力を生まれながらにして宿している者しか使えないの。それで魔力を使って魔術を生み出す」

「へぇ・・・・・?」

「人によって魔力の量は違っていて、私はかなり膨大な魔力量を誇っているから長く使えるけど、魔力を使い果たすとしばらく魔術が使えないの。回復するまでね。まあ、ヒットポイントやライフポイント的な感じ?

その点、特殊能力は限度がない。まあ、あるのもあるけど・・・それはその特殊能力によって違う。それにね、さっきも言ったけど魔術は生まれながらにして魔力を持っている者しか使えないけど、特殊能力はいきなり使えるようになったりもする」

「要するに、僕や翠は、絶対的に魔術は使えないけど、特殊能力は使えるようになるって事か?」

「そうね。あともう少し詳しく魔術について説明するわ。魔術には属性ってものがあって、それは個人の魔力の性質によって変わるの。火、水、風、雷、土。これら全てを扱える魔力を持っているってーのはまずいなくて、基本的に一属性ぐらいかな。そこらへんはランダムなんだけど」

「でも魔術といったら、他の事もしていると思うんですけど? 火とか水とか操るだけではなくて」

 それまでずっと無関心でいた翠が口を挟んだ。

「さっき言ったとおり、火や水なんかは主なわけ。その人の魔力に備わる属性ってだけ。そこから派生して、色んなことが出来る。

 たとえば水と風を組み合わせて蜃気楼を作ったり、微量な火と風で眼くらましをさせたりとか。風属性だったら空気の流れを読んで敵の気配を察知とかしたり出来るし、雷なんて言ったらほんとに色んなことが出来るよね。この世は電子機器ばっかりだから」

「確かに色々出来そうだな」

「うん。えーっとね、そこで特殊能力の話なんだけど。特殊能力は限度も何もかも無い。その人が持っている潜在能力だから使いすぎたって切れないし、火や水といったものに固定されることもない。とにかく何でもアリ。どんな能力だって存在すると言っていいわ。私は影を操る能力を持っているしね。

 たとえば雷属性の魔術を扱う人と、雷を操る能力を持つ人がいるとする。その違いは、魔術のほうは魔力によって創り上げた雷でしかないから限度があるし、魔術で創り上げた電気しか操れない。でも雷を操る能力のほうは、要するに磁場自体を操っているから、自然のものも何もかも、どこまでも際限なく使えて、ほんとに何でもアリなわけ」

「へえ・・・魔術のほうが、何だか不便だな」

「まあ、そうかもね。でも、魔術にだけ命をかけて魔術にだけ特化した人とかは、本当に強いよ。膨大な魔力を持った者とか、凄く綺麗な純血の魔力を持っている者の魔術は、すっごく強い。

あとは、さっき言ったとおり基本的には扱える魔力の属性は一属性だけだけど、稀に複数の属性を扱える魔力を持つ人もいたりする。たとえば、私とか」

 そんな人は、ほんとに滅多にいないけど、とアリカは呟いた。

「私だって全部の属性は持ってないしね。全属性を扱える奴なんて、私は一人しか知らないわ」

「へえ・・・・・・」

「因みに幻術はまた別ね。魔術の水や炎とかでも多少は出来るけど、幻術は幻術として別に確立した能力だから」

「なるほど・・・」

「気が済んだ? 世賭、」

「ああ。勉強になった」

「あ、クッキー食べるの忘れてたーっ! 頂きますっと」

「紅茶冷めてきたな、もう一杯」

「たまには自分で淹れようよ、」

 

 こうして、三人の昼下がりは過ぎていくのだった。

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エピローグ




 影が伸びる黄昏時。暗黒が迫る一軒の家の元、純白の十字架が建てられていた。そこに、二人の男女――― 否、二人の少女が立っている。


「アリカ・・・」


 あれから一ヶ月ほど経った。世界は何事もなかったかのように、変わっていない。


「ここを、発とうと思うんです。世賭と一緒に、また旅をしようと」


「いいんじゃない?」


「良かった。反対されたらどうしようかと・・・」


「あのねえ! どうして私が反対しなくちゃいけないのよ?」


「たった一人、ここに残していくことになるから・・・」


「・・・言ったでしょ。私は一人なんかじゃないよ」


 ――― 私はずっと、二人と一緒だよ。


「そう、そうだな・・・」


 世賭と翠は、ゆっくりと微笑んだ。


「行こうか、翠」


「・・・アリカちゃんもね」



 ――― 人は死んでも決して消えない。誰かの心の中に、ずっといる。永遠に、それは変わらない。




 三人の影が、繋がった。

 



 ――― それは、優しい優しい物語。物語はまた、巡り続ける。決して終わらない物語のように。

 

 



END

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第八話

 




 ぱらりと美しい漆黒の髪が切れ、紅いシルクハットが床に落ちた。


「腕が落ちたな? アリス」


「そう? それを言うなら貴女もじゃない、黒木聖」


 アリカは唇の端に滲む血を拭った。黒木聖と白四季の攻撃を避けながら、二人に攻撃する。剣と銃を同時に操り繰り出す技は、対二人以上の場合に使う攻撃法だ。だがしかし、それにも限度がある。


 銃を使えば弾が切れる。弾が切れれば剣を使う。剣を使えば剣の切れ味が悪くなる。そしてまた銃を使えば――― 長期戦には向いていない。


(
出来れば世賭と翠に応戦して貰いたかったけど・・・っ)


 仲間だからといって、戦わせないなんて偽善者的な思考はアリカにはない。だが、横目で見た限り、二人はもう戦えそうになかった。無理はさせられない。二人は自分のために戦っていて、自分は二人のために戦っているのだ。二人を、護らなくてはならない義務がある。




「貴女はいつも余裕ですね」


 白四季の言葉に、アリカの思考が途切れる。薄っすらと笑みを浮かべているが、彼の躯はもうボロボロだ。額や首筋、横腹、太腿などから大量の血が流れ出ている。全て、アリカがやったことだ。


「貴方こそ余裕ね? そんなこと言ってる暇あるの?」


 瞬間、アリカの微笑みが白四季の眼の前にあり、ザン、という鈍い音が耳に届いた。


「ぐ、ぁぁ・・・ッ!?」


 どん、と床に何かが落ちる。――― 白四季の、左腕だった。


「白四季、」


 どくどくと流れる血をぐっ、と押さえ、白四季は崩れ込んだ。


(
もう、こいつは戦えない)


「無様だな。黒木聖、お前のせいでこうして仲間が傷を負う」


 黒木聖は黙って、剣を構え直した。


「いい加減に、して下さい・・・皇帝・・・ッ」


 白四季の声は苦痛で震えていたが、しっかりと怒りをあらわにしていた。


「聖の、想いが・・・貴女に、わからない・・・はずが、ない・・・」


「わからないはずがない? 何を言って、」


「貴女は・・・聖に、とても良く・・・似ている・・・。外面ではなく、内面が・・・」


 微かに暗がりの中で、黒木聖の剣を掴む力が緩んだことに、アリカは気付いた。


「聖が幼い頃・・・貴女と同じように・・・彼女は、バケモノと・・・言われていた・・・。理由は定かでは・・・ありませんでしたが・・・貴女と同じ思いを・・・彼女は・・・。


 成長しても・・・彼女は、聖は・・・言われ、続けた・・・。強くなって、見返してやると・・・決心した・・・護りたいものが・・・自分になった・・・。


 貴女と同じだと・・・聖は気付いた・・・。自分は貴女と同じなのだと・・・なのに何故・・・貴女は皇帝になれて・・・人々を見下せるのに・・・自分はそうなれないのかと・・・」


 血を吐きながら、白四季は優しい瞳で聖を見つめた。


「有難う・・・聖・・・。貴女のおかげで・・・私はここまで・・・やっていけた・・・んですから・・・。皇帝・・・私は、」


 ザシュッ――― 大量の紅い血が噴き出し、白四季の頭がごろりと床に転がった。


「白、四季・・・、」


 黒木聖はそっと、白四季の瞳に手をやり、眼を閉ざした。


「私も、お前の・・・お前たちのおかげで、ここまでやってこれた・・・」


 視線は白四季から、要と棗、そして矢鬼と遥の死体へと移っていた。


 そして、世賭と翠が立ち上がったことに気付く。


「世賭、翠・・・」


「言ったでしょう」


「僕たちも・・・アリカを護ると」


 瞬間、世賭と翠の躯に漆黒の影が纏い、拘束した。


「な・・・っ」


 決して固くはないが、逃れることの出来ない影の鎖。アリカの魔術によるものだと、すぐに気付いた。


「どうして、」


「私だけで戦う。私はここで、死ななければならないから(・・・・・・・・・・・・)


「っ!?」


――― 黒木聖」


 アリカの凛、とした声が響き渡る。


「私は貴女を殺す。貴女を(・・・)・・・助けるために(・・・・・・)私を(・・)・・・殺すために(・・・・・)


「何をふざけたことを・・・」


 真紅の瞳は、優しげに細められた。


「ふざけてなんかいないよ」


 ざっ、とアリカは地を踏みしめ、蹴り上げ、黒木聖に向かって強く、剣を振り上げた。鋭い金属音が鳴り響く。アリカは既に銃を投げ捨てており、両手で剣を持っていた。そのアリカの剣と黒木聖の剣が、ギチギチと擦り合い、激しい鍔迫り合いを交わしている。

 



 く、と世賭は唇を噛み、翠は一筋の涙を流していた。


――― 何も出来ないことほど、苦しいことはない。


 遥の気持ちが、矢鬼の気持ちが、白四季の気持ちが、痛いほどよくわかった。


 死に向かう二人の少女を、ただ見ているだけの苦しさが。


「また、何も出来ない・・・」


 翠が一人で従兄弟たちを殺していたときのように。翠が消えたあのときのように。


(
僕は、また・・・仲間のために、動くことが出来ないのか・・・)


「護られるばかりは、嫌なんです・・・ッ」


 自分は今でも弱いままで。祖父が死んだときも、誰かに護られようとして。世賭やアリカに護って貰うばかりだった。


 ――― 影の鎖は、解かれない。


『私が二人を護るから―――』


 何も出来ないのなら。誰も護れないのなら。


(
力なんて、いらない―――!!)

 



――― 私はもう、大事な人を失わないと、誓ったんだ!」


「私も同じだ! 自分一人が英雄気取りか! 私はずっとお前が皇帝でいるのを、ただ見ていた・・・! 私は何故なれなかった! なることが出来たら、私は全てを護ることが出来たのに―――!!」


 火花と共に、紅い華のような血が飛び散った。


「私は、超えてみせる!」


 ただ、抗いたいだけだった。ただ、護りたいだけだった。どうしてこうなってしまったのかもわからず、だがもう逃げることも許されず。


 ただただ――― 下剋上を目指していただけなのに。


これで最期だ・・・黒木聖ィィィィッ!!!


 懇親の力をこめた一閃が、放たれる。アリカから――― そして、黒木聖からも。


「が、は・・・っ、」


 薄い唇から、どばっと大量の血が吐かれた。


 ――― ああ、私は死ぬのか。


「・・・本当は・・・私は、終わりたかったんだ・・・」


 下剋上から逃れたかったのだ。


「白四季・・・矢鬼・・・遥・・・」


 ――― 有難う。


 黒木聖の瞳が、ゆっくりと閉じられた。薄い微笑を浮かべて、ただ一言、そう残して。


 


「アリカ!」


「アリカちゃん!」


 世賭と翠を拘束していた影がすっ、と消え、二人はアリカに駆け寄った。血溜りの中に横たわっている、アリカの元へと。


「アリカちゃん、」


「・・・そんな顔しないでよ・・・私は、ただ死ぬだけなんだから・・・」


「何を言っ―――


 アリカの苦しげな声が、世賭の言葉を遮った。


「わからないよ、世賭にも翠にも・・・! 私は殺されない限り死ねない化け物。死ぬまで下剋上からも生からも逃れられない運命だった。何年も何十年も何百年も・・・自分の前から消えていく人々を、黙って見て行くしかなかった・・・」


 ――― 人も愛も、殺す化け物。


「たとえ世界が破滅のときを迎えても・・・私は、死ねない・・・。だから、良かったの・・・」


 にっこりと、アリカは微笑んだ。


「私をこんな化け物にした奴らがいた。私はそいつらを許せなかったけど、そいつらもすぐに死んだ。私の憎しみはどこへ行ってしまったんだろう・・・? 怒りは? 悲しみは?


 ・・・私は、ただ生きるしかなかったの・・・。だから、だからね・・・」


 化け物にした奴ら。彼らはどんな意図があって、アリカを死ねない躯にさせたのだろう?


「世賭、私は知ってるんだ・・・」


「え・・・?」


「世賭、貴女は女の子(・・・・・・)そして逃れられない鎖がある(・・・・・・・・・・・・・)


「!?」


 世賭の眼が、驚きで見開かれた。


「何故・・・」


「大丈夫。世賭、貴女には翠がいるんだから・・・だからさ、少しは女らしく・・・しないと」


 そう言うと、アリカは満面の笑みを浮かべた。


「死はね、私が一番欲しかったものだったの・・・。だけど、違ったわ・・・私が欲しかったのは、仲間」


 共に笑ってくれる仲間。死を見届けてくれる仲間。一生自分の存在を忘れず、ちゃんと泣いてくれる仲間が。


「私のために泣いて・・・? だけど、また笑ってね・・・私は、永遠に消えないよ・・・。世賭も翠も、誰も死んで消えることなんてないから・・・。絶対に、誰かの心の中にいるから・・・。


 だから、世賭・・・翠・・・死を忘れないで・・・大切に、して・・・」


「アリ、カ・・・・・・ッ!!」


 美しく眠ったアリスの横で、二人の少女は涙を流し続けた―――





...エピローグに続く

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第七話

 



 「要と棗が死んだか」


 遥の冷めた声が、翠の耳に届く。血と刃の金属音に塗れた灰色の部屋の中、翠と遥だけが身動き一つせず睨み合っていた。


「翠、だっけ・・・? 気に喰わないんだけど」


「奇遇ですね。僕も同感です」


 刹那――― 二人の姿は元いたところから消え、一瞬にして間合いをつめて斬りかかっていた。


「ふ・・・っ」


 相手の剣に衝撃を与えて、即座に離れてひらりと攻撃をかわす。そしてまた一気に間合いをつめ、鋭く攻める。世賭とは違う、鍔迫り合いを行わない戦法だ。


「くっ、」



 完全に翠のペースに呑まれた遥を横目でちらりと見た黒木聖は、ぼそりと呟く。


「遥が・・・押されている・・・」


「余所見をする暇がどこにあるの? 黒木聖」


 アリカと黒木聖は、空中を舞うように戦っていた。白四季はその間を縫うようにアリカを攻撃する。だが、白四季の攻撃は拳銃で止められ、全く攻撃が当たらない。完全に防御されていた。


「最年少ではあったが・・・あいつは私と同等に戦えるほどの腕の持ち主だ。まあ、劣るといえば劣るけれど」


「変わってないわね。貴女はそうやって仲間を讃えつつも、いつも下に見ている。小さく愚かな女王(クイーン)だな


 黒木聖を剣で一蹴し地面に一旦降り立ち、アリカは思いっきり白四季を蹴り上げた。


「ぐぁ・・・っ」



 壁に叩きつけられた白四季を見やりながら、身体のいたるところから血を滴らせている遥は、翠から間合いを取って剣を構え直していた。


「・・・なかなかやるね、あんたら」


「まだそんな口を叩けるとは、驚きです。貴方方が弱いだけではありませんか? とだけ言っておきましょうか」


 遥の表情に怒りが浮かんだ。それを翠は、薄い笑みで受け止める。


――― 舐めてるの」


「少しは本気になって下さいましたか?」


「ちっ・・・!」


 遥の足が、思い切り地を蹴って翠に斬りかかる。ガキィィィィィン、という音が鳴り響いた。


「はっ、」


 翠の剣は遥の剣を受け流すように力を緩められ、遥が前のめりになったところで斬る。しかし、寸前で遥は倒れるのも構わずに躯を横に捻った。微かに遥の横腹が切れ、数滴の血が滴る。


「っの・・・やろ、」


「・・・・・・」


 遥の表情が、変わる。


「俺、は・・・・・ッ!」


 狂気に満ちた表情へ。歪んだ歪んだ表情へ。


「俺はぁぁぁッ!!!」


「っ・・・!?」


 強烈な斬撃。さっきとは打って変わったような速さで、剣を振り回す。翠は喉に何かが詰まったかのように、声を出すことが出来なかった。


「最後まで、最期まで、終焉まで・・・聖さんの・・・ッ! 聖さんの役に立てるなら死んでも構わないんだぁぁぁぁッ!!!」


 大きく鋭い金属音を出しながら、翠に斬撃を喰らわせる。遥の瞳にはもう、狂気の光しか残っていなかった。


「聖さんの役に立てないのならぁぁぁぁ、それを果たせないのならぁぁぁぁぁッ!!!」


――― 黒木聖への、恐ろしいほど深い想いが・・・この人を、縛り付けている・・・?」


「それを果たせないのなら・・・ッ!!!! 全てを、壊すまでだぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」


 歯止めが利かないほどの、狂おしい感情が溢れ出す。


「壊して壊して壊して!! 全てを壊して聖さんの役に立てるのならば・・・ッ」



――― 俺は、何が代償であろうと・・・壊してみせる。

 


「・・・・・・人、というものは本当に恐ろしいですね・・・。感情に振り回され、すぐに周りが見えなくなってしまう」


「な・・・っ!?」


 遥の表情が、驚愕へと変わった。


「ん、なぁ・・・ぐ、は・・・がはっ、」


 口から大量の血が吐き出される。気がつけば、いたるところ、躯中傷だらけだった。


「ど、して・・・・・・がッ」


「貴方の攻撃は、荒々しすぎて、細かい動きが遅かった。だから少しずつ削るように――― その合間を縫うように、僕は攻撃をしていた。ただそれだけですよ」


 それを、貴方は見切れなかった――― 狂おしく歪んだ感情に塗れて、見えなくなっていたんですよ。


 そして翠は、はっきりと言い放つ。


「貴方の負けです」


 ぐらり、と遥の躯が崩れ落ちる。躯のどこにも力が入らない。立ち上がれない。


「ひ、じりさ・・・・・・」


 ゆっくりと、遥はまぶたを閉じかける。黒木聖がアリカと戦っている姿が、微かに映った。


「俺の、願いは・・・・・・破壊、じゃなかった・・・」


 あの黒木聖が、破壊を望むはずがない。全てを壊してまで、役に立って欲しいと思うはずが、ない。


「俺、は・・・ただ、貴女の笑顔が・・・・・・見た、かったんだ・・・」


 だから・・・黒木聖のためになることを、やりたかったんだ―――


「俺の、願いは・・・」


 ゆっくりと、完全に遥の瞼が閉じられた。静かに、安らかに微笑みながら。


――― ただ、それだけ・・・ですよね」


 翠はそっと遥の亡骸を抱き、血を拭った。そして、静かに壁際へ寝かせる。


「皆、願いは同じです・・・。大切な人の笑顔を見て、ずっと一緒にいたい――― 僕も、同じですよ」


 立ち上がろうとした膝が、がくんと力なく床につく。


 はあ、と深く翠はため息をつくと、ずるずると腰を下ろした。あの斬撃は簡単に対抗出来るものだったが、かなり掠ってしまった。掠るだけでも、相当なダメージなのだ。


「はは・・・情けない」


 荒い息を吐きながら、翠は呟く。


「アリカちゃん・・・・・・世賭、」



 強烈な鍔迫り合い。一旦間合いを取って離れ、地を蹴って一気に斬りかかる。その動作全てが、光のような速さだ。


 矢鬼は確実に急所を狙っていた。世賭の左腕は血だらけで、だらりと垂れ下がっている。右足の太腿、横腹も軽く斬られている。


 一方矢鬼もまた、確実にダメージを与えられていた。左手首は若干青紫に腫れており、口の端と横腹からは、血がだらだらと流れている。


「ちっ・・・」


 世賭はちらりと周りを見やった。翠は遥を倒したらしいが、深手を負ったのか壁にもたれかかっている。アリカと黒木聖、そして白四季の様子はこちらからはあまりよく見えなかった。


「余所見をするたぁ随分余裕だな? 俺にはそうは見えないが」


「それはこっちの台詞だ。そんな余計な口を叩いている余裕があるのか?」


 薄っすらと汗を掻きながら、世賭は口の端をゆがめてそう言った。矢鬼は小さく舌打ちをすると、いらだった様子で世賭に向かって刀を振り下ろす。寸前で、世賭の刀がそれを受け止めた。


「気に喰わないな! お前は窮地に立たされているんだ。その左腕はもう使い物にならない。他の箇所からも血を流している。降参した方が身の為だ」


「何を下らないことを。そんな言葉で僕が降参するとでも? それにお前だって、それなりにダメージは負っているだろうが」


 鍔迫り合いをしていた刀を無理矢理右方向に捻じ伏せ、右足に力を込めて左足で矢鬼の腹を蹴り上げる。そしてすかさず怯んだ矢鬼に向かって、曲線を描くように刀を振った。刀は鬼の眼のように光り、螺旋を描く。


 矢鬼の肩、腹、左足の太腿があっという間に斬られて行った。


「降参なんて絶対にしない。だが、死ぬつもりもない! 僕は、絶対に死なない。僕にはまだ、やるべきことがある」


「そこまでして、何故生きようとする? お前も俺も、このまま戦いを引き延ばせば出血多量で死ぬ。それでもお前は戦うのか?」


 矢鬼は刀を握る右手に力を込め、構えた。世賭の揺ぎ無いオッドアイが、矢鬼を見つめている。


「お前だってそうだろう。生きようと足掻いているにも関わらず、戦っているじゃないか。


 言っておくがな、僕はどうでもいい理由で無差別に戦ったりなんかしない。この戦いには、意味がある」


 すぅ、と世賭は息を吸い、一気に吐き出すように言い放った。


「護りたいものがあるから、僕は戦っている。絶対に死なせたくない、ずっと一緒にいたい、そう思えるような存在がいる。護りたいから戦う。それが僕の戦う理由であり、生きたい理由だ。


 お前は何故戦うんだ? 何のために戦っているんだ? 何か大事な理由があるから、戦っているんじゃないのか? 誰のためだ? 自分のためか? 他人のためか?


 この場に理由も無く戦っている奴なんか、一人もいないはずだ。皆、理由があって戦場(ここ)にいる。


 お前は何故戦っている? 何が願いだ? 何が望みだ? 何を叶えたい? 何を果たしたい?


 ・・・理由も無く戦っているというのなら、お前がそんな奴だというのなら・・・・・僕は(・・)絶対に負けない(・・・・・・・)


 世賭の刀がぎりぎりと矢鬼を押す。くっ、と矢鬼は小さく呻き声を漏らした。


――― そんな奴は、弱いんだ」


 強く押され、倒れこむ。矢鬼の首元に、世賭は刀を突きつけた。


「お前の戦う理由は何だ? 何故お前は戦っているんだ? どうして黒木聖と共にいる?」


 矢鬼の首筋から、たらりと真っ赤な血が流れた。どんどん深く、刀を突きつけられる。


「ッ・・・」


答えろ


 無表情の世賭。それに比例するように、矢鬼の表情は怒りと苦痛に満ちた表情へと変わっていく。


「聞こえなかったか? 答え―――


「うるせぇぇぇッ!!! お前にわかるはずがない! どんな想いかなんて、わかるはずが・・・!」


 矢鬼の瞳が、狂気に染まる。


「ずっと昔から傍にいた――― だんだんと少しずつ、だが確実に狂っていく姿を・・・ただただ、見ているだけの無力な・・・存在ッ!!!


 陰でアイツは人を護りながら、人を殺していた。自分さえも・・・ッ!


 誰も知らなかった、でも俺は知っていた! 狂っていくアイツの心を・・・止められないアイツの感情を・・・!


 止めたかった、だけど止められなかった!! どうして俺はこんなに弱いんだ? 俺が強ければ、アイツを止めることが出来るのに」


 世賭の表情が翳った。アイツ、とは誰のことか、わかったからだ。


「アイツは・・・聖は、俺を見ていなかった。ずっと遠くを・・・敵だけを、皇帝だけを見ていた・・・。


 男として、聖は生きる破目になったとき――― アイツはそれを簡単に受け入れた。何も抵抗せずに、ただ受け入れた。辛くないはずが、嫌じゃないはずがないのに・・・ッ!


 だけど俺は何も出来なかった・・・だんだんと狂っていく聖を、俺は見つめるしかなかった・・・! 異常なほど、“女”と“強さ”に関心を持ち、惹かれていき、それらに殺意を抱いた。挙句の果てに皇帝にまで・・・殺意を向けた。それに、俺は気付いていた・・・なのに、俺は何も出来なかった・・・! 弱いから、俺があまりにも弱かったから・・・ッ!


 だから、俺は今――― 出来る限り、全ての力を、俺の全てを、聖に捧げてやる・・・出来ることを全て、成し遂げてみせる・・・ッ!!!」


 獣のような、叫び声に近い言葉を吐き、矢鬼は突きつけられていた刀を無理矢理、斬れて血が流れるのも構わず手で掴み、押し返した。


「っ、」


 悪意に満ちた手で、刀を振り下ろす。カン、カン、と金属音が響き渡り、攻める。


――― それが、お前の戦う理由か?」


 攻撃をまともに喰らっているにも関わらず、世賭は見下したような笑みを浮かべて言った。


下らないな(・・・・・)


「っ・・・!?」


 蔑むような目つきから一変、鋭く光る瞳が矢鬼を刺す。


 刹那――― 世賭の刀が、矢鬼の左胸に突き刺さっていた。


「が、は・・・ッ!!」


 どばどばっ、と矢鬼の口から大量の血が吐かれ、倒れこむ。世賭は地に刀をつき、それを見下ろした。


「何が、『何も出来なかった』だ。お前は弱くなんかない。黒木聖のために自分の全てを捧げられるほどの気持ちを、想いを、力を、ぶつけていたじゃないか」


 矢鬼の眼が、軽く見開かれた。


「自分を弱いだなんて言うな。お前は強い。お前は、ちゃんと黒木聖に何かしてあげられていた」


 ――― だから、安心して眠れ。

 


 ふっ、と矢鬼の眼が細められ、そして・・・閉じられた。


――― 何だ、幸せそうな顔・・・しているじゃないか、」


 それを見届けると、世賭はぐったりと床に座り込んだ。血を流しすぎたのか、視界が霞む。


「流石に・・・やられ、過ぎたな・・・」


 少量の血を吐き、世賭は目を細めた。視線の先には、《紅き小さな女王(アリカ)》が戦っている。


「・・・アリカ・・・」


 ゆっくりと、世賭は瞼を閉じた。




...第八話に続く

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