※ダークパラレルなのでご注意。
夜の12時を過ぎた真夜中の街。街灯が石畳のストリートを、薄暗く照らしている。
「"Can stay with me? Or just go away"」
街灯の明かりも届かない、漆黒の闇の中。その漆黒の向こうで何か、鈍い金属音が引きずられているような音が聴こえた。それに重なるように、か細く澄んだ歌声も、耳を掠める。
「"You see my tears,it`s doomed reunion"」
歌声は微かに大きくなり、やがて暗黒の中から一人の少女が姿を現した。
少女の貌は、一見すると少年のような容貌をしており、陶器のような純白の肌が街灯に照らし出される。
少女の躯―――瑕だらけの躯は、骨のように純白な肌は、緋色に染まっていた。
「"Can stay with me? Or just go away"」
メッゾソプラノの歌声は、漆黒に吸い込まれていくかのように夜の街に響き渡る。
ずるずるずるずると、少女は重たい剣を引きずりながら歩いている。ぞわりと鳥肌が立つような、凍りの微笑を浮かべながら、少女は歩いていた。
「"Some fight we could do I hoped,"」
少女が引きずる剣は、深紅の水滴を滴らせ、少女が通った痕を残していく。
「"for the genuine justice"」
やがて、一人の男が少女のいる方向へと向かって来るのが見えた。恐らく帰宅途中であろう、疲れ果てた顔で、だがしっかりとした足取りで少女のほうへと向かって来る。
薄暗い街灯の中、男が少女の存在に、少女が持つ剣の存在に気付いたのは、少女と大体三メートルほどの距離になった頃だった。
ひっ、と男の喉から恐怖の声が漏れる。その声で、それまで男に見向きもせず歌い続けていた少女が、男の顔に焦点を合わせた。そして―――
「あああああああああッ!!!」
ニタぁ、と・・・その整った少年のような容貌には不釣合いな笑みを浮かべて、少女は男を斬り捨てた。一瞬の、ほんとうに一瞬のことであった。
真っ赤な血が石畳に飛び散り、少女の白い肌にも、ぺちょり、という生々しい音を立てて、紅い華を散らせた。
「・・・・・・・・・」
先程の笑みが消え失せ、少女は空虚な碧い瞳で死体を見やる。その瞳には光は無く、まるで自動人形のようだった。
「・・・・・・You are dirty.」
吐き捨てるように少女は呟き、無表情の中に嫌悪感をあらわにした。頬に付いた返り血を細い指で拭うと、また背筋の凍るような微笑を浮かべて歌い出す。
「"Can stay with me?"…」
「―――ねえ、」
不意に、少女よりも幼い声が、少女の後ろから聞こえた。少女の足が、ぴたりと止まる。
「何をやってるの」
少女の後ろには、眼にも鮮やかな紅を纏った少女が立っていた。
「やあ、リトル・スカーレット・ウィッチ」
先程の歌声とは打って変わって、低く掠れた声が少女の口から漏れた。小さな紅き魔女―――もとい、彼女の二つ名である《深紅の魔女》と呼ばれた少女は、軽蔑しきった表情で少女を睨みつけている。
「何やってんのか、って私は聞いているんだけど」
「・・・"Or just go away"」
《深紅の魔女》の言葉を無視するように、少女はまた歌い出す。《深紅の魔女》に背を向けたまま、剣を力なく掴んだまま。
「・・・このパラノイアが」
蔑むような口調で吐き捨て、《深紅の魔女》は深いため息をついた。そして―――
「こっちを向きなさい」
《深紅の魔女》は一瞬にして、紅いエプロンドレスに隠された左の太腿にあるホルスターから黒い拳銃を取り出し、銃口を少女の後頭部に向けた。
拳銃の存在に気付いた少女は、ゆっくりと躯を動かした。まるで生気の無い人形のような顔が、《深紅の魔女》に向けられる。
「私はもう全部知っている」
「・・・・・・何のことですか?」
「とぼけるなよ、クレイジーガール。わかってるでしょ? 貴女は、総て」
電球が切れかけてきたのか、チカチカと不規則に点滅する街灯。それに眼を移しながら、少女は薄い唇で声を紡ぎ出す。
「僕は僕自身に従ったまでですよ」
「何をどうしたらそんなふうに言えるのかしら。大好きなあの子を殺したくせに」
今度は正面から銃を向けられて、少女は小さく笑った。おかしそうに、苦しそうに、少女は笑った。
「大好きだったから、殺したんです」
「・・・気狂いすぎよ」
「僕は気が違ったりなんてしていませんよ」
笑みは鋭いものへと変わり、少女は続けた。
「僕のために、僕は・・・殺したんですよ」
「結果として貴女は病んでしまった。全然貴女のためになんかなってないじゃない!!」
かちゃり、と、《深紅の魔女》は銃の安全装置を外した。それを見て、少女は薄い笑みを浮かべる。
「煩いですよ、小さな魔女さん? お静かに―――」
「こんなことになるなら私が皆殺してしまえば良かった!」
Shh-、と人差し指を唇につけてにこりと微笑む少女から視線を外し、《深紅の魔女》は泣き崩れた。石畳の上に水滴を幾つも零し、《深紅の魔女》は肩を震わせる。
そんな光景を見ていながら、少女は相変わらず微笑を顔に貼り付けたまま、《深紅の魔女》から眼を逸らさない。
「僕の邪魔をするのなら、」
低い、低い声。低く、掠れた、この少女はこんな子じゃなかった、と思うような冷たい声。
「いくらきみでも、殺しますよ?」
また一筋、《深紅の魔女》は涙を零した。
A last tear sparkled in the dark.
(私は暗闇で泣いているしかなかった)(彼女を助けられるのはただ一人、あの子だけ)(だけどあの子は彼女に殺されてしまった)
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Sex:女
Birth:H7,3,22
Job:学生
Love:小説、漫画、和服、鎖骨、手、僕っ子、日本刀、銃、戦闘、シリアス、友情
Hate:理不尽、非常識、偏見