大概、ヴェンタッリオファミリーは数名で任務をこなす。だがたまに、幹部一人で向かわされる事がある。
これは、ヴェンタッリオファミリー幹部の六人それぞれの、一人で任務をこなすお話。
ここには人殺ししかいない
Case1:蓮漣 秦の場合
自分は強くなった・・・と思う。基本的に万能なソルトに、稽古に付き合って貰い、実力はあがった・・・はずだ。
(だから姉さんは任務を任せてくれた。一人でこなさなくてはならない任務を、)
強くなったという事を、認めてくれたから。
(だから、だから俺は・・・・・・)
蓮漣秦は、姉であるボスと良く似た眼で、姉であるボスと同じように、真っ直ぐに前を見据える。
「だから、俺はお前を殺すんだ」
ターゲットをしっかりと見据えたまま、少年は鎖を振り翳す。その瞳に、人殺しの光を燈して。
Case2:紫俄 葵の場合
一体自分は幾つ破壊してきたのだろうか。
「ひっ・・・・・・!!!」
青紫色の影を纏い、少年はぞっとするような笑顔を浮かべ、容赦なく刀を振り下ろした。
ぴちゃ、と少年の白い肌に紅い血が飛び散る。
「・・・・・・もう終わりか」
先ほどの笑顔が嘘のように、冷めた瞳で自分が斬った死体たちを見下ろし、頬に付いた返り血を拭った。
少年の歩んできた道には、無数の死体と深紅の血の海。無様に転がっている、死体共。
「あはは、はははははははははは、ははは・・・・・・」
戦う意義―――《彼女》を護る為。ここで生きる意義―――《あの子》に懺悔する為。
だが一人だとそれらは意味をなさない。だから歯止めが利かない、嗤いが止まらない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・こんな姿、“キミ”には見せられないな」
二人の少女に思いを馳せ、少年は天を見上げた。
Case3:桐城 昴の場合
パーン、と虚空に響き渡る銃声。
勢いよく飛び散る血飛沫、それを何の感情も浮かんでいない眼で見下ろしている少年が一人。
「・・・・・・気持ち悪い」
頬に付いた返り血を拭い、吐き捨てるように言った。
無数に転がっている死体を踏みつけ、少年は呟く。
「―――早く皆のところに帰らなくちゃ」
まるで死体や血の海など存在しないかのように、少年は楽しそうに微笑んだ。それは楽しそうに、楽しそうに・・・・・・・。
Case4:レン・ウェルヴァーナの場合
血を見ると自分が人殺しだという事を実感する。色んな事を思い出して吐き気がするし、発狂したくなるときもあるけど、それを抑えられるのは仲間がいるから。
だから一人での任務のときは、吐き気が止まらない。破壊衝動のみで突き進みたい気持ちになって、おかしくなりそうになる。
「・・・・・・誰か、」
嗚咽が漏れそうになって、僕はゆっくりと自分の手で両眼を閉ざした。
自分が殺した彼女の姿が甦って、余計に吐き気が増した。
「・・・うあ」
一気に駆ける、無差別に殺す、全てを壊す、思い出さない為に―――「帰る」為に。
「っは・・・・・・」
―――また、血が僕の身体を染める。
発狂しそうなのを抑えて震えている身体を両手で抱きしめ、少年は血の海に身を伏せた。
Case5:蓮漣 麗の場合
一人は恐ろしい。時折自分が何をしているのか、本質を見失う。焦りと不安、時には憎悪や悪意までも脳内を支配する。
普段、自分がどれだけ周りの者に自身を委ねているのかが、身に沁みる。
「はぁ・・・はぁ・・・、」
荒く息を吐き出し、扇を一振する。その拍子に、数滴の血が飛び散った。
(帰らないと・・・・・・早く、皆の元へ帰らないと・・・・・・)
早く、帰らないと。
(見失ってしまう)
自分を―――全てを。まるで濁流に呑み込まれるかのように、掻き混ぜられる。
「母さん・・・・・・」
こういうとき、必ず母の姿が思い浮かぶ。それと共に、かつて愛おしかった憎き少年の姿も・・・・・・。
(早く、帰らないと―――見失ってしまう、今の自分を―――戻ってしまう、過去の自分に―――)
だから、奔る。だから、駆ける。だから―――殺す。
(帰る、為に―――還る、為に―――)
ただ、それだけを考えて、少女は殺す。
Case6:ソルト・ヴァルヴァレスの場合
キン、と鋭い金属音を響かせ、サーベルの先が頚動脈の真横に突き刺さった。
「っ・・・・・・!!」
「正直に話してご覧。俺はちゃんと聞いてやるから」
す、と優しげに瞳を細め、ソルト・ヴァルヴァレスは穏やかに問いかける。手に持ったサーベルはそのまま―――否、寧ろだんだんと相手の頚動脈へと近付かせながら。
「ひっ・・・・!」
「怯えてないで、答えろ。お前は報告どおり、ヴェンタッリオを裏切ったのかな? それとも、元々敵対マフィアのスパイだったのかな?」
ぐ、と首筋にサーベルを突きつけ、ソルトは尋ねる。相手は畏怖の表情で身体を震わせていた。
「震えてばかりじゃ解らない。ちゃんと答えないと―――くちなしじゃあないんだから」
「う、う、う―――」
「う? お前は裏切ったのか? ヴェンタッリオ―――いや、麗を裏切ったのか? ほら、ちゃんと答えろ。怯えていないで、答えないと―――そうしないと、」
細められていた瞳が、す、と開く。
「殺してしまうかもしれないよ」
―――その後、切り刻まれ頭を刎ねられた死体があったかどうかは・・・・・・定かではない。
END...?
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