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せんそうとへいわ
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第七話

 



 「要と棗が死んだか」


 遥の冷めた声が、翠の耳に届く。血と刃の金属音に塗れた灰色の部屋の中、翠と遥だけが身動き一つせず睨み合っていた。


「翠、だっけ・・・? 気に喰わないんだけど」


「奇遇ですね。僕も同感です」


 刹那――― 二人の姿は元いたところから消え、一瞬にして間合いをつめて斬りかかっていた。


「ふ・・・っ」


 相手の剣に衝撃を与えて、即座に離れてひらりと攻撃をかわす。そしてまた一気に間合いをつめ、鋭く攻める。世賭とは違う、鍔迫り合いを行わない戦法だ。


「くっ、」



 完全に翠のペースに呑まれた遥を横目でちらりと見た黒木聖は、ぼそりと呟く。


「遥が・・・押されている・・・」


「余所見をする暇がどこにあるの? 黒木聖」


 アリカと黒木聖は、空中を舞うように戦っていた。白四季はその間を縫うようにアリカを攻撃する。だが、白四季の攻撃は拳銃で止められ、全く攻撃が当たらない。完全に防御されていた。


「最年少ではあったが・・・あいつは私と同等に戦えるほどの腕の持ち主だ。まあ、劣るといえば劣るけれど」


「変わってないわね。貴女はそうやって仲間を讃えつつも、いつも下に見ている。小さく愚かな女王(クイーン)だな


 黒木聖を剣で一蹴し地面に一旦降り立ち、アリカは思いっきり白四季を蹴り上げた。


「ぐぁ・・・っ」



 壁に叩きつけられた白四季を見やりながら、身体のいたるところから血を滴らせている遥は、翠から間合いを取って剣を構え直していた。


「・・・なかなかやるね、あんたら」


「まだそんな口を叩けるとは、驚きです。貴方方が弱いだけではありませんか? とだけ言っておきましょうか」


 遥の表情に怒りが浮かんだ。それを翠は、薄い笑みで受け止める。


――― 舐めてるの」


「少しは本気になって下さいましたか?」


「ちっ・・・!」


 遥の足が、思い切り地を蹴って翠に斬りかかる。ガキィィィィィン、という音が鳴り響いた。


「はっ、」


 翠の剣は遥の剣を受け流すように力を緩められ、遥が前のめりになったところで斬る。しかし、寸前で遥は倒れるのも構わずに躯を横に捻った。微かに遥の横腹が切れ、数滴の血が滴る。


「っの・・・やろ、」


「・・・・・・」


 遥の表情が、変わる。


「俺、は・・・・・ッ!」


 狂気に満ちた表情へ。歪んだ歪んだ表情へ。


「俺はぁぁぁッ!!!」


「っ・・・!?」


 強烈な斬撃。さっきとは打って変わったような速さで、剣を振り回す。翠は喉に何かが詰まったかのように、声を出すことが出来なかった。


「最後まで、最期まで、終焉まで・・・聖さんの・・・ッ! 聖さんの役に立てるなら死んでも構わないんだぁぁぁぁッ!!!」


 大きく鋭い金属音を出しながら、翠に斬撃を喰らわせる。遥の瞳にはもう、狂気の光しか残っていなかった。


「聖さんの役に立てないのならぁぁぁぁ、それを果たせないのならぁぁぁぁぁッ!!!」


――― 黒木聖への、恐ろしいほど深い想いが・・・この人を、縛り付けている・・・?」


「それを果たせないのなら・・・ッ!!!! 全てを、壊すまでだぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」


 歯止めが利かないほどの、狂おしい感情が溢れ出す。


「壊して壊して壊して!! 全てを壊して聖さんの役に立てるのならば・・・ッ」



――― 俺は、何が代償であろうと・・・壊してみせる。

 


「・・・・・・人、というものは本当に恐ろしいですね・・・。感情に振り回され、すぐに周りが見えなくなってしまう」


「な・・・っ!?」


 遥の表情が、驚愕へと変わった。


「ん、なぁ・・・ぐ、は・・・がはっ、」


 口から大量の血が吐き出される。気がつけば、いたるところ、躯中傷だらけだった。


「ど、して・・・・・・がッ」


「貴方の攻撃は、荒々しすぎて、細かい動きが遅かった。だから少しずつ削るように――― その合間を縫うように、僕は攻撃をしていた。ただそれだけですよ」


 それを、貴方は見切れなかった――― 狂おしく歪んだ感情に塗れて、見えなくなっていたんですよ。


 そして翠は、はっきりと言い放つ。


「貴方の負けです」


 ぐらり、と遥の躯が崩れ落ちる。躯のどこにも力が入らない。立ち上がれない。


「ひ、じりさ・・・・・・」


 ゆっくりと、遥はまぶたを閉じかける。黒木聖がアリカと戦っている姿が、微かに映った。


「俺の、願いは・・・・・・破壊、じゃなかった・・・」


 あの黒木聖が、破壊を望むはずがない。全てを壊してまで、役に立って欲しいと思うはずが、ない。


「俺、は・・・ただ、貴女の笑顔が・・・・・・見た、かったんだ・・・」


 だから・・・黒木聖のためになることを、やりたかったんだ―――


「俺の、願いは・・・」


 ゆっくりと、完全に遥の瞼が閉じられた。静かに、安らかに微笑みながら。


――― ただ、それだけ・・・ですよね」


 翠はそっと遥の亡骸を抱き、血を拭った。そして、静かに壁際へ寝かせる。


「皆、願いは同じです・・・。大切な人の笑顔を見て、ずっと一緒にいたい――― 僕も、同じですよ」


 立ち上がろうとした膝が、がくんと力なく床につく。


 はあ、と深く翠はため息をつくと、ずるずると腰を下ろした。あの斬撃は簡単に対抗出来るものだったが、かなり掠ってしまった。掠るだけでも、相当なダメージなのだ。


「はは・・・情けない」


 荒い息を吐きながら、翠は呟く。


「アリカちゃん・・・・・・世賭、」



 強烈な鍔迫り合い。一旦間合いを取って離れ、地を蹴って一気に斬りかかる。その動作全てが、光のような速さだ。


 矢鬼は確実に急所を狙っていた。世賭の左腕は血だらけで、だらりと垂れ下がっている。右足の太腿、横腹も軽く斬られている。


 一方矢鬼もまた、確実にダメージを与えられていた。左手首は若干青紫に腫れており、口の端と横腹からは、血がだらだらと流れている。


「ちっ・・・」


 世賭はちらりと周りを見やった。翠は遥を倒したらしいが、深手を負ったのか壁にもたれかかっている。アリカと黒木聖、そして白四季の様子はこちらからはあまりよく見えなかった。


「余所見をするたぁ随分余裕だな? 俺にはそうは見えないが」


「それはこっちの台詞だ。そんな余計な口を叩いている余裕があるのか?」


 薄っすらと汗を掻きながら、世賭は口の端をゆがめてそう言った。矢鬼は小さく舌打ちをすると、いらだった様子で世賭に向かって刀を振り下ろす。寸前で、世賭の刀がそれを受け止めた。


「気に喰わないな! お前は窮地に立たされているんだ。その左腕はもう使い物にならない。他の箇所からも血を流している。降参した方が身の為だ」


「何を下らないことを。そんな言葉で僕が降参するとでも? それにお前だって、それなりにダメージは負っているだろうが」


 鍔迫り合いをしていた刀を無理矢理右方向に捻じ伏せ、右足に力を込めて左足で矢鬼の腹を蹴り上げる。そしてすかさず怯んだ矢鬼に向かって、曲線を描くように刀を振った。刀は鬼の眼のように光り、螺旋を描く。


 矢鬼の肩、腹、左足の太腿があっという間に斬られて行った。


「降参なんて絶対にしない。だが、死ぬつもりもない! 僕は、絶対に死なない。僕にはまだ、やるべきことがある」


「そこまでして、何故生きようとする? お前も俺も、このまま戦いを引き延ばせば出血多量で死ぬ。それでもお前は戦うのか?」


 矢鬼は刀を握る右手に力を込め、構えた。世賭の揺ぎ無いオッドアイが、矢鬼を見つめている。


「お前だってそうだろう。生きようと足掻いているにも関わらず、戦っているじゃないか。


 言っておくがな、僕はどうでもいい理由で無差別に戦ったりなんかしない。この戦いには、意味がある」


 すぅ、と世賭は息を吸い、一気に吐き出すように言い放った。


「護りたいものがあるから、僕は戦っている。絶対に死なせたくない、ずっと一緒にいたい、そう思えるような存在がいる。護りたいから戦う。それが僕の戦う理由であり、生きたい理由だ。


 お前は何故戦うんだ? 何のために戦っているんだ? 何か大事な理由があるから、戦っているんじゃないのか? 誰のためだ? 自分のためか? 他人のためか?


 この場に理由も無く戦っている奴なんか、一人もいないはずだ。皆、理由があって戦場(ここ)にいる。


 お前は何故戦っている? 何が願いだ? 何が望みだ? 何を叶えたい? 何を果たしたい?


 ・・・理由も無く戦っているというのなら、お前がそんな奴だというのなら・・・・・僕は(・・)絶対に負けない(・・・・・・・)


 世賭の刀がぎりぎりと矢鬼を押す。くっ、と矢鬼は小さく呻き声を漏らした。


――― そんな奴は、弱いんだ」


 強く押され、倒れこむ。矢鬼の首元に、世賭は刀を突きつけた。


「お前の戦う理由は何だ? 何故お前は戦っているんだ? どうして黒木聖と共にいる?」


 矢鬼の首筋から、たらりと真っ赤な血が流れた。どんどん深く、刀を突きつけられる。


「ッ・・・」


答えろ


 無表情の世賭。それに比例するように、矢鬼の表情は怒りと苦痛に満ちた表情へと変わっていく。


「聞こえなかったか? 答え―――


「うるせぇぇぇッ!!! お前にわかるはずがない! どんな想いかなんて、わかるはずが・・・!」


 矢鬼の瞳が、狂気に染まる。


「ずっと昔から傍にいた――― だんだんと少しずつ、だが確実に狂っていく姿を・・・ただただ、見ているだけの無力な・・・存在ッ!!!


 陰でアイツは人を護りながら、人を殺していた。自分さえも・・・ッ!


 誰も知らなかった、でも俺は知っていた! 狂っていくアイツの心を・・・止められないアイツの感情を・・・!


 止めたかった、だけど止められなかった!! どうして俺はこんなに弱いんだ? 俺が強ければ、アイツを止めることが出来るのに」


 世賭の表情が翳った。アイツ、とは誰のことか、わかったからだ。


「アイツは・・・聖は、俺を見ていなかった。ずっと遠くを・・・敵だけを、皇帝だけを見ていた・・・。


 男として、聖は生きる破目になったとき――― アイツはそれを簡単に受け入れた。何も抵抗せずに、ただ受け入れた。辛くないはずが、嫌じゃないはずがないのに・・・ッ!


 だけど俺は何も出来なかった・・・だんだんと狂っていく聖を、俺は見つめるしかなかった・・・! 異常なほど、“女”と“強さ”に関心を持ち、惹かれていき、それらに殺意を抱いた。挙句の果てに皇帝にまで・・・殺意を向けた。それに、俺は気付いていた・・・なのに、俺は何も出来なかった・・・! 弱いから、俺があまりにも弱かったから・・・ッ!


 だから、俺は今――― 出来る限り、全ての力を、俺の全てを、聖に捧げてやる・・・出来ることを全て、成し遂げてみせる・・・ッ!!!」


 獣のような、叫び声に近い言葉を吐き、矢鬼は突きつけられていた刀を無理矢理、斬れて血が流れるのも構わず手で掴み、押し返した。


「っ、」


 悪意に満ちた手で、刀を振り下ろす。カン、カン、と金属音が響き渡り、攻める。


――― それが、お前の戦う理由か?」


 攻撃をまともに喰らっているにも関わらず、世賭は見下したような笑みを浮かべて言った。


下らないな(・・・・・)


「っ・・・!?」


 蔑むような目つきから一変、鋭く光る瞳が矢鬼を刺す。


 刹那――― 世賭の刀が、矢鬼の左胸に突き刺さっていた。


「が、は・・・ッ!!」


 どばどばっ、と矢鬼の口から大量の血が吐かれ、倒れこむ。世賭は地に刀をつき、それを見下ろした。


「何が、『何も出来なかった』だ。お前は弱くなんかない。黒木聖のために自分の全てを捧げられるほどの気持ちを、想いを、力を、ぶつけていたじゃないか」


 矢鬼の眼が、軽く見開かれた。


「自分を弱いだなんて言うな。お前は強い。お前は、ちゃんと黒木聖に何かしてあげられていた」


 ――― だから、安心して眠れ。

 


 ふっ、と矢鬼の眼が細められ、そして・・・閉じられた。


――― 何だ、幸せそうな顔・・・しているじゃないか、」


 それを見届けると、世賭はぐったりと床に座り込んだ。血を流しすぎたのか、視界が霞む。


「流石に・・・やられ、過ぎたな・・・」


 少量の血を吐き、世賭は目を細めた。視線の先には、《紅き小さな女王(アリカ)》が戦っている。


「・・・アリカ・・・」


 ゆっくりと、世賭は瞼を閉じた。




...第八話に続く


さて、後編です。次回は遂に黒木ちゃんとの決戦!←
つかおまえらどんだけ黒木の事好きなんだよwwwwwみたいなねry
皆の思いを叫びに、というお話でしたね。
つか書いたの昔なやつを修正するのは苦労する。今も下手だがこの頃はほんとに下手だ;;
ていうか会話が多すぎて読みづら過ぎる

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