透離と共に向かった任務で、俺は怪我を負った。透離を庇っての事だった。
「無事で良かった・・・・・・っ!」
薬品の匂いに包まれた真っ白いベッドの上で、一番初めに眼にしたのは大切な仲間の顔だった。
―――ひとり、透離を抜かした五人の顔、だった。
そこに言葉は必要ですか
俺は銃弾を幾つも受けた。俺と透離では、俺のほうが断然強い。だから敵は透離を狙った。
『透離―――ッ!!!』
『!?』
俺は、透離を庇った。何発もの銃弾が俺の身体を貫いた。
『ボ、ス―――!?』
驚愕に染まった表情。それから一転、思わず子供の頃から裏社会を知り戦場を見てきた俺でも、ビクリと肩を震わせるような―――どす黒い、憎悪の表情。
その後の記憶は無い。気を失ったからだ。
「あの後、敵は完璧に全滅した。透離がちょいと強めの幻術を使いやがってね・・・・・・周りに一般人がいたら、大惨事になるところだった」
ロキアがそう言っていた。
―――透離の顔をもう、ずっと見ていない。最後に見たのは、あの憎悪の表情。
透離は一切見舞いに来てくれなかった。リコリスが言うには、「引きこもりみたいに部屋から全く出てこない」らしい。そして、「ずっと凄く荒々しいピアノの音が聞こえる」とも。
「どうしようもないんだと思う、透離は」
ロキアが言った。
「大切な人が自分の為に傷ついた。そこにあるのは、果てしない無力感。どうやらあの子は以前にも大切な人を失くしているみたいだし―――」
それは俺も知っていた。誰かはわからないし、今その誰かさんがどうなっているのかもわからない。だが、透離は言っていた―――『当分は・・・・・・絶対に逢えないんです』。
「透離にとって、お前はその穴埋めなんだと思うよ。こう言ったら嫌な感じするだろうけど・・・」
穴埋め。それは実に的を得た言葉だと思った。
「だからさ、透離はお前にあわせる顔がねーんだよ・・・傷つけてしまったから」
―――否、きっとそれだけではない。透離は俺に怒っているのだ。自分なんかを護りやがって、とそう思っているのだろう。
(あとはそうだな・・・・・・)
あの、どす黒い憎悪の表情。あれを見られた事を、透離は気にしているのではないか・・・と。
(逢って、ちゃんと話がしたい)
透離は何も悪くない。俺が悪いのだと。勝手に護ってしまった、俺の偽善的精神が悪いのだと。
―――言葉が何のためにあるのか、わからなくなった。
*
夕方、ロキアが訪れた。午前中には日向が訪れ、昨日はリコリスとユナとリラが来てくれた。一昨日ぶりなのだが、なんだか久しぶりな気持ちになる。
「今日はサプライズプレゼント持って来てやったぜー?」
そう言ったロキアの顔は、言葉に反して酷く真面目だった。
「それ・・・・・・」
ロキアの手には、小型のCDプレーヤーと一枚のCDがあった。
「かけるぞ」
カチリ、と音がして、再生が始まる音がした。
流れ出した曲は―――
「っ・・・・・・!?」
―――ピアノの旋律。紛れもない、透離のピアノだった。
「透、離・・・・・・」
曲名はわからなかった。だが、聞いた事がある有名なクラシック。
それから延々と、透離のピアノは曲を変え曲を変え、続いた。
「・・・これが最後の一曲だ」
CDプレーヤーの表示を見て、ロキアが呟いた。最後の曲が、流れ出す。
「こ、れ・・・・・・」
この曲は知っていた。よく、知っていた。曲名も作曲者も、よくよく知っていた。
「フレデリック・ショパンの、夜想曲第二番・・・・・・」
―――透離が世界で最も愛してやまない、一曲だった。
優しい旋律は美しかった。ただただ、美しかった。
「透離―――」
ピアノを聴きながら、思った。
曲に、全てが詰まっている。透離は俺に逢いたくないわけでも、傷つけてしまって悔やんでいるわけでも、ましてや怒っているわけでもないのだと、気付いた。確かに俺に庇って貰って、悔しかったろう。自分を責めただろう。
だが、透離はそれをすっぱり斬り捨てた。斬り捨てる事が出来た。
「透離、」
透離はずっと考えていた。今の自分の想いを、言葉にする事なんて出来ない。だから、逢わない。もっと別の方法で、俺に伝えたい。
俺が逢わない事でどういう風に捉えてしまうのか。そんな事は、透離は全てわかっていた。
だがそれでも、透離は逢わなかった。逢う前に、言葉以外の方法で俺に伝えようと、していた。
「・・・ごめん、透離・・・・・・」
透離が昔、言っていた事を思い出した。俺が麗と久しぶりに対峙し、無性に嫌な気持ちになったときの事だ。
『あの人が伝えたい事、ボスが伝えたい事。きっとそれらは言葉にしたって無駄でしょう。そこに言葉は必要ないのですから。
ボス、そう思いませんか? そこに、言葉って必要でしたか? ・・・貴方とあの人の間に、もう言葉なんてものは通じないでしょう』
―――そこに、言葉は必要ですか。
「有難う、透離・・・・・・」
―――考えた末、透離が思いついた事。
大好きで大好きで、そしてそれ以外の別の想いもあるピアノで、俺に想いを伝える。
「・・・・・・ロキア」
「何?」
「透離に、言っておいてくれるか―――」
*
数日後。俺は無事に退院して、カルコラーレファミリーのアジトへと戻った。
「・・・・・・透離、」
―――久しぶりに見る透離の顔は、澄ました微笑が浮かんでいた。
「そこに言葉は必要なかったよ」
END
ブランクがあるとすぐこうなるんだよなー お久しぶりでしたものね、マフィア話。
とりあえず透離ちゃんと祇徒の仲をアピールしたかったんだけど玉砕ry
お題提供...鴉の鉤爪様 http://ta-ta.boy.jp/title/
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