忍者ブログ
せんそうとへいわ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。





 透離と共に向かった任務で、俺は怪我を負った。透離を庇っての事だった。

「無事で良かった・・・・・・っ!」

 薬品の匂いに包まれた真っ白いベッドの上で、一番初めに眼にしたのは大切な仲間の顔だった。

 ―――ひとり、透離を抜かした五人の顔、だった。

 

 

そこに言葉は必要ですか

 

 

 俺は銃弾を幾つも受けた。俺と透離では、俺のほうが断然強い。だから敵は透離を狙った。

 

『透離―――ッ!!!』

『!?』

 

 俺は、透離を庇った。何発もの銃弾が俺の身体を貫いた。

 

『ボ、ス―――!?』

 

 驚愕に染まった表情。それから一転、思わず子供の頃から裏社会を知り戦場を見てきた俺でも、ビクリと肩を震わせるような―――どす黒い、憎悪の表情。

 その後の記憶は無い。気を失ったからだ。

 

「あの後、敵は完璧に全滅した。透離がちょいと強めの幻術を使いやがってね・・・・・・周りに一般人がいたら、大惨事になるところだった」

 ロキアがそう言っていた。

 

 ―――透離の顔をもう、ずっと見ていない。最後に見たのは、あの憎悪の表情。

 透離は一切見舞いに来てくれなかった。リコリスが言うには、「引きこもりみたいに部屋から全く出てこない」らしい。そして、「ずっと凄く荒々しいピアノの音が聞こえる」とも。

 

「どうしようもないんだと思う、透離は」

 ロキアが言った。

「大切な人が自分の為に傷ついた。そこにあるのは、果てしない無力感。どうやらあの子は以前にも大切な人を失くしているみたいだし―――

 それは俺も知っていた。誰かはわからないし、今その誰かさんがどうなっているのかもわからない。だが、透離は言っていた―――『当分は・・・・・・絶対に逢えないんです』。

 

「透離にとって、お前はその穴埋めなんだと思うよ。こう言ったら嫌な感じするだろうけど・・・」

 穴埋め。それは実に的を得た言葉だと思った。

「だからさ、透離はお前にあわせる顔がねーんだよ・・・傷つけてしまったから」

 ―――否、きっとそれだけではない。透離は俺に怒っているのだ。自分なんかを護りやがって、とそう思っているのだろう。

 

(あとはそうだな・・・・・・)

 あの、どす黒い憎悪の表情。あれを見られた事を、透離は気にしているのではないか・・・と。

(逢って、ちゃんと話がしたい)

 透離は何も悪くない。俺が悪いのだと。勝手に護ってしまった、俺の偽善的精神が悪いのだと。

 

 ―――言葉が何のためにあるのか、わからなくなった。

 

 

 夕方、ロキアが訪れた。午前中には日向が訪れ、昨日はリコリスとユナとリラが来てくれた。一昨日ぶりなのだが、なんだか久しぶりな気持ちになる。

「今日はサプライズプレゼント持って来てやったぜー?」

 そう言ったロキアの顔は、言葉に反して酷く真面目だった。

「それ・・・・・・」

 ロキアの手には、小型のCDプレーヤーと一枚のCDがあった。

 

「かけるぞ」

 カチリ、と音がして、再生が始まる音がした。

 流れ出した曲は―――

 

「っ・・・・・・!?」

 ―――ピアノの旋律。紛れもない、透離のピアノだった。

「透、離・・・・・・」

 曲名はわからなかった。だが、聞いた事がある有名なクラシック。

 

 それから延々と、透離のピアノは曲を変え曲を変え、続いた。

「・・・これが最後の一曲だ」

 CDプレーヤーの表示を見て、ロキアが呟いた。最後の曲が、流れ出す。

 

「こ、れ・・・・・・」

 この曲は知っていた。よく、知っていた。曲名も作曲者も、よくよく知っていた。

 

「フレデリック・ショパンの、夜想曲第二番・・・・・・」

 ―――透離が世界で最も愛してやまない、一曲だった。

 

 優しい旋律は美しかった。ただただ、美しかった。

 

「透離―――

 

 ピアノを聴きながら、思った。

 曲に、全てが詰まっている。透離は俺に逢いたくないわけでも、傷つけてしまって悔やんでいるわけでも、ましてや怒っているわけでもないのだと、気付いた。確かに俺に庇って貰って、悔しかったろう。自分を責めただろう。

 だが、透離はそれをすっぱり斬り捨てた。斬り捨てる事が出来た。

 

「透離、」

 

 透離はずっと考えていた。今の自分の想いを、言葉にする事なんて出来ない。だから、逢わない。もっと別の方法で、俺に伝えたい。

 俺が逢わない事でどういう風に捉えてしまうのか。そんな事は、透離は全てわかっていた。

 だがそれでも、透離は逢わなかった。逢う前に、言葉以外の方法で俺に伝えようと、していた。

 

「・・・ごめん、透離・・・・・・」

 

 透離が昔、言っていた事を思い出した。俺が麗と久しぶりに対峙し、無性に嫌な気持ちになったときの事だ。

 

『あの人が伝えたい事、ボスが伝えたい事。きっとそれらは言葉にしたって無駄でしょう。そこに言葉は必要ないのですから。

 ボス、そう思いませんか? そこに、言葉って必要でしたか? ・・・貴方とあの人の間に、もう言葉なんてものは通じないでしょう』

 

 ―――そこに、言葉は必要ですか。

 

「有難う、透離・・・・・・」

 

 

 ―――考えた末、透離が思いついた事。

 大好きで大好きで、そしてそれ以外の別の想いもあるピアノで、俺に想いを伝える。

 

「・・・・・・ロキア」

「何?」

「透離に、言っておいてくれるか―――

 

 

 数日後。俺は無事に退院して、カルコラーレファミリーのアジトへと戻った。

「・・・・・・透離、」

 ―――久しぶりに見る透離の顔は、澄ました微笑が浮かんでいた。

 

 

 

 

そこに言葉は必要なかったよ

 

 

END


見事にgdgd(
ブランクがあるとすぐこうなるんだよなー お久しぶりでしたものね、マフィア話。
とりあえず透離ちゃんと祇徒の仲をアピールしたかったんだけど玉砕ry

お題提供...鴉の鉤爪様 http://ta-ta.boy.jp/title/

拍手[0回]

PR
コメントを書く
お名前
タイトル
メールアドレス
URL
コメント   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
パスワード
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
 HOME | 63  62  61  59  58  57  56  53  52  51  50 
Admin / Write
Calendar
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
Profile
Name:在処(arika)
Sex:女
Birth:H7,3,22
Job:学生
Love:小説、漫画、和服、鎖骨、手、僕っ子、日本刀、銃、戦闘、シリアス、友情
Hate:理不尽、非常識、偏見
Twitter
NewComment
[08/17 在処]
[08/16 曖沙]
[08/16 曖沙]
[08/15 在処]
[08/15 曖沙]
Counter

FreeArea
FreeArea
Ranking
ブログランキング・にほんブログ村へ

にほんブログ村 小説ブログへ

にほんブログ村

人気ブログランキングへ

Barcode
忍者ブログ [PR]