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せんそうとへいわ
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第六話

 


 「――― 本当に、御免」


「何度目よ? 世賭」


「もういいよ」


 要と棗の件があったその次の日。未だに謝り続ける世賭を苦笑混じりで見つめながら、翠はぽつりと呟いた。


「やっぱり僕は、“聖”たちに操られたんですよね」


「まあ、そうでしょう。私をおびき寄せるための」


 上手く事が運べば、アリカにそれなりの怪我を負わせ“聖”たちのところへ連れて行きたかったといったところだろう。それが恐らく要と棗に課せられた任務だったに違いない。


「要も棗も、今頃どうしているだろうな」


「死んでいるか、新たな任務を与えられているかのどっちかじゃない? 私的には後者が有力かな」


 翠が作ったクッキーを頬張りながら、アリカは言った。


「最初は殺されちゃうだろうなって思ってたけど、たぶんそれはもうないかも。そろそろ本命にはしっても可笑しくない頃でしょ? ていうか、私自身そのつもりなんだけど。こんなときに、強力な味方を減らすほど“聖”らは莫迦じゃないと思うんだ」


 ――― “聖”。


 世賭の中で、何かが引っかかる。それはアリカと“聖”に何があったのか、どんな関係なのか、どうして関わったのか、アリカは何者なのか――― そして、“()という名前そのものに(・・・・・・・・・・)



(
・・・名前?)


 何故、今自分は“聖”という名前に引っかかったのだろう? ――― 否、違う。


(
いや、今だけじゃない・・・ずっと、もっと前からだ・・・)


 世賭の思考を遮るように、アリカが口を開いた。


「ごめん、関わらせたくは無かった――― だけど、こんなことになっちゃって、」


「良いんですよ。僕らは・・・仲間、なんですから」


 翠の言葉に、ふっ、とアリカが笑みを漏らす。


――― アリカ、」


「・・・」


 真紅の瞳が世賭を見つめる。


「・・・いや、何でもない。とにかく・・・死ぬなよ」


「・・・そうね。世賭も、翠もね」


 ――― 始まってしまう、戦乱が。皇帝への下剋上が。



 「・・・“蜜鏡”」


――― 申し訳ありませんでした」


「・・・任務、失敗しました・・・」


 暗がりに浮かぶ、玉座に腰掛けているような姿の人影。その人影に向かって、要と棗は頭を垂れていた。


 任務には失敗した。自分たちは一体、どうなってしまうのだろうか。恐怖に、床に向けた顔が歪む。


「本当に、申し訳ありません――― 黒木聖様(・・・・)


 ――― 黒木聖。要の口から出た、“聖”の頂点に立つ者の名前。


「まあ、良い。今回で、アリスにも他二人にも、私たちの意志は伝わっただろう。戦乱のパーティーの準備は、もう既に完了していることだしな。


 
――― 新たな任務を与える。三人をここに招待しろ。それで今回のことは免除だ」


「っ・・・! 有難う御座います、黒木様」


「・・・すぐに向かいます」


「・・・早く行け」


「はい」


 瞬間、要と棗の姿が消えた。そしてタイミングを計ったかのように、一人の男の人影が黒木聖の真横に現れる。


「珍しく優しいんだな」


「・・・無駄口叩いている暇があったら、パーティーの準備でもしておけ」


「・・・・・・パーティー、ねぇ・・・」


 黒木聖は笑う。心底楽しそうな笑みを貼り付けて、笑う。

 

 ――― いよいよ感動の再会、そして感動の最期だぞ・・・アリス・・・!


 
 静かにアリカは顔を上げる。窓から見える夜空には、月も星も無く、永遠とダークブルーの空が広がっていた。


「・・・黒木聖・・・」


 いつだって他人行儀にそう呼んだ。アリカにとって、あんな程度の存在(・・・・・・・・)は、味方はおろか敵とも呼ぶほどの存在ではなかった。なんてことはない、そこらへんに転がる石ころのような存在。虫けらのような、余計な部下(・・・・・)


(
だけど、)


 黒木聖は、本当はそんな程度の人間ではなかったのだろう。綺麗で、純粋で、強い存在だったのだろう。


(
今となっては、ただの敵だけれど(・・・・・・・・))


 今となっては。黒木聖にかつての綺麗さも純粋さも強さも、無いのだろう。それが、哀しくてたまらなかった。


「黒木聖・・・」


 ――― 昔は私が“悪”だった。昔は貴方が“善”だった。どこから変わってしまったのだろう。どうして変わってしまったのだろう。


「待っていて、黒木聖――― 私が必ず迎えに行く」


 かつての、黒木聖の姿を思い浮かべながら。


 アリカは無表情で、夜空を見上げ続けた。



 アリカが銃を左足の太腿にあるホルスターに二丁、入れたのを見た。そして、ひっそりと使い込まれた剣が置いてあるのも。


 世賭はじっ、とソファに座っていた。瞑想や座禅でもしていそうな雰囲気を漂わせて、アリカの剣を見つめる。


(
――― 始まるのか)


 あの戦闘準備。何より、アリカの表情。何も映していないような、空虚な無表情。


(
“聖”たちとの戦闘が)


 神経が過敏になっているのがわかる。戦闘の前は、いつもこうだ。


「世賭?」


 不意に呼びかけられて、世賭は思わず瞬きを数回した。訝しげな声を出しておきながら無表情は変わらないアリカの顔が、世賭を覗き込んでいる。


「始まるのか?」


――― そうね」


 変に誤魔化さないところが、アリカの良いところだ。


「翠は?」


「もう随分前に起きて、今は本でも読んでいると思うが」


 そう、とアリカは呟き、ソファにどかりと座る。


――― 魔術の気配がする。この魔力は要と棗のもの」


「要と棗・・・?」


「お迎えじゃないの? “聖”も良い演出するわよね」


 皮肉めいた笑みを浮かべて、アリカが言う。


「・・・戦う覚悟は、ある?」


「当たり前だ」


 世賭の即答を聞いて、アリカはクスリと笑みを漏らす。


「世賭がそうなら、きっと翠も同じ気持ちだね」


 すっ、と笑みが消え、憂いを帯びた表情へと変わる。


――― 全て、私から始まったんだ」


「え?」


「・・・ううん、何でもない」


 ――― 始まりは、全て少女(アリカ)


 その言葉が意味するものが何なのか、世賭にはわからなかった。



 ――― わかったときにはもう、全ては終わってしまっていたのだけれど(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)



 翠はそっと扉を開けた。世賭とアリカが喋っている。


「世―――


 世賭、と呼びかけようとした瞬間、部屋全体が眼を開けられないほどの光に包まれ、翠は「うっ」と呻いた。


――― お久しぶりです」


 聞き覚えのある声が響き渡り、光がすっ、と部屋の中心に吸い込まれるようにして、消えた。


「な・・・っ!」


 ――― 光が集まったところに、要と棗の姿があった。


「翠、」


 アリカが翠の姿を見つめ、声をかける。


「アリカちゃん・・・」


 アリカの手に剣があるのを見て、翠は一瞬で察した。要と棗が現れたのは、“聖”たちとの戦乱のお迎えに来たからなのだと。


 思わずぎゅっ、と愛剣を翠は握り締め、世賭の隣へ移動した。


「お迎えに上がりました」


「わかってるわ」


 要の口の端が、ゆるりと上がる。


「それでは、」


 またも、光。今度は脳髄にまで届くような、眩んでしまうぐらいの光。


「参りましょう」


 ――― がらんとした部屋。その家には、五人の姿はもう無かった。



...第七話に続く
 


修正前があまりにも雑だったので、雑な仕上げになりました。
いやあ、昔の私ってほんと下手だな・・・いや、今も下手だけど。
次回から黒木聖たちとの決戦です。
さて、黒木聖たちがアリカを狙う理由とは? 世賭が度々ひっかかっている「聖」の名前の秘密とは? 翠がたまに言いかける、「世賭は――」の続きとは?
・・・・まあ、二つ目のやつは第二章にならないとわからないんですけどね!←

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