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せんそうとへいわ
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第四話



 「――― まさか、こんな奇跡が起こるなんて思っても見ませんでした!」


 少年が、にこにこと笑みを浮かべながら、隣にいる少女を見る。


「ほんとだよね。私も吃驚だよ!」


 少女はそのまた隣の少年に微笑みかける。


「・・・そうだね」


 少年は無表情に呟く。



「アリカさんが逆転勝ちするなんて!」


 三人の手にはトランプ。少女、アリカの最後の手札が床にひらりと落ちた。顔がそっくりな二人の少年は、あっさりと負けを認めたようで、トランプを片付け始める。


「・・・なんで呑気にトランプなんてしてるんだ・・・」


 トランプに参加せず、黙ってソファに座っていた世賭は、半ば困ったような声でそう呟いた。いつも一緒にいる翠は、今はいない。


「良いじゃない。順応するって良いことよ。それに、今はこうしているしかないしね?」


 笑みの裏に、薄っすらと冷たさを含ませた言葉を吐いたアリカは、トランプを箱に仕舞う。


「・・・本当にすみません、こんなことになってしまって」


「構わないよ、(かなめ)君。仕方の無いことだしね」


 少年の一人、要は苦い笑みを浮かべた。



 ――― 血の海と化した塔で双子の少年を発見した後。アリカたちは、二人を家へと運んだ。


「どうして僕に・・・似ているんでしょう」


 双子の少年は、明らかに翠と面影が似ている。しかし、見覚えは無い。


「まあ、この子たちが眼を覚ませばわかることだから、気長に待とうよ。翠、私紅茶飲みたい」


「そうですね・・・。わかりました、今淹れますよ」


 翠が台所へ立った直後。二人の少年が、眼を覚ました。


「ここは・・・?」


「私たちがたまたま貴方たちを見つけて助けたの。ここは私の家よ」


 二人の少年は要と(なつめ)と名乗った


「僕たちはある人を探していて、この都市にいると聞いてここに来たんです。ここの象徴でもある塔でパーティーをやっていると知って、もしかするといるかもしれないと思ったんですが・・・そしたら、あんなことに」


「誰が、あんなことを?」


「・・・わからない。パーティーの最中に、黒服を来た奴等が入って来て、次々に殺して行った。急いで俺たちはテーブルの下に隠れたし、動転していたから顔はあまり覚えていない。血がテーブルクロスに撥ねて、気を失った」


 そして要は、衝撃の事実を口にする。


「あ、そういえばね・・・テーブルの下に隠れた直後に聞こえたんだけど」



―――
「早く皆殺しにするぞ。“(ひじり)”様の命令だからな」



「“聖”・・・!?」


 アリカの表情が、驚愕へと変わった。翠がカップにお湯を注ぐ音が響く。


「そんな、“聖”が・・・」


「・・・アリカ、その“聖”っていうのは」


「・・・後で話す。それより、探していた人って誰なの?」


 世賭の問いを避けるかのように、アリカは要と棗に尋ねた。


「俺たちの従姉で、凍城(とうじょう)家の生き残り―――


 砂糖をかき混ぜる、スプーンとカップの当たる音が急に止まった。


凍城翠さんを、探しているんです(・・・・・・・・・・・・・・・)


「翠・・・だって・・・!?」


 一瞬にして、空気が変わった。アリカと世賭は、思わず台所の方向に振り向く。


 翠は、いつもの笑みが消え失せた、冷たい仮面でも被っているかのような表情で、静かにカップを見つめていた。

 やがて、翠は口を開いた。


「・・・どうして、」


「貴女が、翠さんなんですね」


 ひどく落ち着いた声で、要が確認する。


「どうして、貴方たちがここに」


「僕たちは貴女を迎えに来たんです」


「迎えに・・・!?」


 世賭が狼狽した表情で、翠は身体を強張らせた。


「僕らは唯一の血の繋がりを持つ者同士です。もう、凍城は誰もいない・・・僕らを除いて。血縁関係にあるんですから、一緒にいるべきでしょう?」


「どこで僕の存在を知ったんですか」


「それはお教え出来ません」


 さあ、僕らと一緒に暮らしましょう。要は、淡々と言い放った。


「・・・少し考えさせて下さい」


「勿論です。いくらでも待ちますよ」


 要がにこりと微笑んだ瞬間、翠は足早に部屋を立ち去った。



 ――― それが、ほんの一時間ほど前の話だ。未だに、翠は部屋から戻って来ていない。


「ねえ、凍城家の生き残りってどういうこと?」


「そのままの意味ですよ。僕と棗、そして翠さんは、凍城家で唯一生き残っている人物なんです」


「・・・凍城」


 世賭の微かな呟きを、アリカは気にしつつも話を続けた。


「ということは、もう皆死んじゃってるの?」


「ああ。十二年くらい前、凍城家の当主だった、俺たちの祖父を含めた大人たちが、全員火事で死んでしまったんだ。放火だったって聞いてる。その後、生き残ったけれどばらばらに別れた十人以上の従兄弟たちも、皆何故か死んでしまった」


「ふーん・・・悲惨な話だね。世賭、知ってたの?」


「・・・まあ、少しは」


 眉間に皺を寄せて、世賭は答えた。どうやら、あまり話したくない話らしい。


「でも、驚きだね。ばらばら別れた従姉弟がこんなふうにして逢えるなんて」


「そうですね。この町に来たかいがありました」


 だけど・・・、と要は小さく呟く。


「翠さんは、僕らと一緒になりたくはないんでしょうね」



 翠は一人、一応現在は自室となっている部屋のベッドにうずくまっていた。先程聞いた話がショックで、まともな思考が出来ない。


(
どうして、従弟が)


 翠は狼狽していた。困惑していた。戸惑っていた。何故ならそれは―――


「在り得ない、本来なら在り得ないんだ」


 ――― 従弟が、要と棗が、ここにいるはずがない(・・・・・・・・・)


「だって、従弟たちは残らず全員・・・僕が、」



 ――― 従兄弟たちは一人残らず、この手で殺したのだ。






...第五話に続く

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