麗様が怪我をした。とあるマフィアとの抗争で、秦と葵と向かった任務だった。
「姉さん・・・っ!!」
僕と昴は違う任務に出ていて、ソルトは別の組織の任務をやっていたときだった。
かなりの重傷を麗様は負っていて、もう五日も眼を醒まさない。秦はずっとつきっきりで、それをソルトが悲痛な表情で見守っている。葵は部屋に引きこもって全く出てこない。
改めて実感した。麗様がいなければ、僕らは本当に無力なのだということを。僕らは麗様がいなければ、繋がることが出来ないのだ。
「俺があのとき姉さんから離れずにいたら・・・っ」
秦はそう言って自分を責める。その横でソルトは、ただただ悲痛な面持ちで突っ立っていた。
僕から言わせれば、秦はずるい。ソルトが自分を責める言葉を聞いて、どんな思いをしているのか―――秦は、わかっているから。
ソルトが一番、自分のことを責めている。ソルトにとって、ファミリーは―――麗様は、自分よりも大切な存在だ。その大切な存在が傷ついているとき、自分は違う仲間のもとで違う任務に就いていた。これ以上の罪悪感はないだろう。
ソルトが悪いわけではない。それは絶対にない。だが、ソルトにとってたぶんこの世で一番忌むべき存在は自分であるから、そう思ってしまうのだろう。
秦はそれを全てわかった上で、自分を責めている。それが余計にソルトの気持ちを暗くさせていることを気付いていて、でもそれでも自分を責めずにいられない。
秦はソルトのことが好きなのだ。だからソルトがソルト自身を責めることがとても辛い。それを少しでも紛らわせようと、自分を責める。その繰り返し。それが永久に終わらないリピートだということには気付かずに。
そして、その間も葵はずっと自分の部屋に閉じこもっている。
「葵は自分が麗ちゃんを護れなかったことを悔やんでいるのか、悲しんでいるのか、怒っているのか、僕には全くわからない。
どうしてずっと閉じこもっているの? 夜に抜け出して麗ちゃんのところに行ってること、僕は知ってる。いつもの葵なら普通に逢いに行くだろうに、どうしてなの?
全然わからない、葵のこと全然―――」
居間で自分が淹れた紅茶を飲んでいるとき、昴がそう言った。顔にも声にも感情は無く、悲痛そうな言葉は悲痛に聞こえずに僕に伝わった。
「・・・わからなくていいんじゃないの、葵のことは」
「どうして?」
僕は黙って自分の淹れた紅茶を飲んだ。
「ねえ、レン」
昨夜、久しぶりに聞いた葵の声が甦る。
「葵・・・?」
廊下に浮かび上がる葵の姿は、凄く脆く見えた。
「どうしたら麗は眼を醒まさないだろう?」
「・・・え・・・?」
僕は気付いた。今の葵は脆いだけではなく―――狂っている。
「もう逃げないと誓ったのに、ずっと見ていると誓ったのに、僕はまた逃げてしまった。もう麗に顔を合わせられない。
それに・・・弱い麗を見たくないんだ・・・」
葵はそう言った。
「弱い麗なんて見てしまったら僕は―――」
・・・歪んだ葵の表情が、残像として酷く頭に残った。
*
「葵は自分のこと、わかってほしいだなんてきっと思ってないよ。というかさ、葵に限らず他の人も。だって考えてみなよ? 僕は昴の過去のこととか知らないし、昴だって僕のこと、知らないだろ? ソルトのことだって僕は知らない。秦とか麗様はまた別だけど、勿論葵のことだって知らない。
それぞれの過去や想いは、麗様だけが理解していればそれでいいんだよ。僕の過去のこと、知っているのは麗様だけだし。それは昴やソルトもそうなんじゃない?」
まあ、葵のことは麗様も知っているかどうかわからないけど、と僕は呟いた。複雑な表情の昴が眼の隅に映る。
葵はきっと凄く良い選択をしたのだろう。愛する麗様にも自分のことを、自分の過去を教えない。皆を仲間と言って笑顔を見せながらも、一歩退いて冷ややかな目つきで皆を見ている。
愛するものに深入りしない。仲間と言う名の底なし沼に、決して近付こうとしない。
「仲間のこと、なんだからさ―――」
ぽつり、と昴の呟きが聞こえて、僕は顔を上げた。
「?」
「知りたいって思うの、変なこと? 滑稽だって思う? だけど僕は少しでも知りたいよ。過去のこととか全部教えてくれとは言わないけど、ほんとの気持ちぐらい・・・さ、仲間じゃないの? 僕らは」
昴の言葉が、僕の胸に突き刺さる。昴の言っていることは、正しい。
・・・だが、僕の選択は揺るがない。
「・・・ソルトは麗様と秦のこと、たぶんファミリーの中で一番大切にしてる。秦はそれ以上に、憧れの入り混じった想いをソルトに抱いている。
僕は麗様のことすごく尊敬してるし、昴は皆のこと好きだ。
葵はたぶん麗様のことが一番大好きで愛してるけど、それは恋愛感情ではないと僕は思う。でも麗様は葵のこと好きだし、というか皆のこと大好きだけど、心の奥に違う人がいる。
昴もこれぐらいは理解しているでしょ? これだけで僕は十分だと思うよ、だって・・・」
―――これ以上深入りしたら、もう戻れなくなるから。
でも、わかっているのだ―――僕も、葵も。選択は良いものだったけれど、決して正しくは―――世界の真実ではないということを。
『弱い麗なんて見てしまったら僕は―――』
『麗を、殺してしまいそうになるよ』
滑稽な正義
(わかってるよ、所詮人間は愛でしか生きられないんだってことぐらい)
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Job:学生
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