麗ちゃんが怪我をした。とあるマフィアとの抗争で、秦と葵と三人で向かった任務だった。
「姉さん・・・っ!!」
僕とレンは違う任務に出ていて、ソルトは別の組織の任務をやっていたときだった。
かなりの重傷を麗ちゃんは負っていて、もう五日も経つのに眼を醒まさない。秦はずっとつきっきりで、ソルトはそれを悲痛な表情で見ている。葵は部屋から閉じこもって全く出てこない。
こういうとき、改めて思う。僕らを繋ぐのは麗ちゃんしかいなくて、麗ちゃんがいなければ僕らはどうしようもないんだってことが。
「俺があのとき姉さんから離れずにいたら・・・っ」
そう言って唇を噛み締める秦の横で、ソルトはただただ悲痛な顔で立っている。それを知っているからこそ、秦は自分を責めていると僕は思っている。ソルトが一番、自分のことを責めているから。
ソルトはヴェンタッリオファミリーとは別に、違う組織にも属している。なんだか名前は忘れてしまったけれど、特別自警軍事機関とかそういう類だった。
その任務に出向いていて、ソルトはしばらく不在だった。そのことを悔やんでいるのだ。
たぶんソルトにとって、その特別自警軍事機関よりもファミリーのほうが大事なのだろう。だが、ソルトは心優しいからそっちの組織のことだって大切に思っているし、ちゃんと任務もこなさなくてはならない、と使命感と責任感をちゃんと持っている。
ソルトは知っていた、自分が今違う任務に向かったら、その間にマフィアの抗争にヴェンタッリオが巻き込まれることを。だが、それでも軍事機関の任務に向かった。それは秦や葵に対しての信頼があったからだ。
だから今、ソルトは自分を責めている。自分が違う任務に向かってしまったから、麗ちゃんが重傷を負ってしまったのだと。秦のように泣くこともできず、ただ黙って悲痛な表情をしているだけ。
そしてそのことに秦は気付いている。だって秦は、たぶん物凄くソルトのことを想っていて憧れていて、そして何より好きだから。
ソルトが秦のことを好きなことと、秦がソルトのことを好きなことは、違う。惚れた側が弱いのは、異性でも同性でも同じだ。
僕がわからないのは葵だった。部屋に閉じこもっている葵だけれど、つきっきりの秦も寝てしまうほどの真夜中に、こっそり部屋から抜け出し麗ちゃんのところに向かっていることを、僕は知っている。
葵は麗ちゃんが好きなのだろう、恋愛感情として。だが、葵はそれを否定する。葵どころか、レンまでもそう言う。
『“愛”してはいるけど、“恋”してはいないから』
つまり恋愛感情ではないということか。
葵が今何を思い何を考えているのか、僕にはわからない。だが、葵は麗ちゃんのことがきっと好きだ。絶対、好きだ。だけど、わからない。
果たして葵は自分が麗ちゃんを護れなかったことを悔やんでいるのか、悲しんでいるのか、怒っているのか、僕には全くわからない。
「・・・わからなくていいんじゃないの。葵のことは」
「どうして?」
レンは少し黙って、自分が淹れた紅茶を飲んだ。
「やっぱりソルトが淹れる方が美味しいな・・・・・・」
「そんなこと聞いてないよ」
そう言うと、レンは苦笑を漏らした。
「葵は自分のこと、わかってほしいだなんてきっと思ってないよ。というかさ、葵に限らず他の人も。だって考えてみなよ? 僕は昴の過去のこととか知らないし、昴だって僕のこと、知らないだろ? ソルトのことだって僕は知らない。秦とか麗様はまた別だけど、勿論葵のことだって知らない。
それぞれの過去や想いは、麗様だけが理解していればそれでいいんだよ。僕の過去のこと、知っているのは麗様だけだし。それは昴やソルトもそうなんじゃない?」
まあ、葵のことは麗様も知っているかどうか知らないけど、と呟いて、レンは紅茶を飲み干した。
確かに、そうだ。何も知らない。秦のことも、ソルトのことも、レンのことも、葵のことも―――麗ちゃんのことも。
でも、それでも僕は―――。
「仲間のこと、なんだからさ・・・」
「?」
「知りたいって思うの、変なこと? 滑稽だって思う? だけど僕は少しでも知りたいよ。過去のこととか全部教えてくれとは言わないけど、ほんとの気持ちぐらい・・・さ、仲間じゃないの? 僕らは」
少しだけ、レンの眼が丸くなった。
「・・・ソルトは麗様と秦のこと、たぶんファミリーの中で一番大切にしてる。秦はそれ以上に、憧れの入り混じった想いをソルトに抱いている。
僕は麗様のことすごく尊敬してるし、昴は皆のこと好きだ。
葵はたぶん麗様のことが一番大好きで愛してるけど、それは恋愛感情ではないと僕は思う。でも麗様は葵のこと好きだし、というか皆のこと大好きだけど、心の奥に違う人がいる。
昴もこれぐらいは理解しているでしょ? これだけで僕は十分だと思うよ、だって・・・」
これ以上深入りしたら、もう戻れなくなるから。
レンの言葉は僕に突き刺さった。
戻れなくなるってどういうこと? 戻れなくなったっていいよ、仲間という名の底なし沼に、僕は自ら浸かりにいける。
だけどレンは違うの? 葵も違う? 皆はそう思っていない?
「・・・やっぱり、わからないよ」
―――麗ちゃんはいつ、眼を醒ましてくれるのだろう。
(やっぱり僕らは、麗ちゃんがいないと繋がっていられないんだ)
滑稽な正義
(わかってるよ、所詮人間は愛だけでは生きられないんだってことぐらい)
察しの良い方はもうおわかりでしょう、タイトルを見て。そうです、これは昴verなのです。ということは違うverもあるということです。
最初は葵目線、それからソルト目線で書くつもりでした。
でも、なんか葵やソルトのことを語るにはその目線で行くと主観的になってしまうなと思ったので、慣れるという意味も含めて昴目線で。
もう一個はレン目線で行きたいと思います。敢えて昴のあとに出すことにより、意見がレンのほうに傾くよう仕掛けてみました。
そうです、昴の意見はだいぶ間違ってます、つか私的には。そこらへんのことは次回のレンがなんとか軌道修正してくれます。つまり、なんとかしてくれます。
現実的なものが書きたかった、ただそれだけのシリアスです。麗、大怪我させちゃってごめん。秦、目立たなくてごめry
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Sex:女
Birth:H7,3,22
Job:学生
Love:小説、漫画、和服、鎖骨、手、僕っ子、日本刀、銃、戦闘、シリアス、友情
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