いつも遊びの計画や、下らないけど面白い企画を言い出すのは、樹か零だった。しかし、樹は小六から性格が変わってしまったため、その後はもっぱら零がその担当だった。
「百物語、しない?」
「百物語?」
宴会も佳境に近付いた頃だった。唐突に零がそう言い出して、僕らは酔った顔を零に向けた。
「知らない? 大勢の人が集まって百本の蝋燭を立て、怪談を語っていく。語り終わるたびに一本ずつ消していくっていう遊びなんだけど」
「いや、それはわかるけど」
この中で最も酒を飲んでいたのは零だったはずだが、零は相変わらず白い肌のままで、口調も普段どおりだった。相当酒に強いのだろう。確かに酒豪になりそうではあったけれど。
「今から?」
「勿論。嫌な人は不参加でも構わないけど」
「楽しそうだ、是非参加するよ」
「暇だしね、問題ない」
「折角の機会だし」
口の端を上げて、零は笑った。皆がこの企画に乗ることは予想通りだったというわけだ。確かに、このメンバーで乗らない奴はいないだろうし、それに酔っているというのもある。
「じゃ、この宴が終わってから、イチの家に」
「え、マジで? ……まあ、いいけど…問題ないし」
そういえばイチの家はお寺であった、と思い出す。ここから地元までそう遠くない。本当に大丈夫なのかとイチに聞いたが、「親は旅行に行ってて、いるのは弟だけだから平気」と言われた。長男であるイチではなく、弟が寺を継ぐらしい。
「許可も得られた事だし、決定だね」
にっこりと、零が微笑んだ。
*
イチの弟は快く僕らを迎えて来てくれた。
「兄貴はいつも零さんに振り回されていますから、こういう事には慣れています。特に問題は無いですから、こちらをお使い下さい」
兄弟揃って零に振り回されているわけだ、と心中で呟いた。
案内されたのは、がらんとした十三畳程度の和室だった。四方は襖で閉め切られており、座布団が積み上げられている以外は特にこれといったものは置かれていない。
「ここは全然使っていないんです。今、蝋燭を持って来ますね」
「百本はいらないよ。そんなにネタが出るわけではないだろうし、まあ酔っているからいつもよりは皆、饒舌になるかもだけど。三十本くらいで」
「わかりました」
「百話を語り終えて百本目の蝋燭を消したら、恐ろしい事が起こるから。百本の明かりを消すのは無謀な事よ」
イチの弟が出て行ったのを見届けて、柏木さんがぼそりと言った。
「なんだか怖くなってきちゃった」
座布団を並べているヨシュアを手伝いながら、今井さんが言う。確かにいつもの彼女なら、もっと怖がって嫌がったかもしれない。やはり酒の力というのは恐ろしいなと苦笑した。
「確かに、やっぱり雰囲気はあるよな」
樹の言葉に、皆が同意した。
何せ、寺だ。しかも、なかなか古くから歴史があると聞いた事がある。この部屋は一見普通の和室であるが、雰囲気はただならぬものであった。一歩外に出れば、一目で寺とわかる風景が広がっている。恐怖も倍増だ。
「怖い話をすると、幽霊やらそういったものが寄って来るって言うよね」
「おお、怖い怖い」
「ふざけてやると、更に恐ろしい目に……なんて事も言われるしねぇ」
「ふざけるなんてとんでもない。こっちは大真面目だってば」
不意に襖が開き、蝋燭を入れた箱を抱えたイチの弟が入って来た。部屋の中心にそれを置くと、ライターを零に渡し、「それではお気をつけて」と愉快そうに笑って部屋を出て行った。
「なんだか怖い事言うなぁ」
「神主さんが言うと、洒落にならないわ」
「ま、とにかく、始めるとしますか」
カチッ、と音が鳴って、部屋の電気が消えたと共に、蝋燭に火が灯された。
―――遠くの方で、猫が一声みゃーおと鳴いた。
...参に続く
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