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せんそうとへいわ
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 ―――何が、いけなかったのだろう。

 ―――何が、駄目だったのだろう。

 ―――きだった、はずなのに。

 ―――それも全て、終わったはずなのに。

 ―――自分には、わからなかった。

 ―――少年には、わからなかった。

 ―――わからなかった、のだ。

 ―――どうしても。

 

 

 カルコラーレファミリー。『計算する』という意を持つそのマフィアは、現在十五歳の少年が首領(ボス)を勤めている。

 少年の名は、閑廼祇徒。生まれてきたときから、マフィアのボスとなることが義務付けられていた少年。

 

(わかっては、いたんだ―――それが、どういうことかだなんてさ)

 

 わからなかったのは全て、あの少女の事だけだ。

 

(マフィアってもんがどういうものなのか、あいつだって理解していたはずなのに)

 

 ただ、わからないだけなのだ、祇徒は。

 

(どうしてあんなに苦しそうな顔をするのかが)

 

 敵対しているはずなのだ。憎んでいるはずなのだ。もう、終わったはずなのだ。

 なのに。

 

(たまに俺にだけ見せる、あの表情。悔やむように悲しむように―――)

 

 きだった、少女の事が。

 

(今でも大切には想ってる)

 

 だが、あのときあの瞬間に―――終わったのだ、もう。祇徒にとっては、全て終わった事でしかないのだ。

 

(でももう、それ以上の感情はねぇんだよ)

(お前もそうじゃなかったのかよ? なあ、)

 

 閑廼祇徒は短気で口が悪くぶっきらぼうで、でもとても優しい少年だ。だが、彼には彼自身気付かない、残酷さがある。

 所詮は、生まれながらにしてマフィア側に染まりきった人間だという事なのだ。

 

 ―――少年にはわからない。少女は自分とは違うという事に。少女はあの感情を捨て切れていないという事に。

 ―――少年にはわからない。自分では終わった事だとしても、少女にとっては終わっていないという事を。

 ―――少年にはわからない。結局のところ、そこに“”は無かったのだという事を。

 

「・・・麗、」

 

 ―――少年には、わからない。

 

 

の神様は失しました

(要するに、の神より運命の神が強かったって事だろ?)
―――少年にはわからない。それ自体が、間違っている事に。
 

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第四話



 「――― まさか、こんな奇跡が起こるなんて思っても見ませんでした!」


 少年が、にこにこと笑みを浮かべながら、隣にいる少女を見る。


「ほんとだよね。私も吃驚だよ!」


 少女はそのまた隣の少年に微笑みかける。


「・・・そうだね」


 少年は無表情に呟く。



「アリカさんが逆転勝ちするなんて!」


 三人の手にはトランプ。少女、アリカの最後の手札が床にひらりと落ちた。顔がそっくりな二人の少年は、あっさりと負けを認めたようで、トランプを片付け始める。


「・・・なんで呑気にトランプなんてしてるんだ・・・」


 トランプに参加せず、黙ってソファに座っていた世賭は、半ば困ったような声でそう呟いた。いつも一緒にいる翠は、今はいない。


「良いじゃない。順応するって良いことよ。それに、今はこうしているしかないしね?」


 笑みの裏に、薄っすらと冷たさを含ませた言葉を吐いたアリカは、トランプを箱に仕舞う。


「・・・本当にすみません、こんなことになってしまって」


「構わないよ、(かなめ)君。仕方の無いことだしね」


 少年の一人、要は苦い笑みを浮かべた。



 ――― 血の海と化した塔で双子の少年を発見した後。アリカたちは、二人を家へと運んだ。


「どうして僕に・・・似ているんでしょう」


 双子の少年は、明らかに翠と面影が似ている。しかし、見覚えは無い。


「まあ、この子たちが眼を覚ませばわかることだから、気長に待とうよ。翠、私紅茶飲みたい」


「そうですね・・・。わかりました、今淹れますよ」


 翠が台所へ立った直後。二人の少年が、眼を覚ました。


「ここは・・・?」


「私たちがたまたま貴方たちを見つけて助けたの。ここは私の家よ」


 二人の少年は要と(なつめ)と名乗った


「僕たちはある人を探していて、この都市にいると聞いてここに来たんです。ここの象徴でもある塔でパーティーをやっていると知って、もしかするといるかもしれないと思ったんですが・・・そしたら、あんなことに」


「誰が、あんなことを?」


「・・・わからない。パーティーの最中に、黒服を来た奴等が入って来て、次々に殺して行った。急いで俺たちはテーブルの下に隠れたし、動転していたから顔はあまり覚えていない。血がテーブルクロスに撥ねて、気を失った」


 そして要は、衝撃の事実を口にする。


「あ、そういえばね・・・テーブルの下に隠れた直後に聞こえたんだけど」



―――
「早く皆殺しにするぞ。“(ひじり)”様の命令だからな」



「“聖”・・・!?」


 アリカの表情が、驚愕へと変わった。翠がカップにお湯を注ぐ音が響く。


「そんな、“聖”が・・・」


「・・・アリカ、その“聖”っていうのは」


「・・・後で話す。それより、探していた人って誰なの?」


 世賭の問いを避けるかのように、アリカは要と棗に尋ねた。


「俺たちの従姉で、凍城(とうじょう)家の生き残り―――


 砂糖をかき混ぜる、スプーンとカップの当たる音が急に止まった。


凍城翠さんを、探しているんです(・・・・・・・・・・・・・・・)


「翠・・・だって・・・!?」


 一瞬にして、空気が変わった。アリカと世賭は、思わず台所の方向に振り向く。


 翠は、いつもの笑みが消え失せた、冷たい仮面でも被っているかのような表情で、静かにカップを見つめていた。

 やがて、翠は口を開いた。


「・・・どうして、」


「貴女が、翠さんなんですね」


 ひどく落ち着いた声で、要が確認する。


「どうして、貴方たちがここに」


「僕たちは貴女を迎えに来たんです」


「迎えに・・・!?」


 世賭が狼狽した表情で、翠は身体を強張らせた。


「僕らは唯一の血の繋がりを持つ者同士です。もう、凍城は誰もいない・・・僕らを除いて。血縁関係にあるんですから、一緒にいるべきでしょう?」


「どこで僕の存在を知ったんですか」


「それはお教え出来ません」


 さあ、僕らと一緒に暮らしましょう。要は、淡々と言い放った。


「・・・少し考えさせて下さい」


「勿論です。いくらでも待ちますよ」


 要がにこりと微笑んだ瞬間、翠は足早に部屋を立ち去った。



 ――― それが、ほんの一時間ほど前の話だ。未だに、翠は部屋から戻って来ていない。


「ねえ、凍城家の生き残りってどういうこと?」


「そのままの意味ですよ。僕と棗、そして翠さんは、凍城家で唯一生き残っている人物なんです」


「・・・凍城」


 世賭の微かな呟きを、アリカは気にしつつも話を続けた。


「ということは、もう皆死んじゃってるの?」


「ああ。十二年くらい前、凍城家の当主だった、俺たちの祖父を含めた大人たちが、全員火事で死んでしまったんだ。放火だったって聞いてる。その後、生き残ったけれどばらばらに別れた十人以上の従兄弟たちも、皆何故か死んでしまった」


「ふーん・・・悲惨な話だね。世賭、知ってたの?」


「・・・まあ、少しは」


 眉間に皺を寄せて、世賭は答えた。どうやら、あまり話したくない話らしい。


「でも、驚きだね。ばらばら別れた従姉弟がこんなふうにして逢えるなんて」


「そうですね。この町に来たかいがありました」


 だけど・・・、と要は小さく呟く。


「翠さんは、僕らと一緒になりたくはないんでしょうね」



 翠は一人、一応現在は自室となっている部屋のベッドにうずくまっていた。先程聞いた話がショックで、まともな思考が出来ない。


(
どうして、従弟が)


 翠は狼狽していた。困惑していた。戸惑っていた。何故ならそれは―――


「在り得ない、本来なら在り得ないんだ」


 ――― 従弟が、要と棗が、ここにいるはずがない(・・・・・・・・・)


「だって、従弟たちは残らず全員・・・僕が、」



 ――― 従兄弟たちは一人残らず、この手で殺したのだ。






...第五話に続く

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第四話

 


 リゼルとリデルの件から数日後。四月ももう終わりに近づいていた。


「お早う、世賭、翠」


「全然お早う、の時間じゃないけどな」


 既に昼と呼ぶ時間帯に突入した頃、アリカがようやく起き出し居間へと姿を見せた。彼女の起床時間はいつも三人の中で一番遅く、しかも寝起きは機嫌が悪いのか、起床してから三十分以上経たないと階下に降りてこない。


「今日は、聖パスハ祭だよ!」


「・・・パスハ?」


 祭がつくということは、御祭りか何かだろうか。


「なんか昔いた神様が復活したことをお祝いするお祭り。聖オステルン祭とか聖エオストレ祭とか呼び名があるんだけど、一番正しい呼び方は復活祭(イースター)かな。まあ、そんなことはどうでもいいのよ! とにかく行こうよ、お祭り」


「良いですね、楽しそうですし」


「まあ、暇だから良いか」


 世賭と翠が頷きあったのを見て、アリカはにっこりと微笑んだ。


「それじゃあ早速、服を新調しに行こう!」



 「なんでわざわざ服を買いに行くんだ? いつもと違う服を着る、というのならあるもので良いだろ」


「そうじゃないんだって! 聖パスハ祭では、服を新調して、帽子とかに花を飾って出かける風習があるの!」


 面倒くさげな世賭にそう説明しながら、アリカはさっさと出かける支度をしている。翠も同様だ。


「別に、そんなしきたりにわざわざ従わなくても良いだろ・・・」


「じゃあ、花ぐらいは買おうよ。それぐらい、良いでしょう?」


「買っても良いが、僕は身に付けないぞ」


「・・・まあ、いいよ、それでも。私が帽子につけるから!」


 そう言うと、アリカは玄関へ行き、いつも通り紅い靴を履いた。


「楽しみだなぁ、お祭り! 去年は忙しくて行けなかったんだよね」


 いつもよりも人通りが多く、賑やかな首都を巡りながら、アリカが呟く。首都全体がお祭り会場だ。


「そうなんですか。じゃあ、良かったですね」


 翠は無理矢理笑いを見せた。世賭はそれほど気にしていないようだが、翠はあのリゼルの件が気になっていた。


(アリカちゃんの影が広がって、リゼルを包み込み消してしまった・・・アリカちゃんの周りだけが暗黒に切り取られたようになっていた・・・)


 だが、聞くことは出来なかった。アリカは既に、翠にとって大切な仲間だ。アリカが気に病むようなことはしたくない。もしかすると、あれこそが彼女が《暗黒のアリス》と呼ばれる理由かもしれない。そうであるならば、余計聞くことは許されない。彼女は、《暗黒のアリス》などと呼ばれるのを嫌がっているのだ。それに関わる話は、避けたいだろう。


 翠がそう思っていたとき、アリカが素っ頓狂な声を上げた。


「ああっ!!」


「あ、アリカちゃん?」


 アリカの視線を辿ると、そこには兎や卵をモチーフにした小物や、水仙や百合などの花が置いてある露店(ブース)があった。


「さいこーっ! 聖パスハ祭の良いところは露店が沢山あるところだよねっ!」


 そう言うが早いか、アリカは露店に向かって走っていった。


「うーん・・・女の子ですね」


 翠は穏やかな微笑を浮かべてアリカの後姿を見つめている。


「お前もだろ」


「そんなこと言ったら世賭、キミだっ―――


「世賭、翠、これ貴方たちにプレゼントしてあげるー!」


 アリカは翠の言葉を遮り、購入したらしい兎や卵がモチーフの小物を手渡した。


「有難う御座います、アリカちゃん」


「有難う」


「よっし、じゃあどんどん行くよ! お菓子とかも一杯売ってるんだから!」


 アリカは満面の笑みで、歩き出した。



 「リゼルとリデルの死亡確認は出来たのか?」


「リデルは確認出来たよ。アリスのアジトの庭に埋められていた。ただ、リゼルの遺体は発見出来なかったけど」


「そうか、ならもういい。きっとアリスが喰ったんだろう」


「喰った、ねえ・・・」


「アリスと共に居る二人の詳細、調べたのでしょう? 言わなくて良いんですか?」


「あ、そうだった。一人はあの凍城(とうじょう)の生き残り、凍城翠。その凍城翠の幼馴染の世賭。世賭のほうは《鬼刀の世賭》とか呼ばれているらしいんだけど、詳しいことはさっぱりわからなかった。まるで誰かが世賭の情報を漏らさないようにしているみたいでね、全然情報が掴めなかったよ」


「誰かが・・・。まあ、それだけわかれば十分だ。アリスも良い人材を手に入れたな。凍城の生き残りに《鬼刀の世賭》を手駒にするとは」


「手駒、ねえ。随分と仲良しになってるみたいだけど?」


「それも彼女の策なのでは? 彼女はもう、自分の手で戦う意思はないのですから、自分に味方する強い者を手に入れておく必要がありますし」


「戦う意思はない、か。私たちと戦うこととなったとき、果たしてそんなことを言うのかどうか・・・楽しみだな」


「・・・?」


「気にするな。そうだ、アリスのところに“蜜鏡”たちを派遣しろ。どういうメッセージか、アリスならわかる筈だ。凍城にも、な・・・」


「わかりました。“蜜鏡”、ですね。すぐにでも向かわせます・・・言葉のとおり、すぐに(・・・)


 ――― 暗黒の中で、誰かが嗤った。


 
 首都の象徴であり、政府の拠地。そして、《絶対権力者》である皇帝が居ると噂されている、首都の中心に聳え立つ(ビル)・・・別名、《絶対帝國(キングダム)》。


 その(ビル)に向かうようにして、アリカたち三人は歩いていた。


「いつもは一般ピープルが入れない《絶対帝國(キングダム)》だけど、今日だけは特別。(ビル)の一階で仮面舞踏会が開かれているの。私は行ったことないけど、誰でも自由参加出来るパーティーらしいんだ。参加してみる?」


「僕はどっちでも良いですけど・・・どうします?」


「・・・面倒だから、僕はいい」


 言葉のとおり、世賭は明らかに面倒くさそうな顔をしていた。翠は思わず苦笑する。


「そっか、じゃあ別にいいか。まあ、どちらにせよここらを一周するには(ビル)の前を通らなくちゃいけないから、少し覗く程度にしておこう。皆着飾っちゃって、眼の保養になるよ!」


「どこのオヤジですかアリカちゃん」


 アリカはにこにこと軽やかに歩きながら、徐々に塔へと近付いて行く。華やかな音楽が、微かに聞こえてきた。


「あれ?」


「どうした?」


 アリカがふと足を止めた。世賭が尋ねるのに対し、無言で正面を指差す。


 アリカが指差した先には、塔から走り去ろうとしている少女の姿があった。数秒の間もなく、後ろから追うように、劈くような悲鳴が聞こえた。そして――― 微かに聞こえた、ぴちゃり、という音。


「アリカちゃん、今の・・・!」


「行こう」


 アリカは一気に駆け出した。世賭と翠も、その後を追う。


「・・・ッ!」


 ――― (ビル)の中。舞踏会場であるはずだったそこは、血の海と化していた。


「こんな・・・酷い」


 アリカは冷静に辺りを見回すと、ゆっくりと死体を踏まないように足を進めた。そして、中央に置かれた大きいテーブルを覗き込んだ。


「・・・やっぱりね、気配がした」


「・・・アリカ?」


 訝しげに聞く世賭に向かって、アリカは薄く微笑んだ。


「生きてる、人がいる」


 アリカが覗いたテーブルの下。重なり合うようにして、二人の少年が倒れていた。ゆっくりと胸が上下しているのを見ると、どうやら気絶をしているらしい。


「とりあえず、家に運ぼう。怪我、してるかもしれないし・・・状況を聞けるかも」


「そうですね」


 翠は少年をテーブルの下から出すと、静かに抱き上げた。


 
(
・・・あれ?)


 少年の顔を見て、翠は僅かな違和感を覚えた。同じく少年を抱き上げた世賭を横目で見やると、世賭も訝しげな表情で、まじまじと少年の顔を見つめている。


――― どうしたの? 二人とも」


 世賭と翠の様子がおかしいことに気付いたのか、アリカが二人の傍に寄る。そして、少しだけ眼を丸くした。


「この二人・・・」


 二人の少年の顔は、瓜二つだった。だが、違和感を覚えたのはそこではない。



「なんだか、翠に似てない?」

 
 二人の少年は、翠に面影の似た穏やかな表情をしていた。




...第四話後編に続く

 

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デュラララ熱がやばい。1/10に新刊が発売して、更に熱が急上昇ry
解らない方のために一応言って置こう(何故に上から目線)、デュラララ!!は電撃文庫のライトノベルで、現在アニメ化や漫画化を果たしている超面白いライトノベルなのである。皆さん、アニメだけでもいいから見て見なさい。私的には原作がやはりお勧めだが(

ほんっとーにやばい、デュラララ最高すぎるっ 静雄愛してる大好きだぁぁぁっ!! 俺の婿!!!←
もしかすると突発的に静雄夢を書くかもしれない。てか夢小説書きたいなぁ・・・ 私が恐らく書くのは大概、友情だと思われますが。微甘もあるかもしれない。

とにかく、静雄が好きです。愛してます。俺の婿です。皆デュラララにハマってー!! なりきり掲示板の人、ハマってー!! なりきりがしたいんです、静雄を頂きたいんでs(
広めてやんよ、広めて欲しいんだろ!?

・・・てか最近の新アニメ面白いな。「デュラララ!!」といい、「おおかみかくし」といい、「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」といい・・・・・・まあ、「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」は絵柄が「けいおん!」なのが気になるが。まあ、でもその他のクオリティが高いから私は気にしないよ!!
声優熱だと小林ゆうさんが来てるね。やばいやばい、低音ボイス最高!! あ、でも銀魂のさっちゃんみたいなノリも好きですけどね。

まあ、とりあえず・・・・・・皆、デュラララ!!にハマって下さい。ほんとに。切に願います。

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 麗様が怪我をした。とあるマフィアとの抗争で、秦と葵と向かった任務だった。

 

「姉さん・・・っ!!」

 

 僕と昴は違う任務に出ていて、ソルトは別の組織の任務をやっていたときだった。

 かなりの重傷を麗様は負っていて、もう五日も眼を醒まさない。秦はずっとつきっきりで、それをソルトが悲痛な表情で見守っている。葵は部屋に引きこもって全く出てこない。

 

 改めて実感した。麗様がいなければ、僕らは本当に無力なのだということを。僕らは麗様がいなければ、繋がることが出来ないのだ。

 

「俺があのとき姉さんから離れずにいたら・・・っ」

 

 秦はそう言って自分を責める。その横でソルトは、ただただ悲痛な面持ちで突っ立っていた。

 僕から言わせれば、秦はずるい。ソルトが自分を責める言葉を聞いて、どんな思いをしているのか―――秦は、わかっているから。

 ソルトが一番、自分のことを責めている。ソルトにとって、ファミリーは―――麗様は、自分よりも大切な存在だ。その大切な存在が傷ついているとき、自分は違う仲間のもとで違う任務に就いていた。これ以上の罪悪感はないだろう。

 ソルトが悪いわけではない。それは絶対にない。だが、ソルトにとってたぶんこの世で一番忌むべき存在は自分であるから、そう思ってしまうのだろう。

 

 秦はそれを全てわかった上で、自分を責めている。それが余計にソルトの気持ちを暗くさせていることを気付いていて、でもそれでも自分を責めずにいられない。

 秦はソルトのことが好きなのだ。だからソルトがソルト自身を責めることがとても辛い。それを少しでも紛らわせようと、自分を責める。その繰り返し。それが永久に終わらないリピートだということには気付かずに。

 

 そして、その間も葵はずっと自分の部屋に閉じこもっている。

 

「葵は自分が麗ちゃんを護れなかったことを悔やんでいるのか、悲しんでいるのか、怒っているのか、僕には全くわからない。

 どうしてずっと閉じこもっているの? 夜に抜け出して麗ちゃんのところに行ってること、僕は知ってる。いつもの葵なら普通に逢いに行くだろうに、どうしてなの?

 全然わからない、葵のこと全然―――

 

 居間で自分が淹れた紅茶を飲んでいるとき、昴がそう言った。顔にも声にも感情は無く、悲痛そうな言葉は悲痛に聞こえずに僕に伝わった。

「・・・わからなくていいんじゃないの、葵のことは」

「どうして?」

 僕は黙って自分の淹れた紅茶を飲んだ。

 

「ねえ、レン」

 昨夜、久しぶりに聞いた葵の声が甦る。

「葵・・・?」

 廊下に浮かび上がる葵の姿は、凄く脆く見えた。

「どうしたら麗は眼を醒まさないだろう?」

「・・・え・・・?」

 僕は気付いた。今の葵は脆いだけではなく―――狂っている。

「もう逃げないと誓ったのに、ずっと見ていると誓ったのに、僕はまた逃げてしまった。もう麗に顔を合わせられない。

 それに・・・弱い麗を見たくないんだ・・・」

 葵はそう言った。

「弱い麗なんて見てしまったら僕は―――

 ・・・歪んだ葵の表情が、残像として酷く頭に残った。



 「葵は自分のこと、わかってほしいだなんてきっと思ってないよ。というかさ、葵に限らず他の人も。だって考えてみなよ? 僕は昴の過去のこととか知らないし、昴だって僕のこと、知らないだろ? ソルトのことだって僕は知らない。秦とか麗様はまた別だけど、勿論葵のことだって知らない。

 それぞれの過去や想いは、麗様だけが理解していればそれでいいんだよ。僕の過去のこと、知っているのは麗様だけだし。それは昴やソルトもそうなんじゃない?」


 まあ、葵のことは麗様も知っているかどうかわからないけど、と僕は呟いた。複雑な表情の昴が眼の隅に映る。

 

 葵はきっと凄く良い選択をしたのだろう。愛する麗様にも自分のことを、自分の過去を教えない。皆を仲間と言って笑顔を見せながらも、一歩退いて冷ややかな目つきで皆を見ている。

 愛するものに深入りしない。仲間と言う名の底なし沼に、決して近付こうとしない。

 

「仲間のこと、なんだからさ―――

 ぽつり、と昴の呟きが聞こえて、僕は顔を上げた。

「?」

「知りたいって思うの、変なこと? 滑稽だって思う? だけど僕は少しでも知りたいよ。過去のこととか全部教えてくれとは言わないけど、ほんとの気持ちぐらい・・・さ、仲間じゃないの? 僕らは」

 昴の言葉が、僕の胸に突き刺さる。昴の言っていることは、正しい。

 ・・・だが、僕の選択は揺るがない。

 

「・・・ソルトは麗様と秦のこと、たぶんファミリーの中で一番大切にしてる。秦はそれ以上に、憧れの入り混じった想いをソルトに抱いている。

 僕は麗様のことすごく尊敬してるし、昴は皆のこと好きだ。

 葵はたぶん麗様のことが一番大好きで愛してるけど、それは恋愛感情ではないと僕は思う。でも麗様は葵のこと好きだし、というか皆のこと大好きだけど、心の奥に違う人がいる。

 昴もこれぐらいは理解しているでしょ? これだけで僕は十分だと思うよ、だって・・・」

 

 

―――これ以上深入りしたら、もう戻れなくなるから。

 

 

 でも、わかっているのだ―――僕も、葵も。選択は良いものだったけれど、決して正しくは―――世界の真実ではないということを。

 

 

 

 

『弱い麗なんて見てしまったら僕は―――

麗を、殺してしまいそうになるよ

 

 

 

滑稽な正義

(わかってるよ、所詮人間は愛でしか生きられないんだってことぐらい)

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