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せんそうとへいわ
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第弐話...淡々遊戯



 ――― 仄かに紅い月が見えた。

「血の匂いがするわ」

「・・・・・・返り血は浴びてないけど。まあ、身体に染み込んでいるだろうから当たり前だ」

 紅い月の光に照らされ、少女の陶器のように白い肌が浮かび上がる。

――― あの(・・)世賭君がやって来たそうよ・・・そして凍城家の生き残り、凍城翠も」

「・・・・・・」

「それに睦月のお嬢さんと黒宮のお二人さんもね。四大名家(・・・・)が勢揃いだわ」

「・・・・・・四大名家、か」

 少女の苦々しい反応を楽しむかのように、女は笑う。

――― 役者は揃ったわ。愉快な悲劇の始まりね」


 

 宿で夕飯を食べ、世賭と翠は部屋へ戻った。


「見て、月が紅い」

「凄いな」

 丸い窓から見える、仄かに紅い月。いつもより大きく見えた。

「先にお風呂、入って来て良いかな?」

「どうぞ。僕はちょっと散歩にでも出る」

「わかった」

 一応愛用の刀を手に取り、世賭はまた部屋を出た。長い長い、廊下。

「本当に凄いな」

 月はまだ紅かった。太陽よりもそれは、存在感があった。

(北部に、行ってみようか)

 政府や小組織が管理しているビルが立ち並んで、近代的かつ都会的。そう、翠は言っていた。西洋風の北部や東部より、都会的だという北部のほうが見たい。

 四月の下旬にしては、少し肌寒かった。

「だいぶ・・・・・・歩いたな」

 薄汚れた標識があった。

 North() Street()⇒”

 


 もう、周りは高層ビルだらけだった。色で表せば黒と銀の町。


 ・・・・・・また、あの“違和感”が世賭を襲う。

「っ・・・・・・!」

 一瞬。背筋が凍るような、そんな鳥肌が立った。それと同時に、嗅ぎ慣れたあの匂いも。

「血の匂い・・・・・・!?

 眼を走らせる。人影は無い。

(どこだ、どこから血の匂いがする? どこから“違和感”が来ているんだ?)

 辺りを見回しながら、真っ直ぐ歩く。血の匂いが徐々に強まっているのがわかった。

 ――― 細い路地裏が見えた。

(ここだ・・・・・・っ!)

 ばっ、と世賭は路地裏を覗き込む。

!?

 月光に照らされて、大量の血が輝いていた。その血に塗れた、大量の死体が倒れている。そしてもう一人――― 血と死体の海に立っている、黒髪の少女。そして、少女の右手には、鋭く光る日本刀。

―――君が・・・殺したのか?」

「ああ、そうだ。私が殺したよ」

 少女は刀を鞘に納め、振り返った。

 振り返り、その顔が、世賭に、向けられ――― た。

「な・・・・・・ま、さか・・・そんな筈」

「はっ、」

 頭の中がスパークした。

(知っている、僕は知っているこの少女を)

 フラッシュバック。幼いあの頃。幼い少女。幼い姉妹。

(この“違和感”は、この少女の、この少女のせいだ)

 フラッシュバック。小さい僕と、小さいこの少女。

(この少女は、僕の―――)

 フラッシュバック。泣いている少女。涙の滴を落としている少女。

「やあ、世賭。・・・・・・思い出したか? 私のことを」

「ぁ、ああ―――

(――― 僕の、)

「私も忘れていたよ。とある情報屋のおかげで思い出したけどね」

(ひじり)―――お前は、聖か・・・・・・?」

「ああ、私は正真正銘、鎖月(さづき)聖だ」

(聖は、僕の―――)

「聖――― 僕の、妹・・・・・・!

 聖はその端正な表情を歪ませて、嗤った。




 


 少女は壁一面の本棚の中から一冊、分厚く古い本を取り出した。


――― 鎖月家禁書、『咎』。

「・・・鎖月家は、修羅の家」

 ・・・・・・幼い少女の呟きは、闇に吸い込まれるようにして、消えた。




...第参話に続く

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第壱話...某月某日



 ――― 金色の鋭い眼が、暗い路地に浮かんだ。

「ひっ・・・・・・や、嫌だァァァ!!!

 容赦なく、鋭い煌きを見せて刀が振り下ろされる。

 少女は一滴も返り血を浴びていなかった。人形のように整った容貌には、どす黒い笑みが浮かんでいる。
 

「はっ」

 
嘲るような乾いた笑いを響かせ、少女は路地から去っていった。



 

 ――― 時は2766年。武術、魔術、特殊能力の蔓延る戦乱の国。

 その国の第二の首都とも言われるほど大きく繁栄した町、壱之町(いちのちょう)。その東部に位置する一軒の宿に、とある二人(・・・・・)は昨日から宿泊していた。

「桜がもう散りかけているよ、世賭(せと)

 窓の桟に手を置いて、(すい)は静かな声で世賭に言った。世賭は自分の髪を結わえながら、窓の外を見やる。

「もう四月も終わりだからな」

「まだ二十二日だよ」

「あと八日も経てば五月だ」

 部屋の襖を開けると大きな円形の窓があり、その窓からはいくつもの桜の木が見える。四月の下旬ともなれば、もうほとんど葉桜と化していた。

「そうか、今日は四月二十二日か・・・・・・」

「? 何かあるの?」

 世賭の澄んだオッドアイが曇る。

「いや、何もない―――


 ――― アリカの死から約一年が経った。裏社会に君臨し、裏で国を統べていた元皇帝で、そして仲間であったアリカ。皇帝の詳細は誰も知らない。アリカが出逢う以前何を見て、何をしてきたのかも知らない。だが、そんなことは関係なく、アリカは二人の仲間だった。大切な、大切な仲間だった。

 そして二人はあの地を離れ、また旅をしている。忘れたかったからじゃなく、ただ離れたかったのだ。

 ――― それと同時にあのときから、世賭は密かに引っ掛かりを感じていた。何か忘れているような、“違和感”。今日になって、その“違和感”が更に大きくなった。

(僕は何を忘れている・・・・・・?)

「今日は天気も良いし、出かけようか?」

 翠がにこりと微笑んでそう言った。世賭は小さく頷く。

「決まりだね。朝御飯を食べたら、行こう」

 顔を洗ってくるよ、と翠が言って、世賭から離れた。

(この壱之町で、“違和感”の正体がわかるだろうか・・・・・・)

 髪を結わえ終わった世賭は、静かに立ち上がった。

 
 この数ヶ月、世賭の様子が若干おかしいことに、翠は気づいていた。当たり前だ、もう十年も一緒にいる。少しの変化でも気付くことが出来る。

 
だがその理由はわからなかったし、聞く気も毛頭なかった。否、聞けなかったのだ――― 恐ろしくて(・・・・・)

「第二の首都と言われるだけあって、ほんとに広いね」

「そうだな」

 壱之町の中央部に位置する市場にまで、二人は足を伸ばしていた。ざわめく市場、その人の多さに圧倒される。

「北部は政府や小組織が管理しているビルが立ち並んで、近代的かつ都会的だけど、中央部と東部は和風的で華やかだね。西部と南部は西洋風らしいよ」

 翠の説明を、世賭は黙って聞いている。

(何故僕は世賭に聞かない?)

 市場を見ながら、自問自答を繰り返す。

(気づいているのに、どうして言わない? 何かあったの、と)

「あの果物、美味しそうだね」

「ああ」

(聞いても世賭が話してくれないだろうと思っているから? それが怖いのか?)

「違う―――

「え?」

「ううん、何でもないよ」

(違う、怖いけどそれが怖いんじゃない)

 ふ、と翠の足が止まった。訝しげに世賭が翠の顔を見つめる。

(僕は、世賭に出会う前の世賭のことを何も知らない。もしこの様子がおかしい理由にそれが関わっていたとしたら、僕はどうすれば良いのかわからない。出会う前の世賭のことを、僕は聞きたくないんだ)

「翠?」

――― ごめん、ちょっと考え事・・・・・・気にしないで」

 また、ゆっくりと歩き出す。

(何かが崩れていく)

 ――― この、町で。



...第弐話に続く

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‡下剋上のアリス ~Astral Imperial~‡



プロローグ

 

  修羅は殺戮をも斬る。

―――下剋上に従う。

 そこには鬼がいる。

―――少女たちは斬り開く。

 黄昏は撃ち抜けない。

―――ただ、抗うだけ。

 そして・・・・・・修羅が生まれる。




...第壱話に続く

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 夢遊び 
  -The rule is blaking territory-



それがこの少女の望む物なのだと理解したときは、なんて普通なのだろうと思った。

長い銀髪で顔を隠して眠る少女。

屋外の木陰で無防備すぎるその生物に毛布は必要なのか、いや、その前にそんな物はないかと割と緩慢に考えている少年は、そこを通り過ぎようにも結局する事もないので、少女の側に付き添って座っていた。

それに、腹減ったし。

それでも、断りも入れずに他人の夢へ入れる程少年に余裕がない訳でもなかった。
…ただ入る程、満ち足りてもいなかった。

「あれ、しぐちゃん… しぐちゃんだよね?」

口調とは裏腹にどこか透き通った声。
…そういえばふざけていても笑みを含んでいても、一閃の鈴の音のようにいつもはっとさせるものがあった。

「あァ… そーだけど」

さーて、どう料理しようか。









「……?」
でも、前から感じてた違和感が今鮮明になってる。
「ほんとに…… "時雨"、」
「おっと…何?」
「……!」
何を考えてか、何を思ってか、彼の顔があたしの目の前にあった。この一瞬で。

「え、えと……っ?」

…まっすぐな瞳って、少しだけ苦手だ。

「…ねぇ、"おやすみ"って言う時、何を感じる?」

「…………っ?」

…あたしが、問いたい。
貴方、今、

ごとん。

「僕なら、強いて言えば支配感かな…。 それは勿論形のないものだし、ましてや"僕の"腹には入らない。あったらあったで少し満足だけど、なくても死にはしないよね?」


うなじに一撃喰らっただけで、たとえ神と名が憑いていても気を失った。
僕の腕にすっぽり収まっても、特に感動はない。









無かっただろう。

…その中性的な少年は、木の上からそれを観察していた。
「俺なら、死んじゃうけどねー。風使いにとったら、何かを揺らす風(もの)がないなんて、一大事なんだよ」

眠る彰所の長い銀髪が、風で小さな束になってたなびいた。









風が吹いて埃が飛んで来た。
「ふァぁ……」
でも結局、彰所は欠伸しかしなかった。

「あー…… 眠」
なんか面白い事ねェかな。
どーでもいいけど。



×



地球みたいに大きな、陰のない日溜まりが気持ち悪い日。
今日の夢日記。

登場人物は~…ん?
(解析中)

…何か、呼んでもない要らない客がいっぱい来た。
早急に帰ってほしいから、お目醒めの開口、入り口に箒を立てかけた。まだ真っ白なのにな~。

少し予定がずれたけど、そんなのも予想の範疇。
さて、今日も元気にまずは"住"を創造…


…。
って何だよさっきから、っ?









「うわぁ~っ!?」


…なんだか大きな風が来た様子。
吹っ飛ばされるくらいなら、最初にでかくなっておけばよかったなと思う。今更。
「…? 何だここ、いきなり」
目の前には、不思議なイキモノNo.1が立っていた。
「………………女男女男女男男女~?」
…わたしの第一声をとりあえず書いておいた(よく数えたら男女も+-0だったから、『先生、男子が、若干~』もついでにすっ飛ばしといた)。
「………、 そうだけど、何?」
にっこり笑われた。 どことなく悔しいけど、やっぱり華とか咲きそう。男のくせに。

「どうやったかは知らないけど、勝手に入ってくるなんて~。あんたも平屋にされたいの~?」
「いや、俺気付いたらここにいたんだよ…それよりここ、綺麗だね」
わたしの発言も綺麗に流して、彼(とりあえず)は竹やぶを眺めていた。
それもすっ飛ばして作った"周"なんだけど…あぁ、順番狂い過ぎ。

「…夢に綺麗も何もないよ、桜の庭の女男さん~」
「お、また誰か来たみたいだよ?」

……………。
誰かダウトを捏造して。








少し迂闊だったな…もっと警戒してれば、少しは騙せたのかもしれない。
でも仕様がない。
失敗したのだから、ここはきっと夢の中。
起きた所で、夢の中。
んでもって…

「………亜空?」

と、…桜庭 暁(さくらばあかつき)君、って子らしい。
夢の中でどこまで能力発動でかるかも、問題だよね。


「…魚のくせに。水は創った憶え、ないんだけど」
「っ、うわっ!」
途端に、周りの竹があたしに襲いかかってきた。 咄嗟に避けたけど、ピリピリするから何箇所か切ってる。
当然の如くすぐに第二撃が来るので、とりあえず後ろに瞬間移動。
でも、あたしの運動神経のなさは、この子も知り尽くしているからなぁ。
「とか、来ると思ってるんだろーけど、」
「ぅあ"っ……!?」
…脳に来た。この感覚、久々っ…
焼き尽くされる前に、同等以上の"力"で抵抗する…

「!!」
必死に"力"の隙間を探してすり抜けると周りの空気が後ろに流れた事で、あたしは宙に浮かされていたのだと気付いた。
このまま背中を強打すると悟ったあたしは、目を瞑った。

どさっ…

…でも、望んだ程の衝撃はなかった。









幸運とはかけ離れた物が落ちて来た。どっちも望んじゃいないけど、こっちは純粋に只の迷惑。

「…………聖(ひじり)……………!……まで、ここに…」
「…何が起きてんのかと思えば」
…また急に現れた女(推定。でか過ぎ)が、墜ちるはずだった魚を捕獲した。でもすぐに喰う気はないだろう。
それにしても、女にお姫様抱っこされて嬉しい女が……、いたわ。
しかもそれは、わたしにとってとても近しい女(ひと)。

…あぁ。普段のわたしでは考えられないような戯れ言。
要らない思考、多すぎ。
迂闊だった。

順番、狂い過ぎ。

狂い過ぎ。

捩れてく。

脳みそが、捩れてゆく。

思考が、入り混じる。

ましてや、わたしの中にいる"人格"そのもの。


これだから、他人なんて嫌いなんだ―――









「…そーだね。近くにいた人は、全部取り込まれてるのかな」
この子のことだから本意は判らないが、簡単に捕獲されるとは。
あたしが"眠る"前の出来事からして仕掛人は"夜君"。
でも、その舞台に同類の亜空を選ぶのは何が目的なんだろう。わからな―――
「……聖?」

脇腹に、熱が、走った。

「―――――――――ッ………!」
理解する前にあたしの脚も脚で蹴り上げていた。
結局はクッション代わりでしかないのか、なんて思うのはまた後の話。
当然避けられるから結局は背中強打。
悶えた刹那今度ははっきりと銀の刀身が見えたから、とりあえずギリギリでガード。
…結界出してから愛架がいないことに気付いたり。
弾力性のない結界出しちゃったから、どちらが先に割るかの根比べ。
…結局クッションにすらなってないじゃん。なんなのあんた。
なんとなく少しだけ目線を下げたら、脇腹で流れる血がどくどくいってるのが目に入る。あぁ、失ってるのか。とたんに、結界に亀裂が入る。割ーられた。
左に体をよじって躱す。多分、ギリギリ擦ったのは刀身じゃなくて風圧。
と思えば足かなんかで体を転がされた。世界が廻る。…刀を引き抜いたのか。
なら、「ぐぁ、!?」…突き出した足に予想内の攻撃が入って結局予想外。
でももう片方での蹴りはかろうじて腹に入ったらしく、異物とあたしの足が融合したのはほんの一瞬。
「っ…、」 また大きく血を失い。
うわ、立てないじゃ、「なんてね」
相手の左足の一点に集中して放つ衝撃波。これは結構痛いと思うよ。
一度夢に堕ちたら立ち上がるのは難しい?
なら立ち上がらなければいいのですよ。
さて、ここからが正念場―――









「はいはい、そこまで」
その男、時計を気にしないウサギはいきなり現れて、魚の腹を踏みつけた。
「!、夜く――」
「霊力発動」
そしてかわかすように今度は突風も現れる。
わたしの小さな体では、やっぱり舞い上がる。ああ疎ましい、掴まれるもの、圧の生まれる瞬間―――
「何…? あー、そこジェットコースターみたいで楽しい?」
「どこがだよ」
…思わず突っ込み。
やはり体で感じるが早い。わたしが扇に掴まってもこの圧力。てか、わたしがほんとに質量ないみたいじゃないか。
「じゃあ、丁度いい所で。 銀髪の小人さん」
筋力の限界と共に振り落とされた。

「君と首謀者、この夢をもっと面白くするにはどっちを叩くのがいいの?」









覚醒した途端に激痛。これ何度目だろう。

目を開けたら、しぐちゃんがいた。じゃない、夜君?
目の前じゃないけど。あれ、おかしいな。
これは夢? だって、さっきは、

「夢じゃないよ。 ほら、鎖月聖はもういない」

…ほんとだ。   
消えちゃった?   一抜けぴ?
それは嫌だな。   ずるいなぁ。
だからもう行かないように、裾を掴む。 …あれ。

なんか、違う。

「…そっか。まだ夜なんだから、起きる時間じゃない」
…とりあえず騙せはしなくても、困惑させることに成功した。
「…大方、さっきの風で亜空に気圧されて消えたんでしょ。あたし達同士が打ち合ったからって、あの子の夢から出て行ける訳じゃない。それに、あの子に他人の戦いを悠々と見物できる余裕もない」
そう。
まだこれは夢。
そしてその支配者は、夢を操る夜君と、
脳を操る亜空。
内側から拡げていくか、外側から握りつぶすか。
あたしの能力を思い出したのか、夜君があたしを振り払おうとする。
無理だよ。もとより腕より裾を掴む方が得意なんだ。もう放さない。

「…質問が違うんだよ。あたしは"おやすみ"とはいわない」

面白い夜(ゆめ)を見て、また朝に戻れるように。

「"Good night"っていうの」









…暗転。



×



嘘嘘。
誰かの能力を奪った矢先に、
色なんてないの。



×




「……………うわ」
「…あ、亜空だ」
「…まっさかさまになっても、魚は魚だね~」
「え?…いや、亜空がさかさまなんじゃないの?、」
「…自分の能力も忘れるぐらい頭まで魚になった~?」
……………。
暗黒背界。 でもそれは、目を瞑っているから。
結局離れた腕だけど、憶えてる。
いつものように、奪って、ひっくり返して、
「そっか。今度は朝が来るのを待ってるのか」
「…どーだかね」
「っ?」
「…ねぇ、亜空の夢は識っているよね?」
「……さぁ、ね」
他人の夢なんて、識り尽くせるはずがない。
「夢と現実に境界線なんてあると思う?」

「"夢"っていう字の上の部分って、"亜"に似てるよね~」

「亜空の夢は、お前を殺して―――」


上を見たら、皆まっさかさまに堕ちていました。
風だってほら、あんなに。



×


  ゆ

                 が

               む



×



(誰かが呟いた。)
「…ここまでカオスになっちゃって。ある意味御馳走だなァ」
(気怠そうに遠くを見据えているその瞳は、早熟故にどこか少年らしさを残している感じ。)
「ンで、お前は追い出されたのか? 鎖月聖」
(似たような口調で、暗闇にゆらゆら揺れている。)
「さァな、鞭持った女王様もどきに途中で飽きられたらしい。
もとより戦いが面白そうだから乗ってやっただけだけど、また地上で幾らでもできんだろ」
「…戻って来れンのかな」
「それは知らない。ってか、私よりお前の方がわかるんじゃないのか?」
「…………はァ」
(相棒の尻拭いにまたご出勤かよ、と誰かが呟いた。)



×



「!」
堕ちた衝撃を感じた気がして、目が醒めた。
でも下は只の地面。軽く撫ぜてみると、感触は岩肌?
そして、上を見上げればただただ続いて行く星空。
…あぁそうそう、こーいうの。実際墜ちてないのに、墜ちたように目が醒めるのって原因は金縛りと同じで、疲れとかから来るらしいよ。どっかで読んだ。
…ってことは、しぐちゃんの能力で下剋上成功?
やっと夢から脱却できた…?

「…ふーん、お前が」
目前からの女の声で、重い体を起こす。
えーと… この子は、荒木 莉棲(あらきりすみ)?

「ちょくちょく私と時雨の邪魔する女」
…大分語弊があると思うんすけど。

「現実でだって、死んでも生まれ変われるのに」

「夢の中でまで、足掻くんだ?」

「わかってるんでしょ? 私は今から貴女を殺すよ」

気付けば、起こしたはずの体も寝そべってる。
重力操作…? 起き上がれない。
今度は本気で金縛りだ。

目の前の、只女の形をした自己暗示。
…亜空め、手の込んだ事をしてくれやがって。

そういうこと、でしょ?

夜って、思う以上に長いんだよね。

起きた所で、夢の中。




背景に、星が回転したように煌めくのが見えた。


でも、それが頭を打ったからなのかどうかはわからない。

なぜなら、凶器も狂気も確認する前にまた視界が遮断されたから。
どんどん短くなる時間。



×



(ここのページはおそらく日記の著者によって破られているようだ)



×




それがこの少女の望む物なのだと理解したときは、なんて普通なのだろうと思った。
でも、隠蔽が必要な程だったとは。









そよ風が頬を撫でた、気がした。
最近、寝覚めよくなった?

今度こそ、朝なんだろうか。
"今度こそ本当に、立つのを諦めただろうか"。

っ?

「おっはよ~」
「? あ、亜空?」
改めて周りを見ると、"そこ"はいつか見た"学校"の"保健室"のようだった。
「その通りだよ~、正解」
…ここまでは、"夢の中の出来事と一緒だった"。


「あッ――――――」
蒼い少女の首が、銀の少女によって絞められる。
「…怖い~? 恐ろしい~? どっち~?」


「夢は必要? 遊びは必要?」

「必要だと思うよ~」

「だから皆、くだらない事に尻尾を振ってついてきた」


「でも、それだけ~」

「結局夢で殺されて」

「何度も何度も殺されて」

「現実でも何度も死んだ」


「夢と現実に大差はあるの~?」

「現実の夢~ 現実が夢~」

「結局亜空だって、このやり方じゃ殺したって お前を喰う事はできないんだ~」









…あぁ、確かに。
自分で 言ったんじゃないか。
現に、既に、
あたしの視界は紅だか黒だかもわからなくなっている――









…暗転、明転。



×



終盤に来て、方向性が決まって、一応安定はしてる。
時雨なら、喰おうと思えば喰えるのではなかろうか。
僕は もう知らない。

どうせまた、狂いながら閉ざす夢だったのだから。


                      end

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 その“色”に俺は触れた。


 

 

everytime you kissed me

 

 

 

 
 私は彼に触れられるたび、音を出して震えました。

 

 


 喰われて見ようと思った。自分の夢がどんなモノなのか――― そして、“彼”はどういうモノなのか。

 


「へぇ・・・・・・君が、例の神様?」


「ふーん、君が例の“夜”ねー」

 


 お互い偽善者染みた微笑を貼り付けて対面しあう。こいつが時雨のナカにいる夜って奴。


(
面白そうだけど気に食わないかも)


 ――― 時雨のほーが、よっぽど好き。

 


「で、君が夢を喰らわせてくれるんだ?」


「そのつもりだけどー?」


「でも、そんなすんなりアイツに喰らわせてやるほど僕は優しくないんだよね」

 


 反転した“彼”は、不釣合いな不敵な笑みを浮かべた。


 

 


 キスのように甘く柔らかく解けるような温かさを、彼は私にくれました。薔薇のような芳しい香りや希望を歌わせてくれました。


 貴方の音は私の音。夢のような時間を彼は私にくれました。


 ・・・・・・でも、いつの頃からか、彼の音が聴こえなくなりました。

 


 

 ――― 夢に、堕ちていく。

 


「アイツは大切なものを二つも失って、もう何も無い」


「なに、それ」


「そのままの意味だよ。だからアイツは主人格として生きる事を選んだ。そっちのがラクだからね」


「普通逆じゃない?」


「僕らにとっては違うんだよ」

 


 アイツの音は、枯れてしまったんだ。

 


「あの忌まわしき二人の少女のせいでね。始まりは《灰色の少女》、終止符は《銀色の少女》」


「・・・・・・誰の事」


「そんなに知りたい? でも教えてあげない、君には必要の無いものだしね、黙って時雨の餌になりなよ。・・・とは言っても、昔と違って夢を喰らっても相手はココロを失わなくなってしまったんだけどね」


「・・・? 時雨が主人格になったから?」


「そうだよ。僕が主人格だった頃は、違ったのに。本当なら君の事だって《喰らい尽くして(殺して)》やりたいよ。時雨を揺らがせるものは邪魔なゴミだ」


「じゃああの子はどーなの? いつも引っ付いてるちっちゃな女の子。それと、あたしの周りにいる子たち」


「あの子らはどうでもいいんだ。特に、君の言うところのちっちゃな女の子。あんなに懐いているのに可哀想な話だけど本当の意味で時雨はあの子に興味が無い。本当に、本当の意味でね」

 


 ――― その点、君は違う。

 


「《灰色の少女》や《銀色の少女》ほどではないけど、君もそれなりの影響力は持ってる。久しぶりに会う人外・・・・・・自分と同じだからかな。ま、君と僕らじゃ格が違うけど」


「そりゃどーも」


「君なら《蒼色の少女》になれるよ」


「ははっ、それはおもしろそーだね」


「でもまあ、君が期待するほどの存在にはなれないよ。アイツには《銀色の少女》の影が纏わり続けているから」

 


 


 彼の音は枯れてしまいました。まるで色褪せた銀色の薔薇のように、枯れてしまいました。だから私の奥底にまで届かなくなりました。私にキスのような感覚が与えられなくなりました。


 私はそれでも貴方の傍に居続ける事にしました。彼の最後の言葉に涙を零してしまったから。彼の音は枯れて私には聴こえなくなってしまったけれど、でもまだ失ってしまったわけではないから。


 ・・・・・・彼がまた咲き誇るまで、私は彼の代わりに、彼のために、悲しみを口ずさみ続けるのです。

 


 彼の、最後の言葉。


愛してた、透離


 

 


 「ほんとにアイツは丸くなったよね。ねえ、どうして今日アイツが君を喰らおうとしたのか、わかる?」


「・・・? 何、どういう事」


「アイツは僕の事が嫌いなのに、わざわざこんな事遠回しに頼んじゃって。まあ、君じゃなくて《銀色の少女》だったらもっと必死に――― いや、寧ろ自分から動いただろうけど。所詮、アイツにとって君はその程度の存在さ」

 


 少し、むっとした。そりゃあ、あたしよりその《銀色の少女》のほーが大切なのかもしれないけど、別にんな事嫌味ったらしく言わなくたって、わかってるよ。

 


「で、何なの」


「僕は夢を操る者。アイツは夢を喰らう者。君の悪夢を喰らって吉夢を贈ろうっていう魂胆さ」


「へ・・・・・・?」


「今日が何の日か忘れたの? だって今日は君の――― 、」

 


 


 俺たちと出逢った三色の色。灰、銀、蒼。そして俺らは黒、彼女(ピアノ)は白。


 全部に触れて、俺は変われる。

 


「灰色には感謝を」


「銀色には愛情を」


「蒼色には祝福を」


「黒色には憎悪を」


「白色には音色を」

 


 ・・・・・・さて、《もう一人の黒》は《蒼色の少女》に《祝福(ハッピーバースデー)》と言ってあげたかな。




END

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