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せんそうとへいわ
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慈しみにかける...中編


 

 《入場者(アンリミテッド)》。全ての場所に入り込むことの出来る、生まれながらの入場者。どんなところにでも、絶対に入ることが出来る。開かずの間にも、人の心にも、閉ざされた心の扉にも、存在しない空間にも―――《異世界(パラレルワールド)》へと続く扉にも。

 パラレルワールドは無数に存在する。それらは大樹のように枝分かれしていて、その幹に値するのがだ。

 への扉に無断で入場することの出来る存在が、《入場者》だ。《入場者》はへ入って様々なパラレルワールドに行き来し、世界を渡る。

 そしてその《入場者》が―――・・・。青紫を纏い世界を巡る・・・唯一の、少年。

 自室で、葵はぼんやりと窓の外を眺めていた。

 月が蒼い―――月夜、月夜―――あの子の―――名前。

「葵さん、」

「っ!?」

 扉の向こうから名を呼ばれて、思わず葵はびくりと肩を震わせた。自分の名前をさん付けで呼ぶのは、彼女しかいない。

「入って良いですか?」

「ああ、勿論だよ・・・ボス、」

 かちゃり、と静かに扉が開き、柔らかい笑みを浮かべたボス―――蓮漣麗が、姿を現した。

「えっと・・・どうかした?」

 何故だか麗を直視することが出来ず、葵はさりげなく眼を逸らしてそう言った。いつになく、強張った声が出てしまう。

「いえ・・・特にこれといったことではないのですが・・・・・・葵さんの様子がおかしい、と聞いたので・・・すみません」

 ああ、そういうことか・・・と、葵は内心で納得した。昴かレンが、葵の様子がおかしいことに気付き麗に言ってみたのだろう。

(つくづく・・・優しい人たちだ)

 どうして自分には、こうも優しい人が寄り付くのだろうかと―――あの子たちも、ほんとうに・・・優しかった。脆く果敢無い、あの子の姿が、脳裏に浮かぶ。

「大丈夫・・・ですか?」

 麗が顔を覗き込んだのがわかって、葵は俯いて顔を逸らしたい衝動に駆られた。

 お願いだから―――僕を見るな。思い出してしまう、あの子の・・・あの子の、ことを。

「・・・ごめん、麗」

 麗がはっ、としたのが気配でわかった。

 葵は普段、麗のことを「ボス」と呼ぶ。「麗」と呼ぶときは、本当に特別なとき―――何か、あるときだ。

「何か、あるんですね・・・? 葵さん、教えて下さい―――そんな、苦しげな表情、私は見たくありません・・・!」

 ―――苦しげな、表情。

(心配をかけさせちゃいけない。麗は何も悪くないんだ、麗には何も―――関係ないんだから)

「何でも、ないから・・・」

 そう言った瞬間、麗の表情が曇り翳った。

(ああ、そんな顔をさせたいんじゃないのに―――麗には、笑っていて欲しいのに)

 あの子にも―――笑っていて欲しかった。

「葵、さんは・・・」

 ぽつり、と麗は呟くように言った。

「いつも、何も話してくれない―――全て、隠し通そうとして・・・。葵さんだけです、守護者の中で、私が過去のことを知らないのは」

 過去。皆、辛い過去がある。だが、それを口にしないのは、僕だけ―――

(僕はいつでも唯一の人間だな)

 自嘲するように、葵は薄い笑みを浮かべた。

「その笑みも表情も言葉も。仮面で隠しているみたいで、演技をしているみたいで、それがなんだか凄く―――怖い」

―――麗・・・」

 どうして、どうして。どうして、自分は、大切な人を―――想い、悲しませずにすることが出来ないのだろう。

「僕は―――

 僕は、大切な人を―――見ることが、出来ない。

 唯一の少年は、幾つもの世界を巡った。今ではもう、一つ前の世界ぐらいしか思い出すことが出来ない。

 ―――本来ならば。次の世界に来たら、一つ前の世界のことも、すっかり忘れてしまうのだけれど―――今回は、そうはならなかった。

―――葵』

『月夜(つくよ)・・・』

 もう一生、逢うことの出来ないあの子の名前。

 何度忘れてしまいたいと思っただろう。否、そうじゃない―――自分のことを忘れて貰えたら良いのに―――という人間のことなど、綺麗さっぱり。

 

 自分の半身に打ち勝ったあの子は、聖女になった。神々しくて、一点の穢れもなく―――ずっと、見続けていたいと、想い続けていたいと、そう願ったのに―――それは、叶わぬ夢となった。

 唯一の少年には、明るすぎたのだ。あの子の光は、まるで月光のようで。脆く果敢無い、月の光のようで。

 『月夜、僕は―――

『君にはもう、逢えない』

 ―――唯一の少年が流した涙は、何も映しはしなかった。



...
後編に続く


さて、中編です。
なんだかこれじゃあ葵が麗のこと好きみたいですね・・・いや、好きなんですけどね。
“愛”してはいるけど“恋”してはいないんですよ、葵は。勿論、月夜のこともそうです。

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