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せんそうとへいわ
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慈しみにかける...後編


 月のようなあの子から遠ざかり、葵は新たな世界へ行く為に、“夢”へと“入場”した。

 “夢”は様々な世界へ枝分かれしていて、葵は“夢”を彷徨い続けた。

(あの子の記憶から僕を消してしまうことが出来たら、どんなに良いのだろう)

 眼を逸らすことしか、僕には出来ないのだけれど。

 ―――そのとき、葵はいきなりぐいっ、と引っ張られたのを感じた。そのまま急降下して、葵は無理矢理一つの世界へと“入場”した。

 こんなことは初めてだった。どうしてこんなことになったのか、どんな世界に自分が“入場”してしまったのかもわからず、葵は呆然と立ち尽くした。

「う、ああああああッ!!!」

 葵が無理矢理引きずり込まれ、“入場”してしまったそこ―――そこで、葵は思わず目を見開いた。

「っ・・・!!」

 もがき苦しみ悲鳴を上げる子供たち。その横で、無表情に立っている大人。

(人体実験・・・!?)

 突然“入場”し、突如何もないところから姿を現したために、不気味な大人たちから視線を浴びる中―――“葵”は、ぞくりと背筋が凍るのを感じた。

(―――こ こ は 、 危 険 だ)

 脳内で、赤く光る信号が点滅している。

 “葵”が引きずり込まれたそこは―――不毛で無秩序で地獄の底―――エストラーネオファミリーのアジトであった。

 前の世界で、葵は16歳だった。いつもそうだ、新たな世界に行っても年齢は変わらない。

 それなのに―――今回は、違った。

 葵の年齢は、8、9歳にまで遡っていたのだ。

「この少年、どこから現れた」

「何もないところから・・・」

「どういうことだ」

「まさか、特殊能力でも持っているのか」

「調べてみないとわからない」

「こっちへおいで」

「早く準備をしろ」

 ―――8、9歳という幼い身体で、抵抗することなど出来はしなかった。

「っあああああああああ!!!!!」

 もう、何をされたかも覚えていない―――否、思い出したくない。ただずっと悲鳴を上げていた。

「瞬間移動能力か?」

「少し身体が違う」

「特殊兵器の実験にも耐えられるかもしれない」

「もう少し調べないと・・・」

「面白い人材が発見できたな」

 不気味な大人たち。―――気持ち悪い、吐きそうだ。

(違う世界に行きたい)

 だが、大人たちに随時見張られ身体をいじられ、拘束されている状態では、どうすることも出来ない。

(なんで、こんなことに)

「どこから来たのか口を割らないな」

「恐らく異空間だ、身体が我々と違う」

「《入場者(アンリミテッド)》と名付けよう」

「記録に残さねば」

 ―――どれだけの月日が経ったのか、葵にはわからなかった。

「何をする!」

「う、あ・・・やめろ!!!」

 いつの間にか監視していたはずの大人がいなくなっており、拘束された状態で葵は一人、無人の部屋にいた。

(外が騒がしい・・・あいつらは・・・どこに、)

 そのとき、微かに子供の声がした。

(まさか・・・誰かが・・・)

 この研究施設を―――エストラーネオを、壊滅させた・・・?

「君も逃げると良い。もうここに縛られる必要はないのですよ」

 不意に少年の声が間近でして、はっと葵は顔を上げた。整った顔立ちの少年が、にこりと微笑んでいる。

「ほら、君も逃げなさい」

 いつの間にか拘束は外されており―――気がついたときには、先程の少年の姿は消えていた。

 部屋から出ると、無数の死体が転がっていた。まさに、血の海。

(ああ―――さっきの少年が・・・)

 やった、のか。

 そして、葵はやっと―――外の世界へと、足を踏み入れた。

 葵は麗が立ち去った自室で、ぐったりとソファに寝転がっていた。

(麗の前じゃあ、被っている偽りの仮面は無いも同じだな)

 出逢ったときからそうだった。気がつけばずっと被り続けていた偽りの仮面を、麗の前では取り去って破壊したい衝動に駆られる。まるで、麗が放つ柔らかい光によって、仮面の下の醜い顔を見透かされるのを恐れるかのように。

(思えば守護者の中で、秦を抜いたら僕が一番麗と古い仲だ)

 研究施設から逃げた後、葵はイタリアに来ていた蓮漣一家に助けられた。そのときは麗の母親がヴェンタッリオファミリーのボスで、温かく葵を迎え入れてくれたことをよく覚えている。

(どこの馬の骨とも知れない少年を、よく何年間も一緒に住まわせてくれたものだよ)

 今でも覚えている。麗と良く似た柔らかい笑みを浮かべた、あの人の表情を。そして、傷だらけだった葵の身体を一生懸命丁寧に手当てする、幼い麗の姿も。

 その二人を見たとき、葵は決めたのだ。この人たちには、一切何も言わない。嘘を吐き続けようと。そのかわり、自分の全てを、この人たちに捧げようと―――

 何年経っても、その思いは変わらなかった。麗がヴェンタッリオファミリーのボスとなったとき、葵は秦よりも早く守護者になった。危険な任務は出来るだけ、自分に回して貰うよう手回しした。

(あの子を見続け、想い続けることが出来なかったこと。あの人と麗に、全てを話すことが出来ないこと。それらの罪滅ぼしだった)

 前を向いて、大切な人を見ることが出来なかった。あの子や麗が放つ光が葵には眩しすぎて、眩しすぎて―――

(だから僕は、惹かれたんだ)

 脆く果敢無い光。温かく柔らかい光。太陽と月のように遠くて近い、二つの存在に。

 どちらの光も眩しかった。自分の影ですら明るく照らそうとするその光は、葵には眩しすぎるのだ。

(だから僕は逃げた。聖女となって、より一層深い輝きを放つあの子の傍にいることが、耐えられなくなったから。だから僕は逃げた)

 そんなあの子と最もかけ離れているのに最も近い存在の麗に、葵は惹かれた。

(君はどこにも傷一つない)

(数年前と変わらず、僕は傷だらけのままなのに)

(だから、そんな君だからこそ―――僕は偽り続けてしまう)

(悪いことだとはわかってる、でもきっと僕は一生偽り続けるだろうね)

(眼を逸らし続け、青紫の影ばかり纏ってしまうけれど)

(本当に、ごめん。だけど、今度こそ―――)

 月夜―――ごめんね、次は逃げずに・・・彼女が、麗がいるこの世界で、麗の傍でもう一度―――

 (僕はずるい)
(麗と月夜は別の存在なのに)(麗に何かをすることで)(許されようとしている)
(だけど、それでも僕は―――)




END

 

 

 

お題提供:不在証明(http://fluid.hiho.jp/ap/)


葵過去編、これにて一旦終了です。いずれ、また葵については書きます。
・・・さて、もう一回言って置きましょう。葵は麗のことを“愛”してはいるけれど、“恋”してはいません。“愛”してはいるけど、“恋”してはいない。大切なことなので二度言いました←

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