「夢で遊ぶの、とそれは言った」
「夢に踊れと哀れな人形を操る」
「ここは誰かの夢の中。殺意しかない夢の中」
「ただ、悪夢だけをみて」
……そう、誰かが言った。
殺意の中で呼吸
気がついたら、灰色の世界だった。
しんしんと、音もなく灰色の雪が降っている。だが、積もっていない。
澱んだ空。鈍い銀色のビルが立ち並んでいて、ただひたすら道路が続いている。向こうの方に、青く光っている信号。
歩いていくと、十字路が見えた。
「……交差点…。俺の名前かよ」
灰色の雪よりも雪のような白髪と、鮮やかな血色の瞳を持った少年―――交差点は、うっとおしそうに眼を細めた。
「つゥか、ここどこだァ?」
「夢だよ」
ちっ、と思わず舌打ちが漏れた。
振り返りもせず―――もう、誰かはわかっている―――交差点は言葉を吐き出した。
「てめェもいるのかよ、鎖月」
「いたくているんじゃない」
交差点の後ろに立っていたのは、鎖月聖。折れそうなくらい細く美しい黒髪を無造作に掻きあげ、眠たげな眼で前方を見つめていた。
(夢ン中で眠たげってのも変な話だ)
「夢って……また、アイツかァ? ―――匂宮時雨」
「さぁ、どうだろうな。こんな事をするのは時雨よりも夜な気がするけど」
夢を司り、夢を操り、夢を喰らう存在―――《夢喰い》の匂宮時雨、そして匂宮夜。
夢と言ったら、彼らは必要不可欠な存在だ。
「でも、《夢喰い》の夢の中って事は有り得ない」
「誰かの夢ン中って事かァ?」
「そうなるな。でも、私の夢じゃない」
「俺の夢でもねェな」
自分の名を夢に視るなど、そんな無粋な真似は絶対にしない。それに、以前視た自分の夢は『無』だった。
「ひとまず、この夢の主と時雨を捜そう」
「そうだな」
と、言ったときだった。
「……!?」
―――斬り裂く刃の音がした。
*
「…………どういう状況よ、これ」
茶髪の少女、シロは頭を抱えていた。
「うにゃー!!」
「にゃーって、猫やん」
「オレンジは猫にならないのかーっ」
「俺は残念な事に人間やからなぁ」
「しゃーっ」
「威嚇されたっ!?」
透き通るような白に近い金髪を靡かせながら、くるくると回り猫を真似る少女と、髪色と同じ鮮やかなオレンジのマフラーをしている青年。以上が、二人が永遠と繰り返しているやり取りである。
因みに。少女の名前は夕月、青年の名前はルーク=アザゼルだ。
事の始まりは数十分前に遡る。
「ここ、どこなの……」
積もらない灰色の雪が降り注ぐ、高層ビルが立ち並んでいる空間。シロは、そこに倒れ伏していた。
「お、気がついたみたいやな。だいじょーぶか?」
はっ、と上半身を起こすと、見覚えのある青年がニカッと笑ってしゃがんでいた。
「なんで、あんた……ルーク=アザゼル!」
「どうやらここは夢みたいやな。俺も気がついたらここにいたんや。一人じゃなくて良かったわー寂しくて死んでまうとこやった!」
「ま、待って夢ってどういう事、」
「さーて、他に誰かおらんか捜しに行くで」
話も聞かず、腕を引っ張られ身体を起こされる。と、そのときだった。
「ほぁー雪が降ってるのねーっ! ねぇねぇ、積もらない雪ってどこに行っちゃうのっ?」
一人の少女―――いや、幼女が、くるくると回りながらこっちに駆け寄ってきた。
「さぁ、それはわからんのやけど。お嬢さんも気がついたらここにおったんか?」
「えぇっ、あなたも知らないのー? あたしはもっとずっと向こうの方から来たんだよっ」
「ふーん、一人ってわけやな。じゃあ、俺らと一緒に行かへん?」
「行くっ! ねぇ、あなたの名前は? あたしは夕月だよっ、夕方の月」
―――くるくるくる、と。
そうして三人は、出会ったのである。
「……で、今に至るのよね」
「何一人で喋ってるん? シロは独り言が多いんやなぁ」
「つまり、寂しい人なんだねーっ!」
「うるさいわよ! 誰のせいで独り言と溜め息が増えてると思ってるの」
あれから、夕月の動きに合わせて三人は移動している。
その間にわかった事は、夕月とルークは非常に波長が合っていて、非常に扱うのが厄介であるという事だけだった。
(未だに『夢』っていうのも理解できないし)
とりあえず、この世界は『夢』。現実ではないのだろう。
「オレンジーっ、シローっ、雪強くなってるよっ」
「あ、ほんとね」
「あのなぁ、さっきから思ってたんやけど、何で俺の事オレンジって呼ぶん? 確かに髪もマフラーもオレンジやけど、ちゃんとルーク=アザゼルって名乗ったやろ」
「ほぇー? だってあなたはルークもどきでしょっ? だからあたしはオレンジって呼ぶのであったー!」
「もどき?」
相変わらず、意味不明で奇想天外。
「……なるほどなぁ。まぁいいわ、オレンジで」
ん? と、シロはルークの顔を見つめた。一瞬だけだったけれど、冷めた表情を浮かべた気がしたのだ。でも今は、苦笑い。
「そんな事よりもねっ」
夕月の言葉が、シロの思考を遮る。
「あなたたちは後ろにいるものの事を気にした方が良いんじゃないのかなぁ」
「え、」
―――思わず、恐る恐る後ろを振り返る。
「……何よ、あれ」
ざざざざざ、と音を立てて、近付いてくる黒い集団。よく見ると、それは―――
「影……っ!? 何なの、あれっ」
「ひとまず走れ!」
ひょい、と夕月を抱えたルークに腕を引かれ、走り出した。
「人影、みたいな…っ!」
「影法師だねっ! きっと人型兵器なんだよー。あれらはあたしたちを襲ってどんどん増幅していくのだーっ!!」
「意味わかんな!」
「夢の産物は何だって意味わかんないのよー」
「誰かさん―――この夢の主の想像の産物やな…!」
「その誰かって誰よ!」
「知らへん」
「知らないよっ?」
「~っ、もう!!」
無作為に道を選び、めちゃくちゃに走っていく。
景色は相変わらず、鈍い灰色の世界。
>>02に続く
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