「夢で遊ぶの、とそれは言った」
「夢に踊れと哀れな人形を操る」
「ここは誰かの夢の中。殺意しかない夢の中」
「ただ、悪夢だけをみて」
……そう、誰かが言った。
殺意の中で呼吸
キンッ、と、鋭い金属音が響き渡る。刀と鎌がぶつかり合う音。火花が散り、激しい鍔迫り合いが繰り広げげられている。
「なーんだ、聖もここに来てたんだ?」
徐々に聖に押され始め、鎌を持った濃紺の髪の少女―――蒼はバッ、と離れた。
「それはこっちのセリフなんだけど」
「白髪の少年なんて連れちゃって、聖ってショタコンだったっけ?」
「意味不明。好きで連れているわけでもないし、」
「連れられてるわけでもねェ」
白髪の少年と呼ばれた交差点は、不機嫌そうに蒼を睨み付けた。
「何故いきなり攻撃を……全く」
ふっ、と鎌が一瞬姿を消し―――代わりにこれまた不機嫌そうな表情を浮かべた少女が現れた。
「愛架、」
「《夢喰い》を捜していたんでしょう。こんなとこで喧嘩吹っ掛けてる暇があったら捜す時間に当てるべきです」
「うるさいなー、いいじゃんか。戦闘狂の聖が折角お友達連れでいるわけなんだし?」
「友達じゃねェ。それにこいつは戦闘狂でもねェだろォが」
苛々したトーンで口を開いた交差点を、「へぇ」と興味深げに蒼は見つめた。
―――びゅう、と冷たい風が吹いた。
「友達じゃないわりに、ちゃんと聖の事知ってるんじゃん」
「知りたくなかったけどなァ」
「興味沸いてきたかも」
「俺はてめェなんぞに興味はねェ」
「あ~っ、とにかく! 油売ってないで《夢喰い》を捜しましょう! あんた方もどうせ捜してるんでしょう? 手っ取り早く協力体勢取りませんか。なんか不穏な空間っぽいし、さっきあのうざってぇのが襲って来ましたし」
「うざってぇの?」
「ちょいと知り合いの銀髪少女。でも、偽者の幻影さんだったんだけどね」
なるほど、と聖が小さく呟く。ぶわっ、と後方からの風で、髪が巻き上げられた。
「この夢の主は私たちを知っているって事か」
「ついでに言えば、あたしたちを痛めつけるつもりでもいるみたいだけど」
「幻影、となると……夜って野郎が大幅に手を貸しているか、コピーすンのが得意な奴だって事だろうなァ」
「そういう事なら、尚更早く《夢喰い》を見つけるべきです。とりあえず行ってない方の探索をし」
―――刹那。
切り裂くような強風が四人を襲い、空気が割れた。
「っ……!?」
「なんだ、面白くない。誰も切り裂かれなかったんだね、そういう風を起こしたつもりだったんだけどな」
にこ、と。
心底楽しそうな笑みを浮かべた女―――否、今は身体が女になっているだけの男―――桜庭暁が、鉄扇をこちらに向けていた。
「お前……ッ」
「誰もいなくてつまらなかったんだ。俺を楽しませてよ…っと」
連続で霊力を帯びた強風が巻き起こる。
「ちっ、」
「舌打ちはよくないよ?」
「うるさい」
金色の瞳を細め、聖が吐き捨てるように言った。
「殺されたいのか、お前」
暁は微笑んだまま動かない。
だから―――動いた。
再び鎌となった愛架を振り翳す蒼と、愛用している日本刀を抜刀した聖、そして銃を構えた交差点。
一斉に、攻撃が暁に向けられる。
「ははっ」
「……お前は確かに快楽主義で楽しみのためなら何だってする奴だけど」
向かい来るかまいたちを避けながら、暁の頭上に向けて蒼は鎌を振り下ろした。避けようとした暁の目前には、聖。
肉が斬り裂かれる音。真っ赤な鮮血がそこら中に飛び散る音。
「こんな無謀な事はしない。あいつは莫迦じゃないからな。だから、お前は桜庭暁じゃない」
ひゅー、と耳障りな呼吸音。それさえも消し去るように、倒れ伏す寸前の暁に向かって、交差点の銃弾が撃ち込まれた。
「がはっ、」
シュン、と。
血だけを残して、暁の姿が消えた。
「やっぱり幻影だったね」
「殺らないと消えないってか。うざい幻影ですね」
無機質な灰色の中に、鮮血の赤。
頬についた生暖かい血に触れると、蒼は空虚な瞳でそれを拭い取った。
「チッ、余計に弾を使っちまった」
忌々しげに交差点は呟き、べしゃりと音を立てながらアスファルトに散った血を踏みつけ、歩き出す。
それに聖、蒼、愛架も続く。
「なんて居心地の悪い世界」
「さっさとこんな下らない夢からは醒めないと」
「反吐が出るくらい悪趣味な主だなァ」
―――四人が通り過ぎた血の跡を、冷たい風が吹きつけた。
*
空白の空間。
たった一人、灰色の空が続くだけの空間に、独り。
神黒黒は、そこにいた。
「……ここは、」
「どこかのビルの屋上、ね」
一人じゃなかったのか、と黒は思い直す。
しかし、この声には聴き覚えが無い、とも。
「黒―――神黒黒、でしょう」
「誰だよ、お前」
和服の少女だった。灰色の空とは似ても似つかない、空色の長髪を風に靡かせ、黒を見つめている。
「……輝夜」
「ふん、それで輝夜。下に見知った顔が幾つか見えるけど、俺はあっちには行けないのか?」
「行こうと思えば、行けるけど。……ここにいるほうが得策なのは、確か」
意味はよくわからなかったが、行きたければ行けという事だろう。下は慌しく厄介そうだから、行かない事に決めた。
恐らく高層ビルの屋上なのだろうが、広々としたこの空間を囲う柵の下は、明瞭に見る事が出来た。黒も輝夜も知っている人物たちが、いる。
「―――お前の夢じゃないよな?」
「……違う」
薄く笑って、輝夜は答える。
「わたしは確かにあの子達を傷つけたくもあるけれど、」
まるで月のように無機質な光を、両眼に燈す。
「……わたしなら、こんな悪趣味な夢は見ないわ」
「そうか。なら、いいや」
無表情の輝夜を眺めてから、ふっと視線を下ろす。
何も無い、灰色の空。冷えた高層ビルだらけの都会。誰もいない、夢の主を何も映せていない世界。
―――しばらく傍観に徹していてやろう。
黒は、一人ほくそ笑む。
(コイツは何か知ってるみたいだし、時間は十分ある。どーせ暇なんだ)
暇潰しに、犯人探しのゲームといこう。夢に厭きてしまうまで。
>>03に続く
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