[ThirdDay]
世界は巻き戻った。私は賭けに負け続けている。
*
気がついたら夕日によって赤く染まった畳の上に私は寝転がっていた。無様だった。敗北感に襲われた。
あの少年は如何して阻止を可能にさせているのだろうか。
だが其れを知る事は出来ない。私が彼女を殺す理由を明かさない限り、少年は其れを口にしないのだ。
今度こそはと、私はどうかすると色んな意味で柏木帷よりも薄っぺらな自分の胸に拳を置き、誓った。
今度こそは、あの少年に勝って柏木帷を殺そうではないか。
*
とは云ったものの、少年を出し抜けるような殺人計画が私の頭脳で考えられるわけもなく、私はただぼんやりとしてしまって貴重な時間を無駄にした。愚の骨頂である。果たして私は「愚の骨頂」を正しく使えているだろうか。どちらにせよ私は愚かな人間である。
気付けばもう夜は明け、古びた時計は午前七時二十六分を指していた。柏木帷は部活等には入っていないようだから、あともう少ししたら○○公園の前を通るだろう。
そう考えて、私は無意識の内に立ち上がり買って置いた新しい包丁のパッケージを開封し、部屋を出た。階段を降りる途中、柏木帷が向こうの方から歩いてくるのが見えた。
私は息を潜め、柏木帷が○○公園を横断するために足を踏み入れたのを確認して後ろへと回った。
―――三度目の正直、だ。
だが、私は思い出した。―――二度ある事は、三度ある、とか云う言葉があったではないか。
包丁を振り翳す腕が掴まれている事に、私は気付いた。ぞわり、と何かが這い出るような感覚に襲われる。
私は振り向く事が出来ず、固まったままであった。そうこうしているうちに、柏木帷は○○公園を横断し終えやがて其の小さな背も見えなくなって行った。
「彼女を殺すつもりだったんですね」
「っ……!」
掴まれていた腕が離され、ぶらん、と私の腕は重力に従って落ちた。だが、包丁は地面に叩きつけられる事なく、私の貧相な手に握られたままである。
「柏木さんを救いに来ました」
「……如何して、判ったんだ」
「じゃあ如何して貴方は柏木さんを殺そうと?」
「君と彼女からすれば、理不尽な理由がある」
「教えてくれないんですね」
「そうだな、何度リセットして世界をやり直しても彼女は私に殺されるぐらいの事をやり、そして私は理由を一切告げずに彼女を殺すよ」
「其の分だと、柏木さんにも教えていないようですね」
同じ事の繰り返し。会話が噛み合っていないようにも思えたが、此れは正しい会話である事を私は知っていた。
同じ事、と云えども、私の声は震えており、顔は引き攣っていた。其処が前回と前々回との相違点である。
少年は私を一瞥すると、冷めた笑みを浮かべて歩き始めた。私を置いて学校に向かうつもりであろう。
「云って置きますが」
「……」
「何度貴方が彼女を殺そうと、世界をやり直しても」
「………」
「僕は其の度に其れを阻止する事にします」
「…………」
「其れでは、然様なら」
捨て台詞のように、少年は云った。だが私は知っている、少年の捨て台詞は此れではない。
「もう一つだけ、云って置きます」
かみさま、と私は心の中で呟く。
「僕の名前は、」
少年の名前はもう聞きたくありません。柏木帷を殺させて下さい。
...Fourth Dayに続く
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