[SecondDay]
世界は巻き戻り、また私は柏木帷を殺しに行く。
*
六畳程度の私の部屋は、ガタガタと軋む窓から注がれる赤い夕日の光によって、何とも奇妙な色に染まっていた。
予感がして、私は携帯の画面を見た。日付は私が柏木帷を殺そうと決意したあの日であった。
やり直せたのだ、と私は思った。かみさまは私の願いを聞き入れてくれた。今度こそ、柏木帷を殺せる。
だが、私の胸の内には不穏な影が生まれていた。あの少年の存在である。
『何度貴方が彼女を殺そうと、世界をやり直しても』
『僕は其の度に其れを阻止します』
末恐ろしい少年だ、と云えば其れで終わりである。だが、其れ以上のものを思わせる何かをあの少年は放っていた。
私は購入した包丁を取り出した。まだパッケージから開けていない、真新しい包丁だ。
此れで斬るか刺すかして殺すのは、柏木帷のみだ。私は其れ以外の人間を殺すつもりはない。
(……此れは賭けだ)
私が柏木帷を殺すか。少年が柏木帷を救うか。
(ならば、私は)
何度世界をやり直してでも、彼女を殺してみせよう。
*
私は柏木帷が通う市立中学校の付近にある公園のベンチに座った。私の近所にある○○公園とは違い、其れなりに大きい公園である。
先程購入した午後の紅茶(因みにストレートティーである)の蓋を開け、口をつける。
時刻は午後四時十六分、此の午後ティーを飲み終えた頃ぐらいには彼女が校門から現れるのではないかと予測する。
最後の一口を飲み終えたところで、彼女が校門に向かって歩いてくるのが見えた。私の予測は当たったようだ。
私は公園にある網目でところどころ錆びてしまっている深緑色のゴミ箱に缶ジュースを投げ、そして外した。面倒だったが何だか罪悪感を覚えそうだったのでわざわざ拾いしっかりゴミ箱に入れると、柏木帷は校門から暫く行った地点まで進んでいた。
私は○○公園の前で柏木帷を殺そうと考えていた。ならば○○公園で待ち伏せしていれば良いのだろうが、後ろから一突き、と云うのもなかなか良いのではないかなと思い、学校から尾行する事にしたのである。
私は彼女を殺したいのであって、別にその後犯人として捕まっても構わないのだった。だが前回のように殺せないまま殺人未遂で捕まるのは御免だ。柏木帷はともかく、少年はきっと警察に云うだろう、と思った。でなければ世界をやり直すたび阻止する、などとは云わないだろう。
果たして少年と柏木帷は前回の記憶を私と同じように持っているのか、其れは定かではなかった。だが、何であろうと構わない。柏木帷を殺す事さえ出来れば、全てはお終いなのだから。
○○公園が見えてきた。あと少しで彼女は○○公園を横断するため○○公園に足を踏み入れるだろう。其のとき、彼女は私の持つ包丁によって殺されるのだ。
―――だが、私は振り向いてしまった。ぞわり、と何かが這い出るような感覚に襲われて。
「其の腰に隠し持っている包丁で柏木さんを殺すんですか?」
「……あ…ぁ、」
呑み込まれそうな、空虚な瞳が私を突き刺していた。あの、少年だった。
柏木帷は既に立ち去っていて、○○公園の前には私と少年の二人だけだった。
「柏木さんを救いに来ました」
「……如何して、判ったんだ」
「じゃあ如何して貴方は柏木さんを殺そうと?」
「君と彼女からすれば、理不尽な理由がある」
「教えてくれないんですね」
「そうだな、何度リセットして世界をやり直しても彼女は私に殺されるぐらいの事をやり、そして私は理由を一切告げずに彼女を殺すよ」
「其の分だと、柏木さんにも教えていないようですね」
半ば条件反射で答えていた。恐怖なのか感動なのか自分でも判らない感情のせいで、身体が思うように動かない。
「じゃあ僕も如何して貴方が柏木さんを殺そうとしている事に気付いたのか、教えない事にします」
少年はそう云って、私に背を向けた。夕日が公園を赤く染めていると云うのに、私と少年の周りだけ妙に薄暗く見えた。
「云って置きますが」
「……」
「何度貴方が彼女を殺そうと、世界をやり直しても」
「………」
「僕は其の度に其れを阻止する事にします」
「……………」
「其れでは、然様なら」
夕日は徐々に沈んでいく。少年の背中が遠くなっていく。
ああ、と少年が呟き、ゆっくりと振り返る。少年の影がより一層、濃くなった。
「もう一つだけ、云って置きます」
かみさま、と私は心の中で呟く。
「僕の名前は、」
もう一度、世界をやり直させて下さい。私に柏木帷を殺すチャンスを、もう一度、下さい。
...ThirdDayに続く
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