忍者ブログ
せんそうとへいわ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 

 あの夜の事は、一生忘れない。大切なあの(ひと)が死んだ、あの夜の事は。確かにあの夜、俺は決裂したのだから―――


 

愛した夜がける

 

 




 ずっと昔、まだ何も知らないガキだった頃。


祇徒(しと)!」


 カルコラーレファミリーのボスの息子である閑廼(しずの)祇徒は、名前を呼ばれて振り返った。


(れい)、」


 ヴェンタッリオファミリーのボスの娘である蓮漣(はすれん)麗が、笑顔を浮かべて立っていた。


「一緒に遊ぼう」


「いいよ」


 ――― お互い、敵対マフィアのボスの子供ではあったけれど。そんな思考は子供の脳内には存在しなかった。ただ、相手の事が好きだった、ただ、それだけ。

 


 


 「――― ヴェンタッリオ」


 昔よりも幾分か低くなった自分の声に、驚かされた。月日はあっという間に過ぎていく。あの夜の事など何事もなかったかのように、流れていく。


(
でもあの夜は確かに存在した)


 だから、今の自分がいる。そしてそれは――― 眼の前に立ちはだかる少女にも、言える事だ。


(
なあ、麗)


 少年は心の中でつぶやく。


(
もうあの夜は明けた)


 武器である扇を構えた少女を見やる。


(
だからもう、決裂の意思を示してやっても良いよな?)


 ――― 少年は静かに、剣を抜いた。


 

 


 初恋は蓮漣麗であった、と祇徒は断言できる。そしてそれは、相手側もそうであっただろうと言える。別にこれは自惚れでも何でもなく、事実だ。


 だって確かにあの頃は毎日が楽しくて楽しくて楽しくて、たまらなかった。


 ――― 背後に何が迫っているかも知らず、ただガキだった祇徒と麗はあの日々を愛していた。


 決裂する夜が訪れる事も知らず、ただ朝が来る事しか見ていなかった。

 


 


 あの日は朝から屋敷中がそわそわしていた。


(
何か抗争でも起きるのかな)


 普段はガキらしく遊んでいたけれど、幼い頃からカルコラーレファミリーのボスになる事が決まっていた祇徒は、麗よりも裏の顔に慣れ親しんでいた。だから直感的に、そういうものを感じ取っていた。


「祇徒」


 ボスである父が自分の名前を呼んだ。


(
麗が呼ぶ『祇徒』、とは違う響き)


「今日はあまり出歩かずに大人しくしていなさい」


「・・・・・・はい」


 やはり抗争があるのだ、と祇徒は確信した。


(
嫌な、予感がする)


 こういう直感は自分よりも麗のほうが当たるんだよな、と淡い期待を抱いて。


 でも、それは麗も感じていた事だった。


 

 


 銃声と金属音がひっきりなしに聞こえていた。


(
屋敷内で抗争、さっき見た顔には見覚えがある―――)


 今度は、確信はなかったけれど、あの顔は確かヴェンタッリオの者だ。


(
麗は、いないだろうな・・・・・・でも、)


 麗の母親は、ヴェンタッリオのボスである。


(
いや、思い違いかもしれない・・・マフィアなんて皆同じような顔だ)


 どくん、と心臓が蠢いた気がした。


(
――― 行かなきゃ)


・・・どこへ?


(父さん(ボス)
のところへ)


 ただ、そこに見ておかなきゃいけないものがある気がするから。

 


 


 「祇徒はさぁ」


「うん?」

 


 とある昼下がりの事だった。祇徒、ロキア、透離(とうり)日向(ひなた)は同じ部屋にいて、不意にロキアが口を開いた。


「優しいし甘いとこもあるけど、所詮裏側の人間なんだよな、私らと一緒で」


「はぁ?」


「自分で気付かないかな、この中の誰よりも実は凄く裏に染まっている人間だって事にさ」


「ロキア、」


 日向の鋭い声が入ったが、ロキアは薄い笑みを浮かべるだけだった。


「裏側の人間、ねぇ・・・」


 幼い頃の記憶がぼんやりと浮かぶ。あの日、あの夜の事。幾度となく思い出し甦る、あの夜の事。


「ボスは・・・」


 透離が静かに呟いた。


「裏に染まっているのではなく、元々裏の色をしているのでしょうね」

 


 


 父と母のいる部屋は、赤く染まっていた。


「っ・・・!」


 血塗れに転がっている刀。未だに止まらない鮮血。一人の、女性。


「・・・れ、・・・麗・・・お母さん、」


 妙に悲しげな表情をした父さんが、それを見つめていた。血塗れになった麗の母親の死体を、ただくらい瞳で見つめていた。


「祇徒」


「父、さん」


 だが、祇徒は自分で思っていた以上に心が穏やかな事に気付いた。全く動揺していない自分に動揺した。


(
ああ―――)


 麗の母親の死体、脳内でリンクする――― 父さんの悲しげな眼が、脳内に焼き付いた。


(
母さんは、死んだのか)


 妙に冷め切った頭で、幼い祇徒はそう思った。


「行くぞ」


「・・・はい」


 そう答えた祇徒の顔は、幼いながら既に(マフィア)の顔だった。

 


 


 人は死ぬ。最初からそれは決まっている事だ。


 だからあの日、二人の母親は死んだ。父親も死んだ。


 そして僅か十歳だった少年と少女は、今までの自分を殺した。


 

 


 「・・・・・・・・・来たか」


 父さんの酷く落ち着いた声がそう呟いた。無数の足音と叫び声が既にここまで聞こえ始めていた。


「祇徒、隠れておきなさい」


「はい、」


 まるで従順な犬のように、祇徒は物陰に隠れた。


 


 バン、と思い切り開く扉。一人の少女が姿を見せる。


(麗・・・?)


「カルコラーレ、ボス・・・命、頂きに来ました」


 ――― 麗。


 父親と麗が喋っていた。低い声で、そして強張った声で。


(
――― 麗、)


 麗の表情は、立派に(マフィア)の顔をしていた。


(
麗はヴェンッタリオのボスになったのか)


 俺がカルコラーレのボスとなるように、麗もまた。


 ――― 麗の手には扇が握られていた。だが、それと共に一丁の拳銃も持っている事に、祇徒は気付いていた。


(
麗がヴェンッタリオのボスになったように、俺もカルコラーレのボスになるのか)


 パァン、という乾いた銃声と共に、父親が倒れた。


(
・・・・・・父さん、)


 父親が倒れていく姿から眼を離す事が出来なくなった。幾度となく見てきた死体なのに、それは全く違うもので――― 冷静な自分も発狂しそうな自分もいる事に驚いて、眼を見開く。


(
父さん、俺は―――)


 よろり、と祇徒は物陰から出た。麗が少し驚いた顔で自分の名前を呼んだのが聞こえた。


「・・・・・・・・・祇徒、?」


「・・・・・・ッ、麗!」


 キッ、と麗を睨みつける祇徒に、麗はボソリと呟いた。


「・・・・・・敵同士だ、さよなら、祇徒・・・・・・」


 そう言って、麗は立ち去った。


 後に残されたのは父親の死体とカルコラーレのボスに定められた一人の少年。


「・・・・・・何が、さよなら、だ」


 思わずそう呟く。


「お前は何もわかっちゃいないくせに」


 あの少女はきっと知らない。自分の母親が殺されたように少年の母親が殺された事も、少年の父親の葛藤も、そして――― 少年の本当の姿も。


「わかるはずがないんだ」


 自分の本当の姿なんて――― 俺にもわかってないんだからさ。

 


 


 (今ならわかる、少しだけ)


 剣を握り締め構え直しながら、祇徒は思う。


 ロキアや透離の言ったとおりだ。


 閑廼祇徒は優しくて甘いのだろう。だが、彼は誰よりも幼い頃から裏の顔を知っており、誰よりも裏に染まっていて、そして生まれたときから既に裏の色をしていた、完璧なる裏側の人間なのだ。


 

「お前は昔からわかっていなかった」


「・・・何が」


 鋭い声。でもその奥は震えている事を知っている。


「俺の覚悟だよ」


 扇を握り締める力が強まった事に気付きながら、祇徒は続けた。


「お前は裏に染まりきっていないんだ。俺とは違って――― だから覚悟もまだ出来ていない、俺の覚悟はあの夜から完璧なものになっていたし、俺はきっと最初から裏側の人間だ」


「何を言っ、」


「まだまだ甘いぜ、ヴェンタッリオ。そんなんじゃ俺は殺せないし決別なんざ出来ない。でも安心しろよ、きっかけさえあればお前はいつでも裏側に来れる」


 完璧では、ないけれど。でもお前の周りにいる奴はどいつも裏に染まりきった人間だから、きっと――― 俺よりも上手い方法でお前をどうにかしてくれるだろう。


「言っておくけどな、俺はもうずっと昔からお前を決裂していたつもりだよ。お前は自分を殺したかもしれないけど、まだ俺に対してあの感情を捨て切れていないんだろ。でも俺はもうとっくに捨てちまった。お前の事は大切な存在だけど、それ以上でもそれ以下でもない」


「・・・黙れ」


「お前は母親を目標にしているんだろ? でも俺は違う。俺は父さんを目標にしてるんじゃない、俺は父さんを超える。だから父さんを超えるためならば、」


 すぅ、と息を吸い込み、吐き出す。


俺は何だって捨ててやるよ


「っ・・・!」


 そう言って、祇徒は剣を鞘に仕舞いくるりと背を向けた。


 そろそろ迎えに行かないと、うちの暴君少女は手が付けられなくなる。特に頭の中に浮かぶのは二人だけだが。


「じゃあな、麗」


 びくりと肩を震わせたのがわかった。


「次会うときは、完全なる決裂の時だ」


 ――― そのときは、きっと何かを失ったときだろうけど。


 ――― でも人は何かを失わなければ気付かない。


 ――― そうして裏に染まっていくんだよ、ヴェンタッリオ。


 


 あの日、あの夜の事は決して忘れない。あの日、俺は表の自分を殺して裏の自分を生かした。完全なる自分との決裂。愛すべき夜。封印したいあの日。


(
絶対に、俺は、お前を、)


 初恋なんて曖昧なものじゃなく、確かな感情を抱いて――― 少年は仲間の名前を呼んだ。

 

 



To Be Continued...


祇徒の過去話やっと完成!!! これでロキアの過去が書ける←
ついでにこれはかなり麗の過去とリンクしています。麗の過去話は曖沙さんのブログからどうぞw
http://scelta.ni-moe.com/
因みにこのブログのリンクからもいけます。

いずれ麗と祇徒の完全決裂話も書けるといいな、と思っています。恐らく葵が死んだ3年後の話ぐらいになるかと。
余談ですが、今回の話は「そこに言葉は必要ですか」で少し出て来た「俺が麗と久しぶりに対峙」のそれです。
今度曖沙さんのも含めて、時系列でも書いてみようか。でも私の話は基本現代から回想、が多いのでめんどいんだよな←
でも書いてみよう、時系列。そうしたほうがわかりやすいよねうん(

拍手[0回]

PR
コメントを書く
お名前
タイトル
メールアドレス
URL
コメント   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
パスワード
無題
え、ちょ…祇徒さん…!!
うわあああ感動した!
曖沙 2010/06/10(Thu)22:20 編集
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
 HOME | 91  90  88  87  86  85  84  83  82  81  80 
Admin / Write
Calendar
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
Profile
Name:在処(arika)
Sex:女
Birth:H7,3,22
Job:学生
Love:小説、漫画、和服、鎖骨、手、僕っ子、日本刀、銃、戦闘、シリアス、友情
Hate:理不尽、非常識、偏見
Twitter
NewComment
[08/17 在処]
[08/16 曖沙]
[08/16 曖沙]
[08/15 在処]
[08/15 曖沙]
Counter

FreeArea
FreeArea
Ranking
ブログランキング・にほんブログ村へ

にほんブログ村 小説ブログへ

にほんブログ村

人気ブログランキングへ

Barcode
忍者ブログ [PR]