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せんそうとへいわ
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第肆話...気炎万丈



 「鎖月聖を殺したいのよ

 睦月理世は、その顔に似合わない、怒りと憎悪がこもった表情で言い捨てた。

「鎖月、聖・・・・・・」

「聞いたことぐらいあるでしょう? 実在するのかわからない、謎の鎖月家次期十三代目当主(・・・・・・・・・・・・・)

 小耳に挟んだことはあった。鎖月家現当主である鎖月(かがり)が、十四年ほど前に、不意に言い出した少女の存在。だが名前は出ても姿を見たものはおらず、実在しないのではないかという噂が流れた。

「実在しないと思ってる? 凍城翠」

「・・・・・・いえ、居ると思っていました」

 鎖月家は恐ろしい家、修羅の家。祖父はそう言っていた。何をするかわからない。血縁関係にあっても、平気で人を殺せるような家、だと。

「用済みになって殺したのか、それとも世間にさらしたくなくて閉じ込めているとか、意味のわからない鎖月家の掟とかを押し付けているとか・・・・・・だから姿を現さないんじゃないかって、幼いながらにそう思っていました」

「なるほどね。思っていたより頭が良いみたい」

 恐らく年下であるだろうに、理世は生意気な口調だった。

「殺したい、ということは実在しているんですね」

「そうよ。居もしない人間を恨んで殺したいと思うほど、あたしは莫迦じゃない」

 莫迦じゃないの、というように、理世は鼻で笑った。

 元来、鎖月家と睦月家は仲が悪い。四大名家が争うようになったのも、元はといえばこの二つの家が諍いを始めたのがきっかけと言われている。何故仲が悪いのか、そういう類の話は、翠はよく知らない。

 兎に角、鎖月家と睦月家は仲が悪く――― 面識がなくとも、いがみあっているケースが多いのだ。

――― あたしには兄がいたの。千理(せんり)って名前の、兄が」

 ぽつり、と理世は呟くように話し始めた。

「大好きだった。いつもあたしを一番に考えてくれる、優しい妹想いの兄」

 ――― その兄が六年前に・・・・・・殺された。

「その日は何故か兄だけが屋敷に残っていたの。あたしも父も、全員出掛けていて・・・・・・使用人は離れを使っていたから、屋敷には兄だけで・・・・・・兄は刀で斬られて、殺されていた」

 当然、鎖月家の者が殺したのだということになった。当たり前だ、鎖月家と睦月家は古くから仲が悪かったのだから。

「当然よね、ほんと。兄は次期当主で、殺されてもおかしくない立場だったわ」

 さっき理世は、睦月家次期当主と名乗った。ということは、兄が死んで妹にお鉢が回ってきたということか。

(それが余計に、心苦しいのかもしれない・・・・・・残された者はいつだって苦しい思いをする)

 かつての自分が甦る。

(この子は僕と違って、正しい復讐をしようとしているみたいだけど)

「許せなかった。誰が殺したのか、あたしは一人で探すことにした。情報屋を当たったり、ほんとにいろんなことをしたの。そして九ヶ月ぐらい前・・・・・・あたしは、鎖月聖に出逢った」

(六年の月日が流れても、彼女は兄を殺した相手を探していた・・・・・・)

 六年間。長かったろう、と翠は思った。もしかすると、理世にとってはとても短かったかもしれないけれど。だが、それでも、翠にとっては長い年月だ。

「偶然だった。睦月家本家は壱之町の近くにある。だから壱之町にはよく来ていたのよ。そこで逢ったの、鎖月聖に。彼女は人を殺していた。あたしを見て無言で立ち去って・・・・・・あたしは気まぐれを起こして死体を眺めたの。そしたら気付いた・・・・・・。この斬り方、傷跡、どれをとっても兄のものと一緒。これでも睦月家よ、見てわかる。忘れもしない、血塗れで倒れていた千理(にい)の死体と一緒だったのよ!」

 睦月理世に果たして、斬った跡を分析出来るのかはわからない。だが・・・・・・。

(彼女が第一発見者だった。そして兄を殺した犯人を見つけるために、少しでも手がかりを覚えておこうと鮮明に、はっきりと、“傷”を見た。見ようとした。だから、覚えていた・・・・・・)

 個性的な剣技のスタイルをとっていれば、傷跡で誰がやったのか、見分けがつくことも可能かもしれない。

「あたしは探した。探し続けた、あのときはまだあの少女が鎖月聖だって知らないから、記憶だけを頼りに情報屋を当たって探したの。そして先月、とある情報屋に逢って・・・・・・鎖月聖だということを知った」


『黒髪に金色の瞳。人形みたいに整った顔立ちで、身長170cm以上ある・・・・・・すっごく綺麗な女』

『・・・この子かしら?』

 情報屋は写真を差し出した。間違いない、紛れもなくあのときの少女。

『誰なの、こいつは誰』

鎖月家次期当主(・・・・・・・)・・・・・・鎖月聖よ(・・・・)

 写真の中で、鎖月聖は、恐ろしいほど美しい無表情を見せていた。


「あたしは鎖月聖を殺したいの。だからね、協力して―――貴女の大好きな幼馴染の事、教えてあげるから」

「世賭の事を・・・・・・?」

 何も知らないんでしょう、と理世は鼻で笑った。

「知っていたら、一緒に旅なんかするはず無いものね。鎖月家元次期当主で(・・・・・・・・・)鎖月聖の異母兄妹(・・・・・・・・)鎖月世賭であると知っていたら(・・・・・・・・・・・・・・)

 ――― 瞬間、世界が凍ったような気がした。




...第伍話に続く


今回は理世と翠の対話のみ。
解説あざまーすって感じの話でしたね←

あー、そろそろ短編のほうをうpしたいなあ・・・

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