第伍話...螺旋回廊
鎖月世賭に接触したのねと、聖の同居人・・・・・・もとい、情報屋である月城夕が言った。
「さすが、政府公認情報屋。情報が早いな」
「勿論よ。四大名家の情報は、たとえほんの些細なことでも見逃さないわ」
本当にその言葉のとおりであるから恐ろしい。
「驚いていたんじゃないかしら? 彼女・・・・・・いえ、彼でいいかしらね。彼は知っているから。聖がずっと閉じ込められていた事を」
「本来ならば、まだ出て来られない。だというのに私が目の前に現れた。色々な意味でショックだろうな」
―――世賭は私の存在を“忘れて”いたから。
「人間は脆いわ。嫌な記憶は消したいと思ってしまう、そして消してしまう。脳は人間に、とても優しく残酷よ。
彼は鎖月家が嫌いで、消し去りたいと思っていた。そしてそれを思い出させてしまう聖の記憶を消してしまった。一番嫌な存在であるはずの鎖月篝を消すより、簡単だったから。
まあ、それは貴女もそうだけどね、聖。貴女の記憶も欠陥だらけ」
だが消したといっても、根本的に“無かった”ことには出来ない。少なからず、意識の底には残ってしまっていた。
「元皇帝、アリカの敵の名は黒木聖だった。それに加えて昨日は貴女の誕生日。そして逢ってしまった、貴女に。思い出すには十分過ぎるぐらいだわ」
そうそう、とつけたすように夕が続けた。
「黒宮芦騎が動き出したわ」
「・・・へェ。詩騎が泣くことになるな」
「可哀想に。彼女は最後まで兄に弄ばれる運命にあるのね」
「詩騎のことは嫌いじゃないから、私が関わることになったら協力する」
「良い心がけじゃない、聖」
四大名家も大変ね、と夕は静かに呟いた。
――― 口の端をゆるりと引き上げ、聖は端正な顔を歪ませた。
*
翠が宿に帰って来たのは深夜だった。
「翠!」
探し回った挙句見つからず、宿に戻って丁度・・・・・・翠が帰って来た。
「どこに行ってたん―――」
「世賭」
感情を感じさせない、冷たい声で翠が世賭の名を呼ぶ。世賭は射竦められたかのように動けなかった。
「世賭が鎖月家の人間って本当? 世賭が鎖月家元次期当主って本当? 世賭が鎖月家次期当主の腹違いの姉って本当? 嘘だよね?」
翠は吐き捨てるように、まくし立てるように、一気に喋った。世賭は驚愕の表情で翠を見つめる。
――― 誰からそんなこと聞いたんだ、ダレカラソンナコトキイタンダ。
「な、んで―――」
「ほんとうなんだね」
まるで機械人形のように冷たく言い放つ。世賭はそれが無性に恐ろしくて、声が出なかった。
「――― 睦月家次期当主と名乗る女の子に逢った。彼女は鎖月聖を殺したくて、それで協力して欲しくて僕に接して来たらしい。そして最後に言ったんだ、世賭が鎖月家の人間だって。僕は信じられなくて、もうそれ以上聞きたくなくて・・・・・・その場から逃げ出した。それでさっき――― 適当なところで時間を潰して戻って来た」
翠は焦げ茶色の髪で顔を隠すように、うつむいた。
「言ってくれれば良かったのに、と思ったよ。だけど普通は言えないよね。僕だって薄々、何か四大名家に関わりがあるんじゃないかとか、そういうこと考えていた。だけど聞かなかったのは怖かったから。恐ろしかったから。だから、世賭は悪くない。逃げていた僕が悪いんだ。でもね、世賭。別に鎖月家の人間だって言っても良かったんだよ、だって」
――― 僕は鎖月家の人間だからって、世賭を嫌いになったりなんかしないから。
「――― え」
「僕は世賭が好きなんだ、鎖月なんてどうでもいい。だからね、何があったのかはやっぱり聞かない。でも喋りたいなら聞くよ」
――― だからこれからも、幼馴染で、友人で、仲間で・・・・・・あってくれればそれでいいんだよ、世賭。
「・・・・・・あり、がとう」
「うん」
泣いていたらしく、翠は若干眼の縁を紅くしていた。思わず、罪悪感を映した笑みが世賭から零れる。
「四大名家の重要人が動き出す、って・・・睦月理世が言ってた。僕らが巻き込まれることは確実だ」
実体も影も無く、それは動く。
「・・・・・・何かが動き出しているよ」
...第睦話に続く
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