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せんそうとへいわ
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 ただ、深い湖の底に沈むように。


 …夢へと、堕ちて行くのだ。


 

永久的トートロジー

 


 ヒグラシが鳴く森の中存在する、鳥居。


 何十、何百、何千、何万と続く、赤い鳥居の道を、一人の少女が歩いていた。


 ――― 鴉の様な漆黒の髪を揺らし、深紅(あか)を纏った少女。

 


「ここは夢、ね」

 


 夢。現実ではない、いわば誰かの心の中。


 世界は幾つもの世界に枝分かれしている。その分岐点であり、中枢世界が夢だ。


 そして一人ひとつ、夢が存在する。まるで部屋のように、一人ずつ夢の世界が存在している。ここは、誰かさんの夢の世界。

 


They told me you had been to her, And mentioned me to him; She gave me a good character, But said I could not swim.

 


 口ずさむように、《小さな紅き魔女(リトル・スカーレット・ウィッチ)》は謡った。紅いエプロンドレスが鳥居に当たるのも気にせず、優雅に舞いながら、だが確実に歩み続けている。

 


He sent them word I had not gone,


「随分と機嫌が良いですね、《暗黒のアリス》」

 


 不意に後ろから、自分の二つ名を呼ばれて、少女は謡うのをやめ振り向いた。


 そこには、闇を映したような漆黒の髪を持つ少年が立っていた。

 


「今、貴方に二つ名を呼ばれて機嫌が悪くなったわ」


「それは申し訳ないですね。じゃあ、《下剋上のアリス》? 《最強君主》? 《深紅の魔女(スカーレット・ウィッチ)》? 《暗黒の女王(ダーカーオブクイーン)》? 《血染めのアリス》? 《千年魔術師》? それとも…」


「私の名前はアリカよ。それ以外の何者でもない。それらは下種な人間共が勝手につけたものだし」


「そうですね、その通りだ。下種な人間たちは何もわかっちゃいませんからね。大体、《千年魔術師》は本来俺につけられるべき二つ名です」


「その通りね。単に『魔術師』だけで考えたら、最強なのは貴方だわ――― 黄昏時(トワイライト)

 


 黄昏時(トワイライト)と呼ばれた少年は、暗闇の中でさえも妖しく光る碧い瞳をきらめかせ、アリカを見つめた。


 次第に弱まっていく落日の光が、最後の力を振り絞るかのように、二人に向かって光を刺す。

 


「それで、何の用? しばらくぶりだけど。最近、あの家(・・・)のお嬢さんにご執心らしいじゃない」


「あの子とは、単に俺が近しい距離感を抱く相手なだけですよ。ま、ご執心っちゃご執心かもしれませんけど」


「貴方が近しい距離感を抱くなんて珍しい。いつだってその茨で距離を測り、姿を偽り、細胞ごと相手を騙すくせに」


「否定はしませんよ」

 


 くすくすと、楽しそうに――― だが眼は笑っていない――― 黄昏時(トワイライト)は笑った。


 それをアリカは不快そうに見て、そしてまた歩き出す。紅いシルクハットを深く被りなおし、ただだけを身に纏って。


 ヒグラシは鳴き続けている。すっかり日の落ちた暗い森の中、鳥居にぶら下がっている提燈の明かりだけが道を照らす。

 


「ところで、あんたも俺と向かう先は一緒ですかね?」


「この鳥居の道は夢へと続く一本道。行き先が同じなのは出会った瞬間から判ってたでしょ? 判りきった質問をしないでよ、ウザいから」


「認めたくない判りきった事実だってあるんですよ。大体、あんたは違うかもしれませんが、俺は望んでここに来たわけじゃないんですから。急に夢に堕とされるなんて、たまったもんじゃない」


「私だって望んで来たわけじゃないんだけど。この夢が誰のものかは大体予想がつくけど、それにしたって夢なんて不確定で曖昧で、でも確立された世界に連れて来られるなんて最悪よ」

 


 歩いていくうちに、最後の鳥居が見えてきた。


 急にひた、と二人は声も足も止めた。呼吸する事も憚られるくらいの静寂に包まれる。

 


――― 着いた」

 


 最後の鳥居の先は――― 暗闇。

 


 


 ――― 深海と夢は似ている、と誰かが言った。

 

 


「久しぶりだね、」

 


 白い少年と白い少女が向かい合っていた。どちらも白髪で陶器のように白い肌、そして白い服に包まれている。違うのは、瞳の色。


 眼に痛いショッキングピンクの瞳と、暗い月光を映したような金色の瞳が、交差する。

 


「さて、君を殺してもいいかな」


「……皆、わたしを狙うけど。…誰もわたしを殺せない…」


「………はぁ。――― ねぇ、赫夜(かぐや)

 


 白い少女は赫夜と言う名であるらしい。名前を呼ばれ、小首を傾げた。ちりん、と、金色の簪についた硝子の鈴が鳴る。

 


「もうじき―――

 


 少年が口を開きかけた、その瞬間。


 遮るように、眼にも留まらぬ速さで何かが赫夜を襲い、捕らえた。

 


「茨……?」


「やっぱりここはあんたの夢でしたか。今日こそ、殺してやりますよ」

 


 腕から無数の茨を生やし、操っているのは――― 黄昏時(トワイライト)。その後ろから、呆れた表情のアリカが姿を見せる。

 


黄昏時(トワイライト)、血の気多すぎ。カルシウムちゃんと摂ってるの? 少しお話してから殺しあいましょうよ」


「嫌ですね。大嫌いですから」


「……嫌われるのは、慣れてる。……わたしは、《聖女》だから」


「もういいわ。それにしても久しぶりね、雪慈(ゆきじ)

 


 白い少年――― 雪慈が、くくっと喉の奥で笑った。いつの間にか服の下―――身体中に巻いている包帯のうち、両腕の包帯を地面に突き刺し、浮いている。

 


「元・皇帝にして900年近く生きている紅き魔女に、千年以上生きている、史上最高位の魔術師と、全てを操作する聖女……それと、僕か。随分と凄い役者が揃ったものだね」


「足りないわ。ここは夢……そうでしょう? 夢には欠かせない存在が足りない」

 


「そのとおりだなァ」

 


 不意に、誰のものでもない青年の声がした。


 全員が一斉に、同じ場所へ視線を向ける。


 そこには、不敵な笑みを浮かべた青年が立っていた。

 


「《夢喰い(メア・イーター)》……」

 


 茨に拘束されたままの赫夜が呟く。

 


「おいおい、今日は聖女さんを殺す会の集まりかァ? 言っとくが、俺は別に聖女にゃ興味ねェ」


「ちょっと。あんた、時雨のほうですね? 夢を操るのは夜のほうでしょう。どうしてあんたが、」


「俺は、今日は喰らいに来たんだ。大体、夜だろうと俺だろうと《夢喰い》は《夢喰い》だぜ。夢を司ってる事には変わりねェんだ、俺だって夢を操れないわけじゃねェ」

 


 夢を自由に行き来し、誰の夢の世界にも自由に入る事が出来、そして夢を喰らい夢を操る存在――― 夢喰い(メア・イーター)》。


 いよいよ、5人も人から外れた者たちが集まった。

 


「誰の計らいだ? 俺を含めて全員、黒幕にふさわしい奴ばっかじゃねェか」


「どうせこいつでしょう。判りきってる事です。自分を殺したい奴を集めて莫迦にする悪趣味をお持ちなんですよ」


「……否定はしない。殺せるなら殺してみて。………出来ないだろうけど」

 


 ――― 刹那。


 先端の尖った純白の包帯が、赫夜の胸に突き刺さった。ずぷっ、という音と共に、大量の血が滝のように流れ落ち始める。


 続けて、銃声。黒い拳銃から放たれた弾丸が、額の中心を突き抜けた。

 


「っ、がは…ッ」

 


 容赦なく、茨がぐちゃぐちゃと傷を抉る。とめどなく血が滴り落ち、全員が顔を顰めた。

 


「気持ち悪い」

 


 白い包帯と茨から解放され、支えるものをなくした赫夜の身体は血塗れの床に倒れ伏した。


 それを待っていたかのように、雪慈は幾多の鋭い包帯が赫夜の身体を突き刺した。

 


「あァァぁぁぁああああぁぁぁああぁぁッ!?

 


 焦げた匂い。魔術師である黄昏時(トワイライト)から放たれた炎が、赫夜を焦がし劈くような悲鳴を上げさせた。

 


「ざまぁないですね。無様だ」


「滑稽な姿だね」


「あ、あ、あ、あ、ぁぁぁああああぁあぁぁああああ!!!!


「煩いですよ。少し黙って下さい―――

 


 黄昏時(トワイライト)の瞳が、じわりと金色に光った。そして――― 少年であったはずのその姿が、一瞬にしてチェーンソーへと変わっていた。

 


「ふうん」

 


 シルクハットが落ちないように押さえながら、アリカがチェーンソーを拾い上げ、構える。それを視線で追っていた赫夜の瞳が、恐怖に見開かれた。

 


「あ、あ―――


「どーん」

 


 けたたましい音を鳴り響かせているチェーンソーが、少女の柔らかな肉を突き破り抉りぐちゃぐちゃに掻き乱して行く。血と肉片が飛び散り、どんどんと紅く染まっていった。

 


「あ、が、ががががぁぁあああぁあが、がはっぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!

 


 大量に血を噴き出しながら、骨が砕かれていく。最早、顔以外は原型をとどめていなかった。

 


「煩いよ、赫夜。少し黙って」

 


 ぐちゃ、と。包帯の先端が、赫夜の喉を突き刺した。

 


「っひ――― !?

 


 少女の悲鳴と共に、チェーンソーの音も鳴り止んだ。


 赫夜の白は全て血の色に染まり、肉片は原型をとどめておらず、紅く染まった骨は粉々に砕かれ、臓器は全てぐちゃぐちゃに掻き乱され、ハラワタは赤黒く光っていた。


 金色の瞳は虚空を見つめ、ひゅーひゅーと喉の奥が耳障りな音を奏でている。

 


――― ほんと、無様ですね」

 


 いつの間にか、チェーンソーからいつもの少年の姿に戻った黄昏時(トワイライト)が、蔑んだ目付きでそれらを見ていた。

 


「気は済んだみてェだな」

 


 終始黙ったままで、ただ何もせず血の届かない範囲に退散していた時雨が、ようやく口を開いた。赫夜に手をかけた三人が、時雨のほうを見つめる。

 


「この悪夢も、これにてお開き。美味しく俺が頂いてやるよ」


「そ。じゃあ、僕はお先に帰らせて貰うね。もうここには用はないし」

 


 さよならの一言も告げず、雪慈は無数の包帯を羽のように広げ、一気にどこかへ消え去った。

 


「じゃ、俺も。もうこの女には逢いたくないものですね」


「私もよ。願い下げだわ」

 


 続けて黄昏時(トワイライト)、アリカも夢から消えた。


 残ったのは、《夢喰い》と赫夜の肉片。

 


――― 頂きます」

 


 一瞬、ほんの一瞬だけ…歪んだ。ただ、それだけだった。

 


「……いつまで寝てる? ここは夢だ、夢ン中でも寝てるンじゃねェよ」


「……寝てるわけじゃない…起きれないんだから、しょうがない」


「ちっ、うぜェな。もう悪夢は俺が喰ったンだ。動けるだろうが」

 


 むくり、と。


 ぐちゃぐちゃであるはずの身体が、起き上がった。全ての肉片ごと、全ての血液ごと、文字通り――― 立ち上がった(・・・・・・)

 


「ほんと、どうやってんだァ? それ」


「…全てを操作できるだけの事。ただ、それだけ」


「相変わらず、意味不明だなァ。その操作の定義がわからねェ」


「定義は、全部。全て。…そのままの意味」

 


 肉片は血液と合体し、赫夜の言うところの操作により――― 元に、戻った。そう、文字通り…そのままの意味で。

 


「あいつらも戻る事がわかってて、よくやるぜ。あんなぐっちゃぐちゃに赫夜の身体を痛めつけようと、結局は元に戻るンだ。意味ねェのになァ」


「…さあ。でも痛みはあるから、楽しいんだと思う。……痛かった、凄く。物凄く」

 


 徹底した、無機質な無表情の中に、多少の狂気と恨めしさが浮かんでいた。


 完全体となった自分の姿を一瞥してから、赫夜は夢の出口へと足を向ける。

 


「…もう、疲れた。それじゃ、またね…時雨」


「あァ」

 


 ふ、と。夢に堕ちたときのように、一瞬にして現実へと戻っていった。

 


――― 所詮は夢だ。人格が存在し反映されたとしても、夢に変わりねェ。だが、同時に夢の定義がない事も確かだ。赫夜は死んだ。アリカと黄昏時(トワイライト)と雪慈は殺した。それは事実だ。だが赫夜は死んでないし、アリカと黄昏時(トワイライト)と雪慈は殺してねェ。それが、あいつの操作したものの一つって事か。…ほんとに定義がわかんねェな」

 


 深いため息を吐き、《夢喰い》は壁にもたれかかった。

 


 夢は、甘美だ。同時に、深い深い奈落の底でもある。どこまでも存在し続け、定義は存在せず、ただそれは底のない深海のようにあり続ける。


 そこにあるのは、一体なんなのか。


 それは、誰にもわからない。


 

END?
 

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 その“色”に俺は触れた。


 

 

everytime you kissed me

 

 

 

 
 私は彼に触れられるたび、音を出して震えました。

 

 


 喰われて見ようと思った。自分の夢がどんなモノなのか――― そして、“彼”はどういうモノなのか。

 


「へぇ・・・・・・君が、例の神様?」


「ふーん、君が例の“夜”ねー」

 


 お互い偽善者染みた微笑を貼り付けて対面しあう。こいつが時雨のナカにいる夜って奴。


(
面白そうだけど気に食わないかも)


 ――― 時雨のほーが、よっぽど好き。

 


「で、君が夢を喰らわせてくれるんだ?」


「そのつもりだけどー?」


「でも、そんなすんなりアイツに喰らわせてやるほど僕は優しくないんだよね」

 


 反転した“彼”は、不釣合いな不敵な笑みを浮かべた。


 

 


 キスのように甘く柔らかく解けるような温かさを、彼は私にくれました。薔薇のような芳しい香りや希望を歌わせてくれました。


 貴方の音は私の音。夢のような時間を彼は私にくれました。


 ・・・・・・でも、いつの頃からか、彼の音が聴こえなくなりました。

 


 

 ――― 夢に、堕ちていく。

 


「アイツは大切なものを二つも失って、もう何も無い」


「なに、それ」


「そのままの意味だよ。だからアイツは主人格として生きる事を選んだ。そっちのがラクだからね」


「普通逆じゃない?」


「僕らにとっては違うんだよ」

 


 アイツの音は、枯れてしまったんだ。

 


「あの忌まわしき二人の少女のせいでね。始まりは《灰色の少女》、終止符は《銀色の少女》」


「・・・・・・誰の事」


「そんなに知りたい? でも教えてあげない、君には必要の無いものだしね、黙って時雨の餌になりなよ。・・・とは言っても、昔と違って夢を喰らっても相手はココロを失わなくなってしまったんだけどね」


「・・・? 時雨が主人格になったから?」


「そうだよ。僕が主人格だった頃は、違ったのに。本当なら君の事だって《喰らい尽くして(殺して)》やりたいよ。時雨を揺らがせるものは邪魔なゴミだ」


「じゃああの子はどーなの? いつも引っ付いてるちっちゃな女の子。それと、あたしの周りにいる子たち」


「あの子らはどうでもいいんだ。特に、君の言うところのちっちゃな女の子。あんなに懐いているのに可哀想な話だけど本当の意味で時雨はあの子に興味が無い。本当に、本当の意味でね」

 


 ――― その点、君は違う。

 


「《灰色の少女》や《銀色の少女》ほどではないけど、君もそれなりの影響力は持ってる。久しぶりに会う人外・・・・・・自分と同じだからかな。ま、君と僕らじゃ格が違うけど」


「そりゃどーも」


「君なら《蒼色の少女》になれるよ」


「ははっ、それはおもしろそーだね」


「でもまあ、君が期待するほどの存在にはなれないよ。アイツには《銀色の少女》の影が纏わり続けているから」

 


 


 彼の音は枯れてしまいました。まるで色褪せた銀色の薔薇のように、枯れてしまいました。だから私の奥底にまで届かなくなりました。私にキスのような感覚が与えられなくなりました。


 私はそれでも貴方の傍に居続ける事にしました。彼の最後の言葉に涙を零してしまったから。彼の音は枯れて私には聴こえなくなってしまったけれど、でもまだ失ってしまったわけではないから。


 ・・・・・・彼がまた咲き誇るまで、私は彼の代わりに、彼のために、悲しみを口ずさみ続けるのです。

 


 彼の、最後の言葉。


愛してた、透離


 

 


 「ほんとにアイツは丸くなったよね。ねえ、どうして今日アイツが君を喰らおうとしたのか、わかる?」


「・・・? 何、どういう事」


「アイツは僕の事が嫌いなのに、わざわざこんな事遠回しに頼んじゃって。まあ、君じゃなくて《銀色の少女》だったらもっと必死に――― いや、寧ろ自分から動いただろうけど。所詮、アイツにとって君はその程度の存在さ」

 


 少し、むっとした。そりゃあ、あたしよりその《銀色の少女》のほーが大切なのかもしれないけど、別にんな事嫌味ったらしく言わなくたって、わかってるよ。

 


「で、何なの」


「僕は夢を操る者。アイツは夢を喰らう者。君の悪夢を喰らって吉夢を贈ろうっていう魂胆さ」


「へ・・・・・・?」


「今日が何の日か忘れたの? だって今日は君の――― 、」

 


 


 俺たちと出逢った三色の色。灰、銀、蒼。そして俺らは黒、彼女(ピアノ)は白。


 全部に触れて、俺は変われる。

 


「灰色には感謝を」


「銀色には愛情を」


「蒼色には祝福を」


「黒色には憎悪を」


「白色には音色を」

 


 ・・・・・・さて、《もう一人の黒》は《蒼色の少女》に《祝福(ハッピーバースデー)》と言ってあげたかな。




END

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 ・・・・・・俺のところに来たってことは、もう解っちゃったのかな? 予想より早かったね、さすがだよ。まあ、少し落ち着いて。紅茶、飲む? ああ、飲まないか。そうだよね、俺が何を入れるか解らないもんね。砂糖かもしれないし、牛乳かもしれないし、塩かもしれないし・・・・・・青酸カリかもしれない。
 まあ、戯言はこれくらいにして・・・本題に入って貰おうか。キミが俺に何をしに来たのか、重々解っているつもりだけど・・・一応、ね。確認だよ。

 
・・・・・・ふーん。これは驚いた。そこまで解ってしまったなんて、驚きだ。まあ、一部間違っているけどね。別に俺は彼女の為にやったんじゃないよ。自分の為、それだけ。俺は快楽主義者だからね。
 それにしてもさぁ・・・そろそろ気付いて欲しいな。ん? 何のことかって? ―――あはは、やっぱり所詮、キミはキミでしかないね。その程度の人間ってことだ。その程度の人間が、そこまで解ったなんて奇跡に等しいよ。

 あはははははッ、やっと違和感に気付いたかな? ねえ、微かに匂うだろ? キミがよく知っている、俺らの身近な匂い。この前なんか、彼女と俺のせいで学校中がこの匂いに覆われていたよね。
 ―――やっと解った? そうさ、鉄の匂いだよ。表情が変わったね。面白いなぁ、ほんと。くくっ、ほんとキミって面白い。

 誰から発せられている匂いだろうね? ああ、言っとくけど俺は知らないよ。彼女がやってるんだ。そういうこと、彼女がいるんだよ。キミも馬鹿だよね、一人でここに来るなんて。俺が黙ってキミに殺されるとでも思った?
 それにね、俺に対して復讐しようったって、そんなの馬鹿げた話なんだよ。だって、解るだろ? キミは知っている筈だよね。俺は俺が楽しむ為ならば、俺自身が快楽を味わう為ならば、何だってするけどね。でも、大抵は自分の手を汚さない。そういう、狡賢くて汚い人間だよ、俺は。


 キミじゃあ彼女には勝てないし、てーか、俺にも勝てない。ごめんね、俺、思ったことははっきり言うタイプだからさ。とりあえずさ、言って良いかな? キミってほんと、甘いよね。それに臆病で弱虫だ。
 え、何? キミも俺に言いたいことあるの? 何、言って良いよ。どーせキミ、ここで死ぬんだし。ほんと、悪いと思ってるよ。キミのことはそれなりに好きだったんだ。だけどこんなことになってしまって。でもまあ、後悔はしてないけどね。だって俺、そーゆー人間だから。だからさ、言って良いよ? ほら、もう時間が無い。彼女の足音が聞こえるよ。


 ―――「      」



 ・・・・・・・・・・・・・・・まさか、キミからそんな言葉を聞く、なんて、思ってなかったな・・・ちょっと、いやマジで、本気で、驚いてる。何を言えば良いか、解らなくなった。キミがそんな言葉を言える人間だとは、思ってなかった・・・。
 人間って、最期には何だってするもんなんだね・・・はは、ちょっと怖いかも。なんかこのあと最悪なことが起きそうだよ。

 ・・・あ、来たね。待ってたよ。ねえ、結構潔いよ、あれ、予想の範疇だった? まあ、いいや。とりあえず、殺しちゃって?
 



 ―――私が最期に見たのは、笑いながら泣いている男の姿だった。

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 時計を見て、と彼女は言った。
「止まってるわ」
 僕は、ああ、と小さく呟いた。凄まじく、どうでもいい。
「あと1秒で12時・・・」
「今は、11時28分49秒だ」
「知ってるわ。止まった時計のことを言っているのよ」
 あの時計は世界の終わりを示そうとしているのよ、と彼女が呟いた。僕は、それを黙って聞いていた。彼女はとても聡明だけれど、時々少し―――変、なのだ。
「あの時計が12時を示したら、この世界は終わるのよ」
「違う。そんなわけがない。もうあの時計は止まってるんだから」
「違わないわ」
 ―――世界は、あの時計であと1秒で終焉を迎えるのよ。
「はっ、」
 莫迦莫迦しい。世界の終焉? ノストラダムスの予言、とでもいうのか?
「ほんとうよ。貴方は、信じないのね」
「当たり前、だろ」
「じゃあ、賭けをしましょ」
 ―――もし、あの時計が動いて12時を示したら私の勝ち。示さずに今日の12時を迎えてしまったら貴方の勝ち。
「12時まであと29分46秒だな」
「賭け、やるのね?」
「ああ」
 現在11時32分22秒。止まった時計が動くはずが無く、またもし動いたからといって世界が終焉を迎えるはずが無い。
「―――世界が終焉を迎えたら、人類と世界はどうなるんだ?」
「渦に呑み込まれるのよ。あとには何も残らないわ。記憶も、歴史も、夢も」
 やはり、莫迦莫迦しい。
「あと、何分?」
「24分38秒」
「貴方ってほんとうに面白いわね。時間を正確に感覚として受け取ることが出来るなんて」
 時計要らずね、と彼女は笑う。
「別に・・・そんなに役には立たない」
「立つわよ」
 世界があと、23分7秒で終わってしまう。彼女曰く。ほんとうに、莫迦げた話だ。彼女は愛する人が死んでからこうなってしまった。
 ―――彼女にとっては、世界はもう既に終わったも同然なんだろう。今更、世界が終わったなんて話彼女には他愛も無い。愛する人が死んだときに、彼女の世界は終焉を迎えた。だから、ほんとうに今更、だ。
「もうすぐね」
 まるで待ち遠しいとでもいうかのような声で、彼女は言った。
 ―――僕は、代わりにはなれなかった。彼女の愛する人の代わりには。なりたかった、とても。だけど、叶わなかった。
「世界は、」
 ―――もしかすると。
「絶望に、」
 ―――僕の世界も。
「染まって、」
 ―――あのとき。
「いたわ」
 ―――終わっていたのかもしれない。
「絶望・・・」
「そうよ」
 いつの間にか僕の脳は11時58分51秒を示していた。あと、1分9秒。
「世界は終焉を迎えるわ。あの時計は動く。動くのよ。動いて、終焉を迎えるのよ。終焉を迎えて、世界をほんとうの絶望に染めるのよ」
 まるで願うように、彼女は言った。
 ―――あと、44秒。
「何秒?」
「39秒」
「何秒?」
「37秒」
 ―――空白。
「・・・何秒?」
「11秒」
「何秒?」
「9秒」
 ―――空白。
「何秒?」
「3秒」
「何秒?」
「1秒」
「―――世界が殺されたわ!!!」
 時計は―――動く―――なんてことはなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「―――莫迦じゃないのか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「僕らの世界はとっくのとうに、絶望に染まって終焉を迎えてる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「今更、なんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかってたわ」
 わかってた、と彼女の薄い唇が呟く。わかってたわ、わかってたんだから。わかってたのよ。
「うん」
「わかってたんだから、わかってるわよ。わかってるんだってば!!!」
「うん」
 彼女の長い睫毛が揺れ動いた。
「わかって―――」
「うん」
 ―――終焉は、過ぎ去った。

END


お題...
scy.topaz.ne.jp/...酸性キャンディー

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 一際目立つ少女が居た。

壁の花は暗殺者

 人形のように、という形容が正しい美貌を持つ少女が居た。細く流れるような黒髪に、鋭い金色の瞳。肌は陶器のように白く、黒髪がよく映えた。
 これまで何度もパーティ、舞踏会には訪れていたが、この少女を見るのは初めてだった。深い紫色のドレスがよく似合っている。
 彼女は幾度もダンスに誘われていた。だが、その美しい金色の瞳で睨みつけ、恐ろしいほどの殺気を一瞬だけ振りまき、全て断っている。どうやら壁の花を決め込むつもりらしい。本人の意思で来た様子ではなさそうだ。
 声をかけてみようか、とは何故だか思わなかった。今になって、それは自分が無意識のうちに、彼女の本質を察していたからだとわかった。ほんとうに、無意識で。
 パーティは終焉を迎えようとしていた。そのとき、照明が消えた。ざわめく人々、悲鳴を上げる貴婦人、落ち着いて、と叫ぶ主催者。それを、テラスから酷く冷めた目で眺めていた。
 照明が消えてから、二分も経っていなかった。金属音・・・刃物のような音を、耳が拾った。悲鳴と、何かが斬れるような音。びちゃ、という不快音も。
 そしてそれらが一斉に止んだ。瞬間、照明がついた。
―――血。
 パーティ会場は血の海と化していた。その血の海の中央に、あの人形のような美貌を持つ少女が立っていた。右手には、銀色に煌く剣。左手には、黒色に輝く拳銃。少女は鮮やかな紫色のドレスの裾を翻し、自分に近づいてきた。拳銃を血の海に投げ捨て、剣を振りかざし、そして―――
 ―――それからの記憶は、もうない。

FIN


fluid.hiho.jp/ap/...不在証明

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