忍者ブログ
せんそうとへいわ
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

第一話

 

裏社会に君臨する、《絶対権力者》と謳われる皇帝というものが存在する。その皇帝が居ると噂される、政府の拠地の(ビル)


その塔がある首都の市場で、一人の少女が走っていた。


 少女はわき目も振らず、ただひたすらに走り続けていた。黒髪は乱れ、眼にも鮮やかな紅いシルクハットは地面に転げ落ちる。その少女の後ろから、黒い人影が迫っていた。


「はぁ、はぁ・・・」


 走っても走っても、追いかけて来る黒い影。少女はシルクハットと同色のエプロンドレスを翻し、延々と走り続けていた。


「くっ・・・」


 もう駄目だ。少女の腕を、黒い人影が掴む。と、そのときだった。


――― 走って!」


 黒い人影ではない、誰かの腕が、少女の左手を掴み細い路地へと引っ張った。咄嗟のことに、少女はされるがままに路地に転がり込んだ。


「大丈夫ですか? お嬢さん」


 少女の腕を掴んだ者は、一瞬少年にも見紛う(かんばせ)に、柔らかい微笑を浮かべていたそしていつの間に拾ったのか、落としたシルクハットを少女の頭に優しく被せた。


「僕は(すい)と言います。怪しい人間ではないので、安心して下さい。どこか怪我はありませんか?」


「大丈夫・・・有難う。あの、黒い奴等は・・・?」


「もう、大丈夫だと思いますよ。見て御覧」


 恐る恐る、少女が路地から顔を出すと、一人の青年が刀を手に立っていた。その周りに、少女を追いかけていた奴等が倒れ臥している。


 青年は静かに刀を鞘に納めると、顔をこちらに向けた。蒼と紅の瞳が鋭く光る。


「弱かったな」


 冷たい表情を浮かべて、青年がこちらに向かってきた。どうやら、翠と名乗った少女の仲間らしい。


「いつも通り、お見事」


 翠が青年に、にこりと微笑みかける。先程からその笑みは、全く崩れていなかった。


「何があったのかは知りませんが、無事で何よりです」


「あ、うん・・・本当に、有難う。助かった」


「それは良かった」


 翠が笑みを崩さないのに対し、青年は眼を細めて少女を見ている。その表情からは先程の冷たさは消え失せ、単なる好奇心のようであった。


「・・・紅いシルクハットに紅いエプロンドレス・・・紅い少女・・・深紅の魔女・・・?」


世賭(せと)?」


 どうやらこの青年は世賭と言うらしい。


世賭はやがて、思い出したかのように口を開いた。


「お前、《暗黒のアリス》じゃないか?」


「・・・え?」


 そうだ、と世賭は頷く。少女の表情に翳りが見え出したことには気付かず、彼は話を続ける。


「僕も詳しくは知らない。紅いシルクハットに紅いエプロンドレスを身に纏う、最強の少女。二つ名が大量にあって、《暗黒のアリス》に留まらず《下剋上のアリス》や《千年魔術師》、《最強君主》、《深紅の魔女(スカーレット・ウィッチ)暗黒の女王(ダーカーオブクイーン)》、《血染めのアリス》と様々。とにかく最強だって噂だ」


 そんな少女が何故、ここに。しかも何故奴等に追われていたのか。


「何故、戦わなかった? 最強と謳われる存在のお前が」


 少女は深紅の瞳を妖しく光らせ、自嘲するかのような笑みを浮かべた。


――― 時は2765年。表社会という平和な世界とは真逆に存在する、何もかも“在り得る”世界である裏社会。その裏社会に君臨する《絶対権力者》の皇帝。その皇帝の座を狙う裏社会の者たち。刀や剣をぶら下げている貴方たちは、裏社会の者ね。それならば知っているはず。今、裏社会の風潮が何と呼ばれているか」


 現在の裏社会の風潮――― 《第二の下剋上》。下位の者が上位の者の地位や権力をおかす風潮。


「私は強い。だけど皇帝の座なんていらないの。そんな人間は、今の裏社会では邪魔だってことぐらい、わかるでしょ? だから私は戦わない。そう、決めているの」


――― 邪魔な存在は邪魔者として引っ込んでいよう、とは見上げた精神だ」


 世賭が小さくふっ、と笑い、少女を見据えた。翠もまた笑顔を一切崩さない。


「分別ある人間なんですね、お嬢さん。感心しました」


「え・・・えっと・・・?」


「お名前、何と言うのですか?」


 少女は困惑しつつも、アリカ、と名乗った。


「アリカちゃん、ですか。では、家まで送りますね。方角はどちらでしょう?」


「え、あの・・・今の話聞いて、何も思わないの・・・? 恐がったりとか、莫迦にしたりとか・・・それに、家まで送るなんて危ないよ?」


 途端に世賭と翠は同時にくっ、と喉を鳴らし吹き出した。困惑するアリカを余所に、翠は柔らかい笑みを浮かべてアリカの頭に手を載せる。世賭は薄い笑みを浮かべて、とん、と路地の壁に背中を預けた。


「何も思わない。お前が言っただろう、裏社会というのは何でも“在り得る”世界だ。何を今更、だ」


「危ないのも承知ですよ。今の裏社会は強い奴を見つけたら潰す。それに加えて、貴女は狙われている。その狙っている者に僕らは眼をつけられたでしょうね。でもそんなこと僕らには関係ないんです」


「つまりは―――


―――
そんなものも全て、どうでもいいってことだ。

「っ、くく・・・」


「?」


 アリカは紅いシルクハットを目元まで下げ、身体を震わせた。


「あははははッ!」


「あ、アリカちゃん?」


「あははッ、気に入ったぁ・・・気に入ったよ!」


 空気が一瞬にして変わり、アリカはシルクハットを元の位置に戻し、ぎゅっ、と世賭と翠の手を握り締めた。その様子の変わりように、世賭と翠は呆気に取られてアリカを見つめる。


「そうだ、貴方たち旅人なんだよね? ということは、宿が必要ってことだ!」


「え、ああ・・・まあ」



――――――― ねえ、私のうちに来ない?


 ――― 瞬間、世界は真逆の方向へと動き出した。


...第二話に続く



ついに始動しました、下剋上のアリス・・・もとい、下剋上シリーズ。
1、2年ほど前に書いたものを修正したものとなっております。このたびまたアリカたちを書くことになって、うきうきしてる次第です←
基本的には修正前と私的にはあまり変わってないのですが、修正前を読んだことのあるかたはもしかするとかなり変わったな、と思うかもしれません。
ちなみに第四話はまるっきり変えます。完璧に変えます(予告

なにぶん不定期更新なので、いつ第二話をうpするかわかりませんが・・・下剋上のアリスを宜しくお願い致します。

拍手[0回]

PR
コメントを書く
お名前
タイトル
メールアドレス
URL
コメント   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
パスワード
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
 HOME | 22  21  20  19  18  17  16  15  14  13  10 
Admin / Write
Calendar
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
Profile
Name:在処(arika)
Sex:女
Birth:H7,3,22
Job:学生
Love:小説、漫画、和服、鎖骨、手、僕っ子、日本刀、銃、戦闘、シリアス、友情
Hate:理不尽、非常識、偏見
Twitter
NewComment
[08/17 在処]
[08/16 曖沙]
[08/16 曖沙]
[08/15 在処]
[08/15 曖沙]
Counter

FreeArea
FreeArea
Ranking
ブログランキング・にほんブログ村へ

にほんブログ村 小説ブログへ

にほんブログ村

人気ブログランキングへ

Barcode
忍者ブログ [PR]