「止まってるわ」
僕は、ああ、と小さく呟いた。凄まじく、どうでもいい。
「あと1秒で12時・・・」
「今は、11時28分49秒だ」
「知ってるわ。止まった時計のことを言っているのよ」
あの時計は世界の終わりを示そうとしているのよ、と彼女が呟いた。僕は、それを黙って聞いていた。彼女はとても聡明だけれど、時々少し―――変、なのだ。
「あの時計が12時を示したら、この世界は終わるのよ」
「違う。そんなわけがない。もうあの時計は止まってるんだから」
「違わないわ」
―――世界は、あの時計であと1秒で終焉を迎えるのよ。
「はっ、」
莫迦莫迦しい。世界の終焉? ノストラダムスの予言、とでもいうのか?
「ほんとうよ。貴方は、信じないのね」
「当たり前、だろ」
「じゃあ、賭けをしましょ」
―――もし、あの時計が動いて12時を示したら私の勝ち。示さずに今日の12時を迎えてしまったら貴方の勝ち。
「12時まであと29分46秒だな」
「賭け、やるのね?」
「ああ」
現在11時32分22秒。止まった時計が動くはずが無く、またもし動いたからといって世界が終焉を迎えるはずが無い。
「―――世界が終焉を迎えたら、人類と世界はどうなるんだ?」
「渦に呑み込まれるのよ。あとには何も残らないわ。記憶も、歴史も、夢も」
やはり、莫迦莫迦しい。
「あと、何分?」
「24分38秒」
「貴方ってほんとうに面白いわね。時間を正確に感覚として受け取ることが出来るなんて」
時計要らずね、と彼女は笑う。
「別に・・・そんなに役には立たない」
「立つわよ」
世界があと、23分7秒で終わってしまう。彼女曰く。ほんとうに、莫迦げた話だ。彼女は愛する人が死んでからこうなってしまった。
―――彼女にとっては、世界はもう既に終わったも同然なんだろう。今更、世界が終わったなんて話彼女には他愛も無い。愛する人が死んだときに、彼女の世界は終焉を迎えた。だから、ほんとうに今更、だ。
「もうすぐね」
まるで待ち遠しいとでもいうかのような声で、彼女は言った。
―――僕は、代わりにはなれなかった。彼女の愛する人の代わりには。なりたかった、とても。だけど、叶わなかった。
「世界は、」
―――もしかすると。
「絶望に、」
―――僕の世界も。
「染まって、」
―――あのとき。
「いたわ」
―――終わっていたのかもしれない。
「絶望・・・」
「そうよ」
いつの間にか僕の脳は11時58分51秒を示していた。あと、1分9秒。
「世界は終焉を迎えるわ。あの時計は動く。動くのよ。動いて、終焉を迎えるのよ。終焉を迎えて、世界をほんとうの絶望に染めるのよ」
まるで願うように、彼女は言った。
―――あと、44秒。
「何秒?」
「39秒」
「何秒?」
「37秒」
―――空白。
「・・・何秒?」
「11秒」
「何秒?」
「9秒」
―――空白。
「何秒?」
「3秒」
「何秒?」
「1秒」
「―――世界が殺されたわ!!!」
時計は―――動く―――なんてことはなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「―――莫迦じゃないのか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「僕らの世界はとっくのとうに、絶望に染まって終焉を迎えてる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「今更、なんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかってたわ」
わかってた、と彼女の薄い唇が呟く。わかってたわ、わかってたんだから。わかってたのよ。
「うん」
「わかってたんだから、わかってるわよ。わかってるんだってば!!!」
「うん」
彼女の長い睫毛が揺れ動いた。
「わかって―――」
「うん」
―――終焉は、過ぎ去った。
END
お題...scy.topaz.ne.jp/...酸性キャンディー
一際目立つ少女が居た。
壁の花は暗殺者
人形のように、という形容が正しい美貌を持つ少女が居た。細く流れるような黒髪に、鋭い金色の瞳。肌は陶器のように白く、黒髪がよく映えた。
これまで何度もパーティ、舞踏会には訪れていたが、この少女を見るのは初めてだった。深い紫色のドレスがよく似合っている。
彼女は幾度もダンスに誘われていた。だが、その美しい金色の瞳で睨みつけ、恐ろしいほどの殺気を一瞬だけ振りまき、全て断っている。どうやら壁の花を決め込むつもりらしい。本人の意思で来た様子ではなさそうだ。
声をかけてみようか、とは何故だか思わなかった。今になって、それは自分が無意識のうちに、彼女の本質を察していたからだとわかった。ほんとうに、無意識で。
パーティは終焉を迎えようとしていた。そのとき、照明が消えた。ざわめく人々、悲鳴を上げる貴婦人、落ち着いて、と叫ぶ主催者。それを、テラスから酷く冷めた目で眺めていた。
照明が消えてから、二分も経っていなかった。金属音・・・刃物のような音を、耳が拾った。悲鳴と、何かが斬れるような音。びちゃ、という不快音も。
そしてそれらが一斉に止んだ。瞬間、照明がついた。
―――血。
パーティ会場は血の海と化していた。その血の海の中央に、あの人形のような美貌を持つ少女が立っていた。右手には、銀色に煌く剣。左手には、黒色に輝く拳銃。少女は鮮やかな紫色のドレスの裾を翻し、自分に近づいてきた。拳銃を血の海に投げ捨て、剣を振りかざし、そして―――
―――それからの記憶は、もうない。
FIN
fluid.hiho.jp/ap/...不在証明
赫い夢を射て
青の世界
菫色閃光
緋色の天使
藍の不在
黒い雨に撃たれて
白い太陽を殺す
狼は銀を喰らう
犬は紅を眺めて
猫は紫と遊ぶ
兎は黒を殺し
狐は朱が憎い
鴉は白に染まる
哂う黒と白
怒る青と緑
泣く赤と黄
嘲る紫と茶
眠い紺と銀
昔と比べて、世賭はよく笑うようになった。にっこりと、微笑む。だけどその笑みは、ニセモノだ。
殺戮輪舞曲【サツリクロンド】
―――殺戮。むごたらしく多くの人を殺すこと。また、今の世賭がやっているようなこと。
―――輪舞曲。主題が同じ調で繰り返される間に異なる楽想の副主題が挿入されるもの。つまり、繰り返すこと。
―――翠。①翡翠(かわせみ)。②翡翠の羽の色。みどり。③世賭の幼馴染のこと。
私は静かに世賭の後姿を眺めた。世賭は優しい微笑を浮かべながら刀を振るって、人をたくさん殺している。
「もうやめれば、世賭。マジで世賭、おかしくなっちゃうよ」
もうなっているけど。
「うるさい」
「あ、そう」
世賭は笑みを浮かべながらそう言う。ニセモノの笑み。
「アリカはわかってない」
「は? わかりたくないし」
私は世賭と、昔みたいに接することが出来なくなった。ニセモノの笑みを浮かべて殺戮を繰り返す世賭と、昔みたいに接するなんて無理だ。
「私、先に帰るよ」
「好きにすればいい」
また、刺した。斬った。殺した。
「昔の私より酷いじゃない。いくらなんでも私、あんな殺しはしなかったよ」
私は一人でぶつぶつと呟く。血があまり好きじゃなかった世賭は、ならべく返り血を浴びないようにしていたけれど、今の世賭はばんばん浴びる。自ら浴びようとしている。信じられない、あんなの世賭じゃない。
にこにこニセモノの笑みを浮かべて殺戮を繰り返す世賭なんて世賭じゃない。誰だよ、アレ。私、あんなの知らない。
「なあ、アリカ。殺戮って楽しいな」
振り返りもせず殺戮を続けながら、世賭は私に言った。私は立ち止まらない、振り返らない、絶対に。何なの、黙れよ。消えてしまえ。お前なんか世賭じゃない。
こうやって人は壊れていくのだな、と私は思って、密かに泣いた。
「戻ってきてよ、翠」
生まれ変わってもう一度、世賭に逢いに来て。
END
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Sex:女
Birth:H7,3,22
Job:学生
Love:小説、漫画、和服、鎖骨、手、僕っ子、日本刀、銃、戦闘、シリアス、友情
Hate:理不尽、非常識、偏見