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せんそうとへいわ
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...後編


  16歳の誕生日を迎え、ソルトは“メタトロン”での地位が上がり、幹部クラスに入ることとなった。しかし、幹部クラスに入っても、今までとなんら変わりなかった。一人で任務をこなし、人を殺す。他の幹部クラスの人々にも逢わせて貰えず、ソルトは一人苦しんだ。そして、こう思うようになった。
 他の幹部クラスの奴等に逢ってしまったら、きっと仲間意識が生まれてしまう。そうしたら、俺の手で仲間を穢してしまう。だから、これで良かったんだ
―――と。
 実際はそんなはずもなく、ただヴァルヴァレス家が“メタトロン”の上の人にそう命じていただけの話だった。そしてそれを、セシルは知っていた。だがそれを言うことは許されず、もし許されていたとしても
―――セシルには、言えなかっただろう。余計悲しみを背負わせてしまうことになる、と、そう思っていたから。
 他の幹部クラスのメンバーが、新たに幹部クラスに入ったにも関わらず、一度も顔を見せないソルトに対してどう思っていたのか
―――それはまた、別の話。

 “メタトロン”の任務とは別件で、直接ヴァルヴァレスから任務が入った。とある中小マフィアを壊滅しろ、という内容だった。
「壊滅・・・か」
 気分が酷く沈んだ。壊滅させるということは、少なくとも十人以上の人間が死ぬということだ。それに加えて、いくら中小マフィアとはいえこっちは一人だ。失敗する確率が高い。失敗、つまりそれは
―――
「俺は、死んでも良いって言うことか」
 わかっていた。ヴァルヴァレスに、セシルの父に、自分がどう思われているか。重々承知しているつもりだった。だが
―――やはり、心が痛い。面と向かって死ね、と言われるよりも、ずっと。
 だが、ソルトは割り切ってしまっていた。所詮、自分は汚らわしい暗殺者。犬死にしたって誰も悲しみやしない。ならば任務で死ぬ、というほうが様になるではないか、と。
 大切な仲間が出来ないまま、死んだ方が、俺にとっては・・・良いのだ、と。

 「っ・・・は、」
 少量の血を吐き、ソルトは壁にもたれかかった。こんなことをしている場合ではないことはわかっていた
―――まだ敵は残っている。だが、体力的にも精神的にも、限界が近付いていた。
 敵は恐らく、あと数人。だがその数人が、ソルトを苦しめる。
(本当に・・・ここで死ぬ・・・か)
 
―――誰も、助けてはくれない。たった一人、孤独と絶望を。
「くっ・・・」
 眼が霞んだ。黒いわだかまりが広がる。脳内が赤に染まった。
 敵が近付いてくるのを感じた。ソルトは、ぎゅっ、と愛剣を握り締める。
(せめて、任務は成功させよう)
 そしたらヴァルヴァレスの望みどおり
―――死んでやろうじゃないか。
 
―――たった一瞬。残りの力を全て使い切るように、ソルトは、敵を全て斬り倒した。
(・・・ほら、ヴァルヴァレス)
(ちゃんとあんたらの言うとおりにしてやった)
(マフィアを壊滅させて)
(そして俺も
―――)
 
―――そして、ソルトは意識を失った。

 知らない天井だった。
「え・・・?」
 柔らかいベッドの感触。痛む身体を押さえながら、ソルトはベッドから起き上がった。
(・・・ここは、どこだ)
 知らない部屋。広い部屋だった。どうして自分がここにいるのかもわからず、ソルトは困惑した表情で部屋を見回す。
(傷もちゃんと手当てされている・・・)
 白い包帯が綺麗に巻かれ、しっかり消毒もされているようだった。血に汚れた剣も、どうやら洗われたらしく、綺麗な状態でベッドの横に立てかけてある。
 カチャリ、と扉の開く音がして、ソルトは一瞬身を強張らせた。ソルトよりも年下であろう少年の顔が現れた。
「あ、」
 少年はソルトを見て小さな声を漏らすと、扉の方に引き返していった。
「姉さん、起きたみたいだ」
 やがて、ソルトの部屋に先程の少年よりも少し大人びた顔の少女が入ってきた。さっきの少年の姉であろう、面影が少し似ている。
「傷、痛みますか? えーと・・・お名前は、」
「あ、ああ・・・大丈夫だ。俺の名前はソルト・ヴァルヴァレス」
「ソルトさんですか・・・良かった」
 少女は年相応の柔らかい笑みを浮かべて、ベッドの近くにあった椅子に座った。
「あの・・・俺を助けてくれたのは、君か?」
「ええ、そうです。因みに手当てをしたのは秦
―――あ、さっきの男の子です。私の弟」
「そう、か・・・有難う。その、弟君にもそう伝えておいてくれ」
 この少女が自分を助けてくれたのか、とソルトは思った。でも何故、裏社会とは縁のなさそうなこの少女が、あの場に
―――あの、惨劇の場に? たまたまあの屋敷にいただけだろうか、マフィア関係ではなく訪れていた可能性だってありえる。
「驚きました。あのファミリーを倒したのは、貴方ですよね? たった一人で、こんな傷だらけになって・・・」
 
―――ファミリー。それは、マフィアを指す言葉だ。思わずソルトの顔が驚きに変わる。
「君、は・・・マフィア関係者・・・なのか? まだ、そんな幼いのに・・・」
「ええ。そうですね、普通は驚きますよね。でも、もっと驚くと思いますよ」
 
―――私は、ヴェンタッリオファミリーのボスです。
「ヴェンタッリオファミリー・・・の、ボス・・・?」
 名前だけは、聞いたことがあった。確か、イタリアの超最大手マフィアの同盟ファミリーだ。そのヴェンタッリファミリーのボスが、この子。この、優しそうな
―――柔らかい少女が、ヴェンタッリオファミリーのボス。
「・・・本当に、驚いた」
「でしょう?」
 クス、と少女は小さく笑って、そしてすっ、と真剣な表情に変わった。
―――どうしてたった一人でマフィアを壊滅させようとしたんです? いくら中小マフィアとはいえ、とても危険なことです。私がたまたま助けなければ、死んでいたのかもしれないんですよ?」
「・・・・・・任務で、な」
「任務・・・!? こんな危険な任務を、たった一人に背負わせられたのですか・・・!?」
 その反応を見て、つくづくこの子は優しい子なのだな、と場違いなことを思った。裏社会では浮いてしまうような、“純白”。
「俺はヴァルヴァレス家の人間でな、暗殺業のほうを任されている。俺はヴァルヴァレスでは邪魔者扱いされているから、こんなことはよくある」
 いつの間にか、そんなことまで喋ってしまっていた。
「そんな・・・酷い」
 少女の表情が翳ったのを見て、ソルトは言わなければ良かった、と後悔した。“純白”と評せるようなこの少女にそんな顔をされると、心が痛む。
―――ソルトさん」
 少女が顔を上げた。ソルトをすっ、と見据え、口を開く。
「ヴェンタッリオファミリーに入ってくれませんか?
「・・・え?」
 少女は先程の翳りが嘘のように、にっこりと笑みを浮かべた。温かくて柔らかい、あの笑みを。
「血の繋がった人間を邪魔者扱いして、わざと危険な任務に行かせるようなところになんていなくていいです。殺しをしたがっていない人間に、無理矢理やらせようとするところになんていなくていい。孤独を怖がっているような人に、孤独を味合わせるようなところになんていなくていい。自分をもっと大切に出来るようなところにいなきゃ駄目です。
 だから、私と一緒に来て下さい。私たちならそんなこと、そんな思い、絶対させません。ファミリーの絆は絶対です。だから、」
 
―――私の、仲間になって下さい。
 ソルトの全てをたったこれだけの時間で悟った少女は、優しい白い手を伸ばして、ソルトに微笑みかけていた。
(・・・・・・穢してしまうかもしれない)
(何にも染まらない真っ白なこの少女を)
(それはとても恐ろしいことだ)
(・・・だけど、)
 
―――この手に、触れたいと。そう、思ったのだ。
「・・・・・・Avec plaisir,volontiers.」
 少女の表情が、ぱっ、と輝いた。
「Mon nom est Rei Hasuren. Enchante!」

 ―――ヴェンタッリオファミリーのボスである蓮漣麗と出逢って、ソルト・ヴァルヴァレスは確かに変われた。
 ヴェンタッリオファミリーに入ったその後、ソルトは自らヴァルヴァレス家当主の元へと出向いた。
「俺は、ヴァルヴァレスから抜けます」
「ヴァルヴァレスの人間ではない、と公式にそうなさってくれて構いません」
「今後一切、俺はヴァルヴァレスには関与しない」
 そう宣言した。何を言われても、もうこれ以上何も言わずに黙って出て行こう、そういう思いを込めて。
 だが、当主が言った、たった一言の言葉は、ソルトが予想していた言葉とは全く違うものだった。
「別に構わない。好きにすれば良いだろう。元々私はお前のことをヴァルヴァレスの人間と認めてなかった」
「だが
―――
「・・・・・・ヴァルヴァレスを名乗ることを、許してやる」
 苗字がなくては困るだろう。そういって、口元に薄い笑みを浮かべた当主の顔。初めて見る、当主の笑みだった。
「さっさと去れ。お前はもう、公式にはヴァルヴァレスの人間ではないのだからな」
 
―――好きではなかったヴァルヴァレスが、セシルの父親が、ほんの少し―――好きになれた。そんな瞬間だったように思う。

 大切な仲間が出来た。自分が何もかも全て捧げても良いとさえ思う、大切な仲間が、大切な人が。凄く、凄く自分は幸せだ。
 だからこそ、幼い頃から血が染み付いて、穢れた自分の手で彼女に触れるのが恐ろしくてたまらない。今でもやはり、自分が穢れているのは変わらないから。だから、自分が触れることで、何にも染まっていない純白の彼女が、仲間が、穢れてしまうような気がして。
 そんなことを言ったら笑われるだろう。怒られるかもしれない。だが、やっぱりソルト
―――この幸せを自分が壊してしまいそうで、それがとてつもなく恐ろしくて、そしてまた、自分が仲間を穢してしまいそうで、どこか一歩退いてしまう自分が―――憎い。
 でも、ソルトは知った。どこにでも絶望は侵蝕している。孤独に、絶望に呑み込まれる人間は多い。だが、どんな人でも絶望に染まらず生きていけることが出来るということを。
 まだ触れることが出来なくても良い。ただ、護ることさえ出来れば、今はそれで良い。
(この手で彼女に触れることは、許されないかもしれないけれど)
(いずれ―――)


END



お題提供:不在証明
http://fluid.hiho.jp/ap/

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...前編


 ソルト・ヴァルヴァレスにとって、“今”はとんでもなく―――数年前の自分にとって見れば、ありえないくらい幸せだ。たった一人で穢れ続けながら孤独を味わうことなく、仲間たちと共に過ごせるなんて、数年前ではありえなかった。
 だが今の自分にとっては
―――この最高すぎる幸せを自ら壊してしまいそうで、それがとてつもなく恐ろしくて、どこか一歩退いてしまう自分が憎くて―――
たまらなかった。
 それはやはりソルトのもともとの性格がそうだからでもあり、また数年前の孤独がそう感じさせているのである。
 そう、今から語るのは、ソルト・ヴァルヴァレスの6歳から始まり今に続く物語。

 この世界には、表の世界と裏の世界がある、とソルトは思っていた。表の世界―――表社会では、絶望を知らない世界が広がっている。裏の世界―――裏社会は、絶望に塗れた世界だ、と。だが表社会だろうが裏社会だろうが、どこにでも絶望は侵蝕していて、そして表社会だろうが裏社会だろうが、絶望に染まらず生きていけることが出来るということを、この頃のソルトはまだ理解していなかった。
 6歳という幼きソルト少年は、この年にして“完璧な”絶望を味わっていた。この上なく甘美なまでの絶望を、知り得ていたのだ。
 ソルトの家、ヴァルヴァレス家は、それなりに由緒ある家柄だった。また、裏社会に通じていて、暗殺業も少々
―――否、かなり嗜んでいる家でもあった。
 ソルトの母はヴァルヴァレス当主の妹で、父は亜米利加人と中国人の混血だった。ヴァルヴァレスは仏蘭西人であるから、ソルトも父と同じく混血児となってしまった。
 先程述べたとおり、ヴァルヴァレスはそれなりに由緒ある家であったために
―――混血児であったソルトは、あまり良い思いをしなかった。表立って騒がれたことはなかったが、やはり少し疎まれる面があったのだ。つまりは、ソルトは正式にヴァルヴァレス家の人間とは認められず―――暗殺業のほうに、身を置かされたのである。
 それが、ソルトの6歳の頃の記憶。父は亡くなっており、母はソルトと逢うことを許されず、ソルトはただ一人孤独を、絶望を味わった。幼い自分の身体が血に穢れていくのを、じっと見つめて、また、穢していく。自らの手で、自らの意思がないままに。
 ソルトは、ヴァルヴァレス家が関与している、戦闘員育成用軍事機関“メタトロン”に無理矢理配属され、一人で殺しを行う日々を過ごしていた。今では、“メタトロン”の幹部にまで上り詰め、たくさんの仲間と共に楽しい日々を送っているが、あの頃はそうではなかった。
 そんなソルトの姿を見て、“メタトロン”の中央庁特別管理委員会委員長を務めている、ソルトの従兄であるセシル・ヴァルヴァレスはいつも思っていた。どうして俺が当主ではなかったのだろうか、と。自分が当主であったならば、ソルトをなんなく受け入れ、こんな幼い背中にヴァルヴァレスの全ての絶望を背負わせたりはしないのに。
 だが
―――セシルには何も出来なかった。セシルは当主ではなかったし―――
セシルの父こそが、ヴァルヴァレス家の当主であったから。だから、セシルには何一つ、出来なかった。
「ソルト、」
 一度だけ、仄かな願いをこめて。セシルはソルトに言った。
「ヴァルヴァレスから逃げてしまえば良い。新しい仲間を作れば良い」
 セシルは今でも覚えている。あのときソルトが答えた言葉を、一字一句間違えることなく、ちゃんと覚えている。
「俺にそんなことは出来ないし、したくない」
「っ・・・どうして、」
「新しい仲間が出来たとして、そしたら俺はどうすればいい? 血が染み付いて穢れきったこの手で、この身体で、大切な人を守りたくない」
 ソルトばかりが穢れているわけではなかったのに。だというのにどうして、そんなにも自分が穢れていると言うのかと、セシルはそう思った。
 だが、それは仕方の無いことだった。混血児で、ヴァルヴァレスでは忌み嫌われ、その上ヴァルヴァレス自身が一歩引いてしまう暗殺業に身を置き、戦闘員育成用軍事機関に配属して、血に塗れたソルト・ヴァルヴァレスという人間は、ソルト自身にとって最も穢れた存在でしかなかったのだ。自分が自分に触れることも恐ろしく思うくらいに。
「だからこのままでいいんだ」
 当時7歳ももう終わりを迎えていたソルトは、そう言ったのだった。

 黒いわだかまり。いつからこんな汚らわしいものが自分の中に生まれたのだろう、と12歳のソルトは思った。気持ち悪い、吐きそうだ、と。
 その黒いわだかまりは、よく見れば紅いものも混じっている。ああ、これは血だ。しかも、返り血だ。自分が殺してきた人々の血が、こんなにも染み付いてしまったのだ。
 自覚はあった。だけど、こんな感覚に陥るほどにまでなってしまったなんて。
(・・・誰にも触れてはならない)
 何もお前にやってやれない、と嘆いていたセシルにも、幽閉されて今はどうなったのかさえ知りえない母にも、いずれもしかすると自分にも出来るかもしれない、大切な人にも
―――自分は、触れることが出来ない。否、触れてはならない。
 だが、ソルトは恨んではいなかった。ヴァルヴァレス家も、セシルの父もセシルも、自分の父も母も、恨んでなどいなかった。だけど、ほんの少し
―――ヴァルヴァレス家とセシルの父が嫌い。自分の父が、母が、遠く感じる。セシルが羨ましい。そして何より―――自分が疎ましい。混血児だからといって、ソルトが胸を張って生きればヴァルヴァレス家の意見も変わってくれるに違いないのに、自分はそれすらも出来ないのだ。ただただ、自分が汚らわしく疎ましい。
(殺しをやっている人間の中で、俺が一番汚らわしい)
 自分が、とてもとても
―――
大嫌い、だった。

 漆黒に広がるわだかまりはさらに広がり、ソルトを蝕む。穢れていく、芯から芯まで。ソルトの優しさが仇となって、それはどんどんどんどん加速して、覆い尽くす。
 その漆黒に、一筋の光が差し込んだのは
―――ソルトが16歳のときだった。


後編に続く...

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...Bullet 001...


 「Uno、

 銃声が鳴り響く。
「Due、

 少女はただひたすら銃声の中を疾り続ける。
「Tre、
Quattro、
 少女は弾丸をものともせず突き進む。
「Cinque、
Sei、Sette、
 少女は、護られているから。
「Otto、
Nove、
 だから少女は、護られる為に、護る為に。
「Dieci!!」
 ―――疾り、続けるのだ。
 「全く、私は下がっていてと言ったじゃないですか!」
「すまん」
 とある屋敷の昼下がり。その屋敷の一室で少女が、少女よりも年上であろう青年を怒っているという、奇妙な光景が見られた。
「私を護ってくれるのは、助かりますし何より嬉しいです。でも、私だって貴方を護っているんです。それなのに貴方という人は・・・ソルトさん!!」
 ソルト、と呼ばれた青年は、申し訳なさそうに眼の前の少女―――もとい、己の大切なボスである蓮漣麗から眼を逸らした。
「だから、すまなかっ―――
「では済まないんですよ、ソルトさん! もし致命傷になっていたらどうするつもりだったんですか! そう考えたら私は恐ろしくて恐ろしくて・・・っ」
「だが、このとおり大丈夫であったし・・・」
「でも怪我を負ったじゃないですか!!」
 麗はソルトの身体を指差した。麗の言うとおり、ソルトの頬には大きな絆創膏が貼られ、首から右腕にかけて包帯が巻かれている。服に隠れて見えないが、身体中かすり傷だらけだ。
「まあ、そう・・・だが・・・」
「はぁ・・・ソルトさんはもう良いです・・・・・・葵さん、昴君!!」
 今までソルトの隣でクスクスと笑いあっていた少年二人―――もとい、麗率いるヴェンタッリオファミリーでソルトたちの仲間である紫俄葵、桐城昴―――は肩をびくりと震わせ硬直した。
「貴方たちもです! そんなに怪我してクスクス笑っていられるなんて・・・っ」
「ご、ごめん」
「ごめんね、ボス」
 ソルトに負けず劣らず、二人もかなり怪我を負っていた。服の間からやけに白く見える包帯が、さっきから見え隠れしている。
―――貴方たちは・・・」
 麗は静かに俯き、小さな声で呟く。
「キングを護るナイトでもビショップでもルークでも、ましてやポーンでもない・・・私の、大切なファミリーです
 ―――貴方たちが、ファミリーがいるから、私は疾り続けることが出来る。
「・・・麗、」
「貴方たちがいなくなってしまったら、私はどうすればいいんですか」
「ボス、」
「絶望の中、そうなったら私は生き続ける自信がありません」
「麗ちゃん、」
「だから、お願いですから、私のせいで怪我をしたりなんかしないで下さい」
 お願いですから、と・・・彼女は、繰り返した。高級そうな絨毯に、ぽたりと滴が落ち染みを作る。
―――麗」
 ソルトは柔らかく、麗の頭を撫でた。
「俺たちはお前のせいでいなくなったりなんか、絶対にしない・・・するつもりなんか毛頭ない」
「出来る限りずっと、ボスの傍でボスを護るし」
「ずっと麗ちゃんに護られるよ。だって僕らは、」

「「「ファミリーだろ?」」」
 はっ、と少女は顔を上げ、そして照れくさそうな笑みを浮かべて涙を拭った。
「そう・・・ですね。ファミリー、ですもんね」
 それはとても柔らかく。彼女が彼らと出逢った時に見せたものと同じ笑みを、彼女は、浮かべた。甘く柔らかく温かい笑みを。それはまるで―――

 
白い背中はバニラの匂い
(え、ちょ、姉さん何で泣いてるの・・・!?)(あ、秦。何だお前、いなかったのか?)(・・・殺す!)

お題提供:酸性キャンディhttp://scy.topaz.ne.jp/

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 空白の10秒間。
                                                White of mine


 善だとか悪だとかは、一体誰が決めるのだろう。いつだったか、そんなことを思った。
『それはお前次第だよ』
 そう答えたのは誰だったか。顔だけが塗りつぶされているかのような残像しか、頭に浮かばない。
「じゃあ・・・私は、どっちなんでしょう・・・」
 真っ白い壁にとん、と背中を預け、ずるずると真っ白い床に崩れこむ。まともな思考が出来ていない。
 
―――いつの間に、こんなことになってしまったのだろう。私の世界は、こんなものではなかった筈なのに。
「・・・助けて」
 誰か私を助けて。ダレか、わたしヲ、タス、けて。
「ああ・・・」
 大好きだったあの人たちは、一体何処に行ってしまったの。ここは、一体何処なの。
「教えて下さい・・・ねえ、誰か・・・」
 記憶に残る大好きで大好きで、大切なあの人たちとは誰なのか。そして、私は誰なのか。
 
―――真っ白い世界にいる、と認識したあの日。カラメル色の髪をした男性が、私にこう言った。
『貴女は大事な人を何人も亡くして、ショックで記憶を喪失してしまった。だから貴女をここに入れた』
『ここは何処なの・・・?』
『教えられない。ただ一つ言っておく、貴女をここに入れたのは俺だ』
 もう逢うことはないだろう、そう言って男性は去った。最後に見た彼の表情は、酷く苦しげだった気がする。
 あれから何ヶ月だったのだろう。それとも、何年?
「私は一体誰なの・・・?」
 
―――そして今日もまた、私は失われた記憶に思いを馳せる。


お題提供:酸性キャンディーhttp://scy.topaz.ne.jp/

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 ―――嫌な予感、というのはよくあるものだ。あのときも、例外ではなかった。
「すみません、任務…です」
 ヴェンタッリオファミリー現ボスで、僕の上司である蓮漣麗に呼び出されて、そういわれた。ここまでは、いつもどおり。
「宜しくお願いします」
 僕は任務内容の書かれた書類を受け取り、一礼して部屋を出ようとした。そのとき、僕は違和感に気づく。ボスの表情が、どこか曇っていることに。
「…どうかした…?」
「あ、いえ…なんだか、凄く嫌な予感がして…」
 嫌な予感。彼女の嫌な予感はとてもよくあたる。彼女が信頼している、同盟ファミリーのボス並みの直観力だ。
「で、でも予感ですから…気になさらないで」
「わかってるよ」
 それに、と僕は付け加えた。
「僕はそれ相応に覚悟しているんだよ―――三年前からね」
「え?」
「じゃあ、行って来るよ」
 僕は柔らかい笑みを浮かべて、答えないまま部屋を出た。
 ―――嫌な予感は、僕も感じていたんだ…ボス。
 任務はあっさりと終えた。これでもヴェンタッリオファミリーの幹部であり、立派な守護者だ。この程度の任務など簡単。
「疲れたな…」
 簡単では合ったが、数が多かった。身体が重い。
(早く帰ろう)
 嫌な予感はだんだん膨らんで来ていた。さっさと帰って、ボスを安心させたい。
 ―――だが、その願いは叶わなかった。
「っ…?!」
 銃声。そして、肩に走った激痛。
 ―――撃たれた。
「くっ…」
 まだ、残っていたのか。もう全員殺してしまったと思ったのに。
(どこだ…どこにいる…?)
 姿が見えない。誰だ、誰が撃った? どこにいるのだ?
「ここだよ」
「!!」
 自分の口から、どばどばっと血が吐き出される。後ろから、刺された。
「お、まえ―――ッ…!!」
「悪いね。こっちも任務なんだ」
 見知った顔。嗚呼、敵対ファミリーの幹部の一人だ―――
「Ciao!」
 走馬灯、なんて僕は見なかった。ただ、ボスの顔と同僚の顔が浮かんできただけ。
 人は死んだ後が厄介で、とても迷惑をかける。僕も例外じゃない。
 きっとボスを悲しませて、泣かしてしまうだろう。ボスの弟である泰はそれを見て胸を痛めるだろうし、ソルトさんは僕の遺体の処理や葬式の準備等で忙しくさせてしまうだろうし、レンはそれを手伝う。昴はきっと無表情に、僕とボスの為に花を買いにいくだろう。
「っ…」
 ―――三年前。僕は仲間たちより一足早く死ぬことを予感した。そしてそのとおり、僕は皆より早く逝く。なんて無様な生き様だろうか。
「……れ…」
 麗、とボスの名を呼んで、僕は―――死んだ。
 僕の名を呼ぶ、ボスの声が聞こえた気がした。初めて呼ばれた、あのときの声が。柔らかくて、少しだけ強張ったような、緊張した声で。それでいて、甘い甘い優しい声で。
                  “葵さん”
 柔らかく甘い、涙が零れた。
 
END


お題提供...
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